276話 もし彼女があんなだったら……
見覚えのある景色に動揺する勇者<マサル>の気持ちなど無視して、魔法師<リーナ>・槍使い<サラ>・斥候<キラリ>による勇者の罵倒大会が始まった。
この3人は勇者の元パーティーメンバーで、所謂"ハーレム要員"だったから、アイツも無条件で信じているみたいだけど……
裏でこんな事を言われていたと知れば、勇者も傷つき色ボケから目が醒めるはずだ。
『あ〜ぁ、なんであんな粗チン野郎に惚れていたのかしら。お陰で出世ルートから外されかけるわ、同期の連中に蔑まれるわ。もう限界!』
『マジで最悪よね〜。なんとか次期勇者のパーティーメンバー候補に返り咲いたけど、最有力候補を潰さないと、私達に勝ち目はないわよ!』
『ホント、あの粗チン野郎は疫病神ね。大人しく、命じられた仕事だけこなしていればいいものを……とんだ貧乏クジを引かされたわ』
自分で放映するよう指示しておいてなんだが、この尻軽女3人は性根が腐っており、もし僕が勇者<マサル>の立場だったら自殺したくなると思う。
だって、(絶対にないと信じているけど)サーシャにこんな事を言われたら……全てに絶望して、生きる気力そのものが枯渇しちゃうもの。
「事実とはいえ、よくもまぁ"ハーレムしていた相手"のことを"粗チン野郎"なんて罵れたもんだな。自分達が"アバズレ"って言われたら、速攻キレるだろうに」
彼女達目線で考えると、「せっかく全てを賭けて勝ち馬に乗れたと思ったら、その"馬"が教会の意に沿わぬ行動をした」訳だし……
多少の悪口は許されると思うけど、それにしたって限度があるだろう。
『いや違う。きっとドッペルゲンガーが、彼女たちの容姿をマネて、俺を陥れようとしているんだ! そうに違いない!』
実際、3人の陰口を聞かされた勇者<マサル>は、ショックのあまり瞳孔が開き血の気も引いている。
勇者召喚でこの世界に連れてこられたことで、前の世界で築いたコミュニティーから強制的に切り離され、頼れる親兄弟もいないなか……
コチラで寝食(と夜の営み)を共にした恋人から、手酷く罵倒されたのだから、精神的にくるのも当然だ。
それでも、僕の目的である"停戦"へ誘導するために、この映像は最後まで流すけどね。
あいにく僕は、「僕を殺すために不法侵入した勇者」のために、必要以上の情けをかけるほど優しくはなれない。
『ハァ〜。次期勇者のパーティー候補になるのに、何人の幹部と枕営業するハメになったか! 奴等、足元見て小遣いケチってくるし』
『でも数打ったから軍資金にはなったじゃん。もし次期勇者のパーティーメンバーになれなかったら、引退して贅沢三昧するのもアリかもよ』
『まぁそうなったら出世は絶望的だし、ほとぼりが冷め次第抜けるのは良い案だと思うけど、一人になると"粗チン野郎"がヒモしに押しかけるかも』
『うわっ、最悪! もしそうなったら、寝ている間に毒でも飲ませて財布だけ回収するわ』
勇者<マサル>が絶望のあまり涙を流し始めても、映像の中でアイツを罵倒する3人は止まらない。
枕営業でハッスルしまくった時に、治らないタイプの性病にでもかかっている事を願うが、こういうクソ女ほど長生きする世の中なので嫌になっちゃうよ。
「メグミ君。疲れたんで、ちょっとだけ癒されに来ちゃった……って、えぇ〜!? メグミ君のバカァ! 美女の顔と胸元をドアップで映すのはダメ!!」
「アハハハハ。ゴメンね。このアバズレ3人は勇者<マサル>の彼女だし、"本人"って判別がつかないと意味ない場面なだけで、他意はないから!」
「むぅ……そうなんだ。疑ってゴメンナサイ」
まだ少し不満そうなものの、勘違いと分かり謝罪するサーシャを見ると、つくづく彼女が僕のパートナーで良かったと思う。
サーシャは肉食系女子だし腹黒い一面もあるけど、心根の優しい娘だし、男のことを「<財布>兼<後ろ盾>兼<マウントのネタ>」扱いなんてしないもの。
『財布を回収するより、寝首をかいて持って帰る方がよくない? 動けなくなるまで<ピー>させて、賢者モードのタイミングでちょん切れば一発よ』
『『たしかに!』』
『またあの粗チン野郎に抱かれると思うと虫唾が走るけど、"元勇者の首"にはそれだけの価値があるはず!』
『ついでに、アイテムボックスの中身も全回収♪ 文字通り"全てむしり取って"、私達は出世コースに戻りましょう!』
『『賛成!』』
魔法師<リーナ>・槍使い<サラ>・斥候<キラリ>の低俗極まりない発言を聞くうちに、サーシャからの疑いも完全に晴れ……
状況を把握した後、彼女は勇者<マサル>にひたすら同情していたため、ほんの少しだけ僕も嫉妬しちゃったけど。
<−−− 以上で上映を終わります。5000文字以上の感想文を書いて、提出してください −−−>
「よしっ。特級呪物の上映会終わり! サーシャ。甘いものでも飲んで休もうか」
「うん、そうだね。なんか見ているだけで疲れちゃったよ」
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






