281話 住民の皆さん、こんにちは
〜勇者<マサル>side〜
<恵のダンジョン>の代名詞とも言える<天国と地獄フロア>……通称<尊厳破壊フロア>を、チートごり押しでくぐり抜け……
鼻の穴に残ってしまったウ◯コ臭を、手持ちの香水で消しながら32階層へ降りた俺は、これまでと明らかに違う様子に目を見開いた。
「(人だ、人の気配がある! それにこの数……軽く万は超えるな。もしかして、此処が<オアシスフロア>なのか?)」
<恵のダンジョン>は、スラム街から流れ着いた貧民と共生している事でも有名で、彼等が住む<オアシスフロア>は普段"ダンジョンの外"にある。
しかし軍隊に攻め込まれた時など"有事の際"は、魔王<メグミ>が<オアシスフロア>を地下へ引っ込め……
共生関係にある住民を守る、という報告が上がっていた。
その特性を利用して、「貧民のフリをして<オアシスフロア>に潜りこみ、隙を見て<恵のダンジョン>を落とす」という作戦もとられたようだが……
ことごとく失敗に終わり諦めるしかなくなった、と資料には記載されていたはず。
「(っつ!? 今、人影が見えたぞ! 向こうも俺を警戒しているな。そりゃあ、俺と彼等じゃ戦闘力が違うし……無理もない)」
どれだけ自分の気持ちを伝えても、暴力で全てを支配して理不尽の限りを尽くせる猛者に、か弱い民が心を開かないのは当然だ。
彼等にも俺と話す気はあるようだし、まずは時間をかけて心の距離を縮め、本音を聞ける状態に持ちこむ!
そうして覚悟を決めた俺は、ゆっくりと彼等の住処がある場所まで歩いて進み、彼等のテリトリーに入らないギリギリの位置で待った。
相手の恐怖心や不安を煽るといけないから、武器の類は全て仕舞ったし、護衛担当のモンスターも喚び出していない。
一応、<スキル図鑑>で生み出した<心鏡>のギフト玉を食べ、探知能力を上げてはいるが……
たとえバカにされたり罵詈雑言を浴びせられようと、彼等を害する気は一切なく、<恵のダンジョン>で生きる彼等の本音を知りたいだけである。
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〜スキル図鑑〜
相手の許可を得ることで、スキルおよびギフトが図鑑に登録され、登録された任意の能力を一時的に模倣できる、特殊な<能力玉>を生みだせるようになる。
ただし<能力玉>をつくる際は、己の血とHPを対価として捧げる必要があり、事前準備ナシでは役に立たない。
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〜心鏡〜
対話している相手の心情を、自分にしか見えない鏡越しに知ることができる。
その状態でマナをこめて心鏡を砕くと、鏡に映っていた感情は一時的に壊れ、相手の本音を(限定的にだが)変えられる。
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「よぉ、アンタが勇者様かい? ゴシップ雑誌で有名になっているぜ。よく来たな」
「はじめまして。此処に住んでいる方ですか? 俺はマサル。よろしくお願いします」
「俺はクリークだ。一応、<オアシスフロア>の村長をやらせてもらっている」
なるほど、この人が<オアシスフロア>のまとめ役か。
強いかと言われると微妙だが……素人ではない、おそらく元冒険者か傭兵だろう。
「クリークさん。宿代は払うので、しばらくココに滞在させてもらえないですか? 雨風凌げる所で休みたいんです」
「ん? あぁ、いいぜ。兄ちゃんが押しかけてきたお陰で、俺たちゃ地下暮らしだし、行商人用の宿もガラガラなんだ。だから部屋、選び放題だぞ!」
おっ、おぅ……さっそく嫌味パンチをくらってしまった。
だけど俺が<恵のダンジョン>を滅ぼそうとしたせいで、彼等に不便な生活をさせたのは事実だし、言われても仕方ないな。
「アハハハハ……すみません。良さそうな部屋を選ばせていただきます」
「おぅ。荷物を置いて汗を流したら、酒でも酌み交わしながら話そうや。ココには、安酒も美味いつまみも無限にあるからよ!」
「はい。ぜひ、ご一緒させてください!」
地味に嫌われているようだが、なんとか村長さんとの初接触は上手くいった。
<心鏡>からも、彼の言葉は本心だと分かったし……初っ端から「出ていけ!」と言われなかっただけ良しとしよう。
そう思って、クリークさんの後に続き彼等のテリトリーへと入った俺は、<オアシスフロア>の住環境の良さに驚愕した。
「(マジかよ!? 酒・飯・服……全部、"日本と同じ価格・同じクオリティー"で揃ってんじゃん! しかも公衆浴場付きとか、天国すぎるだろう)」
31階層で散々<ウ◯コ砲>を浴びたせいか、身体にニオイが染み付いていたらしく、クリークさんに「とにかく風呂入れ」と耳打ちされた時は凹んだが……
砂漠の真ん中とは思えないほどお湯たっぷりな温泉を、銅貨数枚で利用させてもらえるなら、"ウ◯コマン"扱いくらい安いもんだ!
そう思えるくらいには、俺だって疲れたし……受け入れてくれた彼等に感謝している。
「(しかし……ここの通貨が、"バイト"じゃなくて"ロル"で良かった〜。内職フロアで多少稼いだとはいえ、"バイト"支払いなら貧乏暮らし決定だったぜ)」
とりあえず、久しぶりに好き放題使える"湯"を堪能して、風呂上がりにはキューッと一杯いかねぇとな♪
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






