284話 勇者<マサル>の独白
〜メグミside〜
32階層に到達した勇者<マサル>が、<オアシスフロア>の住民と接するうちに<恵のダンジョン>の良さに気づき、それに伴い感情も揺れたため……
村長さんの勧めに従って、神殿の前に座り独白を始めた彼の声を、コチラも真剣に聞くことにした。
ちなみに……僕は彼処の幹部にだけ、「勇者の態度によってはアイツを許す可能性もある」と話しており、理由もそのとき添えて伝えた。
その話は数日経たずに広まって、<オアシスフロア>の大人全員が知るところとなったが、"モンティート先輩との関係"等は秘密にしているよ。
『なぁ、魔王さんよ。俺は最初、アンタのことを"日本から来た転生者"だと思ったんだ。この世界で銃を使う奴なんて、転生者しか考えられなかったからな』
ふむ。
たしかに<自販機>は、「勇者が元いた世界の商品を自動で売ってくれる機械」だし、この世界の物とは技術レベルが違うので、彼が疑うのも無理はない。
以前モンティート先輩からも、その点について注意を受けたし……日用品の自販機は仕方ないとはいえ、それ以外の能力開示については僕も避けてきた。
「でも、あれ……? なぜ勇者は、僕が"銃"を使ったなんて分かったのだろう? 僕は<恵のダンジョン>で、コイツに発砲などしていない筈だけど」
『魔王<ユアン>がつくり上げた<伏龍のダンジョン>を調査したとき、俺は"壁にめり込んだ銃の弾"を見つけた。思えば、アレが全ての始まりだったな』
むっ、全て取り除いたと思っていたのに……証拠を残してしまったのか!
それはコチラのミスだし、今後同じような愚行を犯さぬよう、モンスター達に徹底させないといけない。
『当時の俺は教会に洗脳されていて、"魔王=悪人の末路"って認識だったから、魔王側に転生者が与するなんて許せなかった』
「…………」
『それに、銃なんて強力な武器を使える転生者が魔王側で暴れたら、民間人にどれだけの被害がでるか。俺は、恐れで視野が狭くなっていたんだ』
その結果、自販機繋がりで僕が「転生者のくせに魔王側に与した極悪人」だと思い、学園都市で個人情報を調べたあと凸ってきた……と。
『学園都市でクラス全員が魔王落ちした事件を知り、しかもソレが2年連続で起こったと聞いて、俺は"魔王=悪人の末路"って説に疑問をもった』
そりゃあまぁ……高等学舎に通う年頃の子供が、クラス全員「救いようもない程の極悪人」なんて可能性は、そうそう無いもんね。
ロミオット、ホムビッツ、ナステックあたりのイジメっ子は、その基準に引っかかるかもしれんが、少なくとも「サーシャを悪人扱い」はあり得ない。
『それで調べていくうちに、国や教会が隠蔽工作をしていた事や、アンタの祖先が勇者だっただけで、アンタ自身は転生者じゃない事が分かった』
おぅ、そうか。
それが分かったのなら、大人しく帰って教会の犬を続け、<恵のダンジョン>には関わって欲しくなかったよ。
『だけどお前が、銃持ちの危ない奴なのは変わらないし、民への危険度を測るという意味でも、俺自身が一度乗り込んで調べるべきだと思った。そして……』
そして?
『もしレッド判定だったら、俺が<恵のダンジョン>を滅ぼすことが、この世界の安寧に繋がると、当時の俺は本気で思っていたんだ』
なるほど、自分を"正義"だと信じて暴走したわけね。
『それで色々と準備をしたあと、一人でこのダンジョンに来たんだけど……予想していたのと違う部分も多くて、進むのには苦労した』
まぁお前、何度も情けなく絶望していたもんなぁ。
『その間に、ゴシップ誌とか動画を見せられて、完全に教会から切られたうえ彼女達にも捨てられたと知り、投げやりになったりもしたんだ』
はい。
リアルタイムで見ていたので、よ〜く知っています。
『だけどそういう目に遭う中で、俺の正義感は本当に正しいのか? 暴走して迷惑になっているだけじゃないか? と、疑問を持ってな……』
「…………」
『<オアシスフロア>で村長さん達と話して……覚悟が決まった彼等の心に触れて、間違っていたのは俺だと気付いたよ。迷惑をかけてすまなかった』
そう言って目を瞑った勇者<マサル>は、姿勢を整え、祭壇に向かって深々と頭を下げた。
別に謝罪してもらったところで、教会に目を付けられてしまった現状が変わる訳じゃないから、とっとと今後の話へ移りたいところだけど……
相手の気持ちを蔑ろにすると、また「だから魔王は〜」などと思われてモメかねないので、多少"寄り添う姿勢"を見せたメッセージを送る。
これで勇者<マサル>の心をつかみ、ゴタつくことなく停戦協定を結べるといいが……。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






