286話 熱血勇者と冷静な魔王
〜メグミside〜
勇者<マサル>がいい感じに絆されれば、停戦協定に繋げやすいと思った僕は、アイツの心に寄り添う形でメッセージを送付。
するとアイツはコチラが引くくらい男泣きして、とんでもない事を言い出した。
『魔王<メグミ>殿……停戦の申し入れ、受けさせていただきます。条件については一切文句を言いませんので、其方でお決めくださいませ』
「(うわぁ〜。コイツ、絶対また誰かに騙されるじゃん! その男気、一生他人に騙されていいように使われるから、改めた方がいいよ)」
もし僕が悪い魔王で、本当に鬼畜な条件を組み込んだら、オアシスフロア幹部も聞いているなか宣言しちゃったコイツは、どうする気だ?
と呆れたが……彼女に振られた心の傷がまだ完全に癒えておらず、勇者もメンヘラ気味になっているのだろう……と思い直す。
コチラとしては、最初から理不尽な扱いをする気などないし、<恵のダンジョン>から解き放たれた勇者がまた誰かに騙されたら、その時は自業自得。
異世界出身とはいえもういい大人なんだし、何度でも痛い目を見て身体で覚え、老練な猛者に成長すればいいんじゃない?
そんな事を考えつつ、僕は前もって決めていた停戦協定の内容を、勇者<マサル>へ送付。
「お互い受け入れられる範囲で協力しつつ、基本的にはオアシスフロア以外の立ち入りを禁止する方針」を伝えた。
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〜その1〜
本契約は、決して破れぬよう第三者の縛りによって結ばれる。
〜その2〜
勇者<マサル>は、恵のダンジョンにおいてオアシスフロア以外の立ち入りを禁ずる。ただし魔王<メグミ>が正式な書面にて許可した場合、この限りではない。
〜その3〜
勇者<マサル>がオアシスフロアに滞在する時は、前日までに魔王<メグミ>に連絡を入れることとする。なお、連絡手段の携帯電話は魔王<メグミ>から支給される。
〜その4〜
事前に要請があった場合、勇者<マサル>と魔王<メグミ>は互いに軍事同盟を結び、相手を支える努力をする。ただし双方が納得できない理由の場合、要請を断ることもできる。
〜その5〜
勇者<マサル>が定価の10倍の金額を払うことを条件に、魔王<メグミ>は勇者<マサル>へ、公に販売されていない自販機商品を販売する義務を負う。ただし武器および医薬品等、使い方を誤れば人災が起きる物品については、理由を説明したうえで断る権利を有する。
〜その6〜
魔王<メグミ>は、オアシスフロアに勇者<マサル>用の私室を用意して、勇者<マサル>が生涯そこで暮らせるよう備える。ただし過度な同伴者の連れ込みは、たとえ相手が一般女性であったとしても、"戦力"とみなして拒否する権限をもつ。
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ちなみに……その6で「女性の連れ込み」を制限しているのは、アイツがハッチャケ過ぎて、サーシャの癇に障ったときの為の保険だ。
僕自身は、どんな形であれ<オアシスフロア>の人口が増えてくれれば御の字だし、監視もオートマタが行うので奴等のハッスル映像を見るつもりもない。
だけど僕はサーシャ至上主義なので、彼女が一言「キモくて耐えられない。追い出して!」と言ったら、直ちに追放できるよう……
あらかじめ、契約事項に盛り込んでおく必要があったのである。
「ふ〜ん。私も勇者の<ピー>に興味なんてないから、眼に触れなければどうでもいいけどね〜」
「あっ、サーシャお帰りなさい! お仕事お疲れ様です!」
「ふふふっ。お疲れさまです♪ それより、私や<農民>同盟の先輩方への凸は禁止しないの? この人、ムダに正義感強いから凸っちゃうかもよ?」
「あぁ、その事なんだけどさ……」
停戦協定に「特定ダンジョンの凸禁止」を盛り込んでも良かったが、「そこに名を連ねる=僕の味方」だと勇者にバレてしまうので……
もし万が一、勇者が裏切って再度僕等に刃を向けたり、バカすぎて教会に情報を抜かれた場合、コチラの秘密が漏洩してしまうので明記は避けた。
と言っても、「悪い魔王が治めるダンジョン」扱いで凸られても迷惑だから……
今後のやり取りの中で、「僕が善良だと思っている魔王には、お前の能力を粗方伝えちゃった」と暴露し、アイツに「ステータスを知られた」と理解させる。
ある種"脅し文句"のようだけど……停戦協定を結ぶ前のバチバチ期間なら、親しい魔王と情報共有するのは当然のことだし……
実際に勇者<マサル>の情報は、サーシャや<農民>同盟の先輩方に筒抜けなので、今更アイツが彼等のダンジョンへ突撃しても自滅するだけだろう。
「なるほど。メグミ君、相変わらず悪辣〜。魔王しているね♪」
「ふふふっ。勇者の能力を知ってすぐ、アイツにとって相性最悪のフロアを量産した、サーシャ程じゃないよ♪ 僕は、波風立てず穏やかに生きたいだけ〜」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






