287話 地下室付き一軒家
〜勇者<マサル>side〜
身勝手な正義を振りかざして<恵のダンジョン>へ乗りこみ、多くの人に迷惑をかけた以上、相応にキツイ条件を突きつけられると思っていたけど……
魔王<メグミ>は甘すぎると言っていいほど、優しい条件を提示してくれ、俺は驚きで目が点になった。
「(今回の件はどう考えても俺に非があって、しかも攻略すら道半ばでの停戦。普通は呪いの一つや二つ、楔として打ち込まれてもおかしくねぇ状況だ)」
なのに彼が、ここまで寛容な条件を提示してくれたという事は……先程のメッセージにあった、「俺達が争うほど教会の利になる」点を重視しており……
一時は自分の命を狙った俺に甘くしてでも、教会との争いに備えたいのだと思う。
「寛大なご提案、感謝いたします。異論はございませんので、コチラで進めてください」
いずれにせよ、魔王<メグミ>が自ら"無垢な民"を虐殺しに行かない限り逆らう気はないので、条件はありがたく呑ませてもらった。
「本契約は、決して破れぬよう第三者の縛りによって結ばれる」と書かれていたけど、魔王<メグミ>は誰かのサポートを受けているのだろうか?
それとも、彼女と言われている魔王<サーシャ>がそういう能力持ちで、勇者の俺を縛れるほど優秀だったり?
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勇者殿
承知いただき感謝する。
それでは、この条件で停戦協定を結ぶゆえ、契約の準備ができるまでの間、貴殿は<オアシスフロア>でくつろいでいてくれ。
約束したとおり、公衆浴場の近くに貴殿専用の家を用意したから、そこを使ってくれればいい。
勇者殿が教会から支給されていた屋敷に比べれば粗末だが、手形認証が鍵の代わりとなる構造ゆえ、セキュリティー面では勝っているぞ。
コチラの準備が整い停戦協定を結び次第、<オアシスフロア>を32階層から0階層へ戻し、出入り自由な状態にする。
現在<恵のダンジョン>は、大規模な襲撃を受けることなく地上も平和ゆえ、勇者殿の行動を制限するつもりはない。
魔王<メグミ>
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「(メッセージカードと一緒に、携帯電話と充電器も同封してくれたのか。スマホじゃないから操作し辛いけど、自由に連絡できるだけでもありがてぇぜ)」
だけど……この世界には電波塔なんて無いのに、どうやってデータを飛ばしているのだろう?
この充電器だって、「マナで蓄電可能」と書かれているし……一見"日本の商品"だけど、中身はファンタジーだな。
身近なようで全然違う代物を見て、改めて「異世界で暮らしていること」を実感した俺は、魔王<メグミ>……いや、今後は<メグミ殿>と呼ぼう。
祭壇に取り付けられたモニターの向こう側にいる、メグミ殿に礼を言ったあと、用意された俺専用の家へと向かった。
<オアシスフロア>にある家の多くは、鉄筋コンクリート製の安アパートであり、質より数を重視して造られている。
とはいえ、スラム街の家々と比べれば圧倒的に頑丈だし、トイレや洗面台も完備されているので、住民からすれば「100点の家」だろう。
俺も日本にいた頃の記憶があるから、"安アパート"とか思っちまうだけで……コッチの基準だと、一般市民が住む木造住宅よりは快適だしな。
「う〜ん。地図が指す位置的に、俺の家は……コレか?」
しばらく歩いていくと、目の前に「外から見えない高さの壁で周りをグルリと囲まれた、コンクリ造りの小さな屋敷」が一軒建っていた。
小さいと言っても一人で住む分には問題ないサイズだし、迷惑をかけた俺が特別待遇で貴族みたいな屋敷をもらったりしたら、それこそ大顰蹙なので……
防犯面と住民の感情、両方に配慮してくれたメグミ殿には、頭が下がる思いだ。
<−−− ピーーー。ガチャ! −−−>
「お邪魔しま〜す。うわっスゲェ、サラリーマン時代に一人暮らししていた時を思い出すなぁ〜」
家の間取りは、玄関を入ってすぐ15畳程の客間があって、その奥にリビング・ダイニング・キッチン。
さらに奥には、キングサイズのベッドが入った寝室があり……って、あれ?
「このクローゼット、隠し扉になっているぞ! まさか……」
努めて冷静を装うものの、秘密基地を探検するガキのような厨二心が騒つくまま、隠し扉の奥にあった階段を降りる。
すると其処には、「教会からもらった屋敷と比べても遜色ない、豪華な生活空間」が用意されていた。
「(この場所も、俺の家って事でいいんだよな? だとすると、メグミ殿がオアシスフロアの住民にバレぬよう配慮して、地下に豪邸を造ってくれたのか?)」
ぶっちゃけ住むだけなら、上の"小ぢんまりした家"で十分なのだが、厄介者の俺にも心を配ってくれる、メグミ殿の優しさが嬉しい。
つい先日、魔法師<リーナ>・槍使い<サラ>・斥候<キラリ>に裏切られたばかりなので、尚更その優しさが心に沁みるよ。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






