261話 タダでは休ませないよ
かつてハイドン達が、部下の補助を受けて突破した極寒の砂漠を、力押しで単独踏破した勇者<マサル>は……
続く16階層<サボテンフロア>も、15階層と同じ極寒砂漠であることを知って絶望し、ようやく歩みを止めた。
「ふぅ〜。ようやく寝たか。もう少し早く落ちると思ったんだけど……やっぱり勇者って、基礎体力も規格外なんだな」
僕はアイツが召喚魔法を使わず、ゴーレムに化けてゴリ押しし始めた段階で、「15階層の途中で心折れる」と思っていたから驚いたよ。
「現在、勇者<マサル>を護っているのは、召喚されたオリハルコンゴーレム3体とミスリルゴーレム5体。…………潰せるか? いや……今は止めておこう」
仮にウチが総力を挙げて戦えば、この程度の護衛なら数分で倒せるけど、その間にアイツが目覚めて、手痛い反撃を受けるハメになる。
それに勇者<マサル>のMPが残っている限り、いくら倒したところで別のモンスターを召喚されるだけだから、トドメを刺し切れるかも怪しい。
「ハァ〜。今回のところは、アイツが"砂漠=灼熱地獄"という固定観念にとり憑かれて、極寒地用の備えをしてこなかった事が分かっただけ、良しとしよう」
たぶん人間側の資料に、10階層くらいまでの情報しか載っておらず、勘違いしちゃったんだろうけど、準備不足の代償は後々支払わせてあげるよ♪
「クククククク…………ッ!」
もしアイツが、"何らかの事情"によって能力玉を追加投入できず、<聖者の祈り>が途切れたら……
速攻で「<夜の砂漠フロア>と<サボテンフロア>が、20階層くらい連続しているエリア」を生み出してやる!
そこまで徹底すれば、体力オバケの勇者も途中で力尽きるはずだし……能力玉の対価として血を捧げすぎ、貧血になったところを仕留められるだろう!
寝ている隙に勇者<マサル>を仕留めるのは諦め、その代わりゴーレムを出動させて、16階層にジョーロで揮発性の油を撒いていると……
3時間近く経ち、勇者が目覚めるタイミングになったので、テントを囲むように<決死隊>を突撃させ、アイツが能力玉を食う暇を奪った。
『クソッ。寝起き早々襲撃かよ!』
もちろん護衛のゴーレム達と戦っている間に勇者は起きてしまい、<決死隊>に参加した勇敢なメンバーは、一体また一体と倒されていく。
しかし……
「よしっ、<聖者の祈り>が途切れた! 管理者権限、一時復活だ!!!!」
<恵のダンジョン>がこの時間稼ぎで得られた成果は大きく、僕はポイントの許す限り、限界まで<夜の砂漠フロア>と<サボテンフロア>を生み出した。
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〜聖者の祈り〜
純潔を守りとおし、"長い間"修行を積んだ聖職者だけが得られるギフト。
ダンジョンの改造阻害や、ダンジョン攻略時のステータスアップなど、熟練度によって叶う範囲が広がる。
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<−−− ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜ン、ポ〜〜ン♪ −−−>
『業務連絡、業務連絡。戦闘中の子は引き上げてください。繰り返します。戦闘中の子は引き上げてください』
勇者<マサル>が、<聖者の祈り>でダンジョンの改造を阻害している間に、ジワジワと貯まっていたポイントは全て使い切れたので……
僕は執事君に命じて、16階層に業務連絡のアナウンスを流し、生き残っている<決死隊>の子達を引かせる。
アイツの護衛モンスターも、何体か"囲まれて死ぬ寸前"まで追い詰められていたけど……
僕は「自ら志願して戦いに出てくれた忠誠心の高いモンスター」を、ムダ死にさせるなんて嫌だから、敵の死者を増やすより味方の犠牲を減らす方を選ぶよ。
「マスター。勇者<マサル>も追撃する余裕はなかったのか、新たな殉職者を出すことなく撤退できました」
「そうか。<決死隊>の子達には十分な量のポーションを与え、腹いっぱい食べさせて休養をとらせてくれ」
「お任せくださいませ」
ウチとの戦いが終わってすぐ、勇者<マサル>は能力玉を食べて<聖者の祈り>を復活させ、再び僕はダンジョンを改造できなくなった。
だけど、寝起きに奇襲をかけた目的までは把握できなかったのか……アイツは、負傷した召喚モンスターを治療した上で、再びゴーレムに化け移動し始める。
「いや……<恵のダンジョン>が特殊なだけで、一般的なダンジョンは"侵入者を倒せない=収入源枯渇で貧困化"だから……分らなくて当然か」
アイツが今いる16階層やその周辺は一切いじっていないので、探知能力を持っていたとしても、無反応である可能性が高いし……
これで「奇襲の狙いを正確に分析しろ」なんて、無理難題だ!
精々「3時間毎に"能力の息継ぎ"が必要なのがバレ、能力が切れ弱体化したタイミングを狙って、奇襲された」としか思えないはず。
だが、それでいい。
勇者<マサル>がコチラの真意に気付かないうちは、また同じ作戦で、<恵のダンジョン>の安全性を高められるし……
「本気で命を狙った」と勘違いされる方が、アイツの危機感を刺激して、より疲れさせることができるから。
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






