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282話 驚愕の選択肢


〜勇者<マサル>side〜




 日本のスーパー銭湯よりもハイクオリティーな公衆浴場を、銅貨数枚で利用させてもらった俺は、風呂上がりに自販機で牛乳を買って一気飲み。


 故郷を懐かしみながら快適な時間を過ごし、熱った身体を静めるために散歩した後、ここの村長であるクリークさんの元へ向かった。



「よぉ、勇者の兄ちゃん。風呂は気持ち良かったか? 便所臭は卒業したみてぇだな」


「はい。お陰様で、サッパリできました! <オアシスフロア>の住環境って、もの凄くいいんですね」


「あぁ。ここの魔王様は面倒見がいいからな。俺達でも払える価格帯で、金持ちさながらの生活をさせてもらえて、満足しているよ」



 なるほど。


 魔王<メグミ>の狙いは、生物が普段からチョロチョロ垂れ流している生命エネルギーを吸収し、ダンジョンポイント化することだから……


 <オアシスフロア>自体の金銭的収支は、赤字にならなければ構わないので、他所よりも福利厚生に力を入れられる。



 ここの住民達も、他所へ行けば家さえ買えずにスラム街を彷徨うしかない貧困層だから、小綺麗に生活できるこの環境を"天の恵み"と思っているのだろう。


 たとえ自らの生命エネルギーを、日常的に吸われていると知ったところで、垂れ流しで捨てているのを回収されているだけだから、困らないし……


 不満を持ってココを去る人は、いないだろうな。






「クリークさん、失礼ですが一つ伺っても?」


「おぅ、何だい?」



「魔王に組みしている裏切り者と罵られ、多くの人々から蔑まれてもなお、貴方達はココでの暮らしを選んだ。そういうの込みでも、満足……していますか?」


「勿論だ。大体よぉ。俺等は街で暮らしていた頃から"社会の爪弾き者"で、いつも底辺扱い。スリの冤罪を被せられても、誰も助けてくれねぇような立場だった」



「…………」


「そんな俺等が、今さら"裏切り者"云々言われたところで、傷つく訳ねぇだろ? 先に俺等を社会から追い出したのは、恵まれた人間共だ。裏切りもクソもねぇよ」



「なるほど。では……もし今後、<恵のダンジョン>が10万人オーバーの大軍に襲われたら……貴方達はどうします?」


「女子供を地下に隠して、俺等は命懸けで戦う。<恵のダンジョン>は家であり、クソ扱いされてきた俺達を"人として"受け入れてくれた、居場所なんだから」



「言い方悪くなっちゃうけど、死にますよ? クリークさんは腕に自信があるかもですが……」


「ん〜、まぁ仕方ねぇだろ。どのみち<恵のダンジョン>が滅んだら、俺等は居場所を失って餓死しちまうんだから、死ぬのが早いか遅いかの違いだ」



 うん。


 <オアシスフロア>の暮らしをこの眼で見たときから、何となく分かっていました。



 そりゃあ"自分の居場所"を守るのは当然だし……彼等の視点で考えると、先に自分達を見捨てたのは国や数多の国民達だから……


 何を言われても、軽蔑の念しか湧かないよな。



 そして俺も彼等視点で見ると、「勇者」ではなく「自分達の幸せな日々を奪おうとした冷血漢」なので……


 俺が恥をかかされたり、事実無根のゴシップをばら撒かれて炎上したとしても、心底「ざまぁ」と思えるのだろう。






「ところで、勇者の兄ちゃんはどうするんだ? アンタは俺等と違って金も力もあるから、その気になれば他でも生きていけるかもしれねぇが……」


 そう言いつつ、クリークさんはゴシップ誌をうず高く積みあげた。



「ここまで悪評をバラ撒かれちゃ、お前は身分を隠さない限りどの国にも入れねぇぞ。一生野山でモンスターを狩る、山賊さながらの暮らしが待っている」


「うぅ……っ!」



 酷い言われようだが……実際に俺のゴシップニュースを読んでいくと、人目につかない場所でしか暮らせないレベルで、炎上しているイメージが浮かぶ。


 雑誌や噂話で情報収集するこの世界の一般人は、きっと俺のことを「教会の金を横領したうえ、仲間の美少女を無理やり犯す鬼畜強姦魔」と思っただろう。



 こういうショッキングなニュースが世に出回ってしまうと、訂正するのは難しいし、権力を持っている教会や国が主導しているのだからタチが悪い。


 俺にできることは、海を渡って教会の影響力がない遠くの未開地へ行くか、クリークさんの言うとおり山賊モドキになるかの二択だ。



「唯一、マシな暮らしができるとすれば……お前もココの住人になるとか? 金は腐るほど持っているんだから、ここに住めば一生贅沢三昧できるだろう」


「えっ、俺が<恵のダンジョン>に住む!?」



 いやいや、まさか……あり得ない!


 だって俺は、ダンジョンを滅ぼそうと乗り込んできた勇者だぞ!?


 そんな奴に住まれたら、魔王<メグミ>だって枕を高くして眠れないし、絶対に俺を殺そうとするはずだ!!



 でも、俺にももう居場所がないのは事実なわけで……どうしよう?


 後先考えず余計な正義感で突っ走ったけど、こんな事になるなら、もっと落ち着いて準備をしてから行動すればよかった。

読んでくださり、ありがとうございます!


この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)

モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!

作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「なるほど。では……もし今後、<恵のダンジョン>が10万人オーバーの大軍に襲われたら……貴方達はどうします?」 ・・・って、お前がいうんかい! てなもんですね。 砂漠という僻地にある旨味の全…
[一言] はやく、「ゴメンナサイできて偉いねー」って 住民のこども達の前で笑って暮らせる未来が来るといいね あまり意地悪な幕引きがこないことを願うわ~。
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