258話 鼻水が飲み物扱いされた日
〜勇者<マサル>side〜
ボス部屋をクリアした後、「便臭油がベットリ付いたタワシ」を報酬の宝箱から取り出して、速攻で投げ捨てた俺は……
何度も「煽りに乗るな」と自分に言い聞かせながら、11階層へ降りた。
ここから先は、"教会で見た資料"に情報が載っていなかったから、手探りで攻略するしかないし……
人間が一日に使える脳のメモリは決まっているので、くだらない煽りに乗ってソレを余分に消費してしまうと、俺自身が困るからだ。
<−−− ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜ン、ポ〜〜ン♪ −−−>
『ダンジョン案内人より、<鉄板焼きフロア>の注意事項をお伝えします。人間の精巣は熱に弱いため、温まりすぎて不能にならぬようお気をつけください』
11階層に入るやいやな、当然のように"煽りアナウンス"が流れたが、俺はその程度じゃキレないぜ。
精々、心の中で「魔王<メグミ>に日本風の名前を付けるとしたら、<屑山塵太郎>かなぁ。俺のアソコより、メグミの器の方が小さいだろう」と思う程度だ。
<−−− ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜ン、ポ〜〜ン♪ −−−>
『失礼いたしました。若く健康で、数多の女性をオモチャにしたことで有名な勇者殿が、未だに"子無し"の時点で今更ですね。ご無礼をお許しください』
「おぃ失礼だぞ! 俺に子供がいないのは、匂いで"女性の周期"を把握しているからであって……あっいや、だから…………もう"種無し"でいいっス」
なぁおい……反論しようとしたタイミングで、数多の人間が暮らす「オアシスフロアと思われる場所」と、中継を繋ぐのはズルすぎないか?
たとえ「嗅覚が鋭すぎて分かってしまう事実」であっても、女性の生理周期を把握しているなんてキモ発言、人前でできるわけないだろう!
煽りには乗らないと決めていたのに、見事に敵の策略に引っかかり心身共に疲弊した俺は、「そろそろ休憩しよう」と思いつつ探索を続行。
11階層<鉄板焼きフロア>は、サブ装備の高級靴が一つダメになったものの、軽々突破できたし……
12〜13階層の迷路も、「<天才>ギフトの能力玉」と「人間としての尊厳」を引き換えに、外傷ナシで乗り切った。
「とはいえ、そろそろ休まないと本気でヤバイぞ。肉体だけならまだいけるが、頭がボーッとするし今にも寝落ちしそうだぜ」
とはいえココ……14階層もそうだが、<恵のダンジョン>は砂漠の真ん中にあるだけあって、とにかく暑い!
そして地面も常時「目玉焼きが作れそうな温度」なので、布団代わりのスライムが溶けてしまい、休憩場所を探すだけでも一苦労なのだ。
「ハァ〜。14階層はこの広大な砂漠の中に埋もれたヒントを見つけ、それを元に謎を解かないと、先へ進めない……とか、書かれていたっけ?」
この体調でまともに挑んだら、体力切れでゲームオーバーだし、穴を掘って15階層へ落ちようにも、作業環境が劣悪すぎる。
なら<スキル図鑑>の中から、使えそうなギフトを探し出して、この場で"ギフト玉"を作るしかない!
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〜スキル図鑑〜
相手の許可を得ることで、スキルおよびギフトが図鑑に登録され、登録された任意の能力を一時的に模倣できる、特殊な<能力玉>を生みだせるようになる。
ただし<能力玉>をつくる際は、己の血とHPを対価として捧げる必要があり、事前準備ナシでは役に立たない。
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そう思った俺は、図鑑を広げて使えそうな能力を物色し……<変化>ギフトの"能力玉"を作って、オリハルコンゴーレムに化けた。
これなら暑さの影響は受けないし、肉体の強度も人間以上!
加えて手持ちの<超運>ギフトを使えば、魔王<メグミ>の想定より早く、砂漠の中に埋もれたヒントを集めて、14階層を突破できる。
「15階層からも地獄が続きそうだし、暑さ対策さえしちまえばOKなココで、一休みしますかねぇ〜」
そう決めた俺は<超運>を活かしてパパッとヒントを集め、いつでも謎を解ける状態にした後、護衛用のミスリルゴーレムを3体召喚して眠りについた。
そしてギフト玉の効果が切れ、人間の身体に戻るまで頭を休めた後、意気揚々と15階層へ降りる。
すると、其処には……
「うわっ、冷てぇ!!!? なんだよコレ!?」
想像を絶するほど寒い"夜の砂漠"が広がっており、全身がスースーして、あまりの寒暖差に血の気が引いた。
「(ヤバイ。これは……そうだ、ハッカ油! 動画サイトで、"ハッカ油を塗りたくったあと水風呂に浸かるバカ動画"を見たことがあるぞ!!)」
だが気づいたところで、14階層へと引き返す扉は堅く閉ざされており、条件をクリアしない限り開かない仕様となっている。
「クソッ。せっかく休んで、これからだと思ったのに……!!」
ムカつく事この上ないが、こんな状態で人肌を晒し続けたらショック死してしまうので、俺は再び<変化>ギフトの"能力玉"を作り……
垂れてきた鼻水で無理やりソレを飲み下して、温度変化に強い"オリハルコンゴーレム"へと戻った。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






