262話 かじかんだ手を叩こう
〜勇者<マサル>side〜
「ようやく極寒地獄から抜けられる」と思ったところへ、もう一発"同じの"が来て心折れ、16階層の入り口で寝ちまった俺は……
護衛として召喚していた、ゴーレム達が戦う音で目が覚めた。
「何かあったら起こせ」と伝えてはいたけど……ここまでの戦力に狙われるのは想定外だし、ゴーレム達も俺に構う余裕がなかったのだろう。
「クソッ! 少しでも隙を見せたら、即"命を"狙ってくるとか……。ムカつくくらい優秀なダンマスだな、おぃ」
大急ぎで戦闘準備を整えてテントから出ると、監視カメラで俺を見ていた連中が"退却命令"をアナウンスして、敵がゾロゾロと引いていく。
きちんと"しんがり"を残して追撃による消耗を防ぎ、一糸乱れぬ足取りで退却していく姿は、さながら「訓練を受けた軍人」のようだ。
「いいよ、お前も引け! 大人しく引くなら、コチラは追撃しねぇから」
「…………ワカッタ」
味方のゴーレムが重傷を負っているため、どの道"逃げる敵を背後から狙う"余裕なんてないし、これ以上は時間が惜しいので"手打ち"を申しこむ。
"しんがり"を務めた敵方のグリフォンも、「戦っても勝ち目はない」と理解しているのか、コチラの申し出を受け入れサッと飛び立った。
「ヤベェ。<聖者の祈り>の効果が切れているわ。あと<錬金魔法>のスキル玉も必要だな……。よし、OK……いくぞ! パーフェクト・リペア!!」
身体が金属でできているゴーレム達を治療するために、<錬金魔法>のスキル玉を食った俺は、即刻"目的"を果たして彼等の召喚を解く。
ゴーレムは「頑丈さ」が売りのモンスターなので、心臓部にある魔石が無事で傷の修理も済めば、HPがギリギリでも時間経過で完全復活するのだ。
「<聖者の祈り>の再セットも完了! コイツは本来、途切れさせちゃダメなやつなんだけど……わずか数分だし、大丈夫だよな?」
魔王<メグミ>の狙いは、あくまでも「俺の命」であって「ダンジョンの魔改造」じゃない筈だし、影響は出ていない……と信じたい。
「うぅぅぅぅ、寒い!! せっかく休んで回復したのに、また身体の芯から冷えちまったじゃねぇか!」
戦いと後始末を優先している間に、俺自身を寒さから守る<変化>ギフトが解けてしまったので、慌てて新たなギフト玉をつくり口へと運ぶ。
敵の奇襲部隊は俺の命を狙うだけでなく、テント周辺の地面も"ハッカ油まみれ"にしやがったので、人間姿だと体感温度はマイナス20℃以下。
増血剤と仮眠で多少マシになった"血"を犠牲にしてでも、<変化>のギフト玉をつくらないと、俺は移動中に凍死して「冷凍ミイラ」になってしまうよ。
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〜メグミside〜
どんよりとした暗雲を背負って、一人歩き出した勇者<マサル>は、丸一日かかったものの五体満足で16階層を突破。
15階層・16階層と同じくらいキンキンに冷えた、17階層<リズムフロア>に絶望しながらも、極寒地獄突破を夢見てミッションに挑み始めた。
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〜17階層:リズムフロア〜
侵入者の、音感・リズム感を試すフロア。
ランダムに鳴らされる音を、正しく認識して再現する試練……楽譜を見ながら即興で歌う試練などがある。
各試練には、一人(または一体)ずつしか参加できない。
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抑揚のない声しか出せないゴーレムじゃ、速攻でミッション失敗となり地獄へ落ちるため、勇者<マサル>はゴーレム化を解かざるをえなくなり……
凍傷になりそうな極寒の中、手足を振るわせながら一生懸命頑張っている。
『痛っ! 痛ぇな、コレ……。ヒエェェェ……寒ぃ』
寒さで手足がかじかむと、"リズム取り"で手を叩くだけでもビリビリするため、色々ままならず大変そうだ。
このフロアを乗り切れば、18階層はまた"サバクゴキブリの飼育に最適な"灼熱地獄へ切り替わるので、勇者にとっては万々歳なのだが……
人間側には、11階層以降のフロア情報が出回っていなかった事もあり、アイツはまだその事実を知らない。
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〜18階層:ゴミ箱フロア〜
オアシスフロアの住民が捨てたゴミを、溜め込んでいるフロア。
制限時間内にゴミの中から、”鍵”となるオーブを探して台座に置かないと……天井からゴミや、9階層で余った汚物が降ってくる。
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「しかし、まぁ……イケメンのくせに歌まで上手いとか、"本物の勇者"だからって恵まれすぎだろ! 不能とハゲの呪いをかけてやる!!」
とはいえコチラの調べによると、勇者<マサル>は、"本命の彼女"だったパーティーメンバーに裏切られたばかり。
本人はまだ裏切りに気付いていないが……チートな才能の代わりに、環境ガチャでは「大ハズレ」を引いた感があるな。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






