273話 時短クリアの代償
〜勇者<マサル>side〜
「オェッ。こんなの、どう考えても"人間が食う飯"じゃねぇよ。ルール説明の"ダンマスが食った"云々、絶対に嘘だろう!」
いくらステータス的優位がある勇者とはいえ、スパイスをこんな量食ったら身体が壊れてしまうので……
俺は今回も、鬼畜料理を丹念に燃やして"炭の塊"にした後、吐き戻さないことを優先しつつ急ぎ目で完食。
そして勢いそのままに、レベル5として出された「ドブカタツムリの爆辛漬け」も、気合いと根性で食いきった。
<−−− レベル5のメニュー"ドブカタツムリの爆辛漬け"、完食おめでとうございます。制限時間内でのクリアは出来ませんでしたが、"生き残り"決定となります −−−>
何かの実のようなスパイスは、丹念に炙れば炭に変わるので大したことなかったが……ここの鬼畜料理には、塩もふんだんに使われているからなぁ。
塩の融点は約800℃。
それに……そもそも炭素が入っていないため炭化してくれないので、塩だけは毎度きちんと食うハメになり、たぶん余裕で致死量を超えたと思う。
<−−− 生き残った貴方には、報酬として"缶チューハイ"1本が与えられます。再チャレンジなさいますか? それとも、26階層へ進みますか? −−−>
「150円も出せば買えるチューハイのために、命をかけるバカなんざいる訳ねぇだろ! 当然、26階層へ降りる!」
<−−− かしこまりました。26階層へと続く階段および廊下は、モンスターが出ない安全地帯となっておりますが、1時間以上滞在すると強制失格になります。お気をつけください −−−>
「了解」
とりあえず……部屋から出たら水をガブ飲みして、体内の塩分濃度を下げるべきだ!
安全地帯で休めるなら、スライムに守ってもらいながら眠りたいが、飲みまくったら当然出るので、気をつけないとオネショしちまう。
しかも50分程しか休めないという事は、寝過ごしたら即失格なので……リスクもしっかりあると理解した上で、有意義な時間にしないと!
そう思った俺は、アナウンスを聞くなり25階層<早食いフロア>を脱して、階段を降り26階層の前まで来た。
そして胃の中にある「飯でも何でもない汚物」を吐き出して、魔法で出した水を3Lほどガブ飲みした後、ヒュージスライムに包まり仮眠をとる。
「(26階層は、<映画鑑賞フロア>という名の感想文地獄か。魔王<メグミ>が評価に値する良作を見せる訳ないから、どう5000文字を埋めるかの勝負だな)」
原稿用紙12.5枚分とか吐き気がするけど、「モンスターが出ない安全地帯」ってメリットもある訳だし、<汚物フロア>に比べれば可愛いもんだ。
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〜<映画鑑賞フロア>のルール説明〜
このフロアでは、挑戦者全員に素敵な映画を視聴していただき、その感想文を書いてもらいます。
視聴部屋の中は「モンスターが出ない安全地帯」となっておりますが、滞在時間が1日を超えると、延長料金(1日あたり1万バイト)が発生。
払えない場合、23階層に戻って<アルバイトフロア>で強制労働してもらいますので、財布と相談して滞在時間を決めてください。
感想文は、「5000文字以上で意見をキッチリ書けているもの」のみ受け付けます。
他の視聴者に意見を聞いたり、不正を行おうとした者にはペナルティーがありますので、誠意をもって取り組んでください。
連絡を取ろうとした段階で不正予備軍として注意し、注意2回でペナルティーとなります。
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それにしても…………1時間も休めないのに、燃えるようにケツが痛い……ヒリヒリする。
コレ絶対、25階層で食った鬼畜飯のせいだろ!
いくら"全部炭にした"といっても、刺激物は多少残っていたし、短時間で一気に食べたので、スパイスが腸内で暴れ回っているんだと思う。
「胃は無事っぽいのがせめてもの救いか。できればもう一眠りしたいけど、休み過ぎると糞する時間もなくなるし、仕方ない」
というか……鬼畜ダンジョンで1時間の猶予が設けられている意味って……たぶん「ここで出すモノ全て出しておけ」って"お情け"だよなぁ。
いや、あの鬼畜魔王が温情なんて与えるはずないから、ケツが爆発して咽び泣く挑戦者を見て、ケラケラと嘲笑うための空間なのかも。
「ハァ〜。せっかく安全な場所で休む時間を与えられたのに、これじゃかえって虚しいぜ。キレイなバラ風呂に浸かって、"パイ"に包まれていた日々が懐かしい」
その後、魔王<メグミ>の狙いどおりケツが活火山のように爆発し、叫ぶハメになった俺は、制限時間ギリギリで<映画鑑賞フロア>の門をくぐった。
そして……これから何時間も座ることになるイスが、「痔に優しくないカチンコチンの代物」だったことで、再び絶望するハメになる。






