２３７話 勇者＜マサル＞の旅立ち
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マル秘調査報告書（一部抜粋）
魔王堕ちした＜ラヴィレンス高等学園＞の生徒について調査したところ、メグミという平民上がりの奨学生が、「勇者の子孫」だという疑いが浮上しました。
記録が残っている勇者が、ルールベル皇国の平民と結ばれた事例は今まで一度もなく、勇者由来の武器や隠し財産が見つかったわけでもありません。
しかしメグミの魔力量は平民にしては規格外に多く、また奴が住んでいた貧民区画では、「奴の父親がそのような話をしていた」と証言する者もいたため……
教会を出奔して記録から抹消された"裏切りの勇者"が、何らかの手段で容姿を偽装してルールベル皇国に住みつき、子を成した可能性は残されております。
なおメグミ自身は、平民上がりにしては優秀でしたが、英才教育を受けた貴族家のご子息・ご令嬢と比べると平凡であり……
魔王になったとしても、さしたる脅威ではないと思われます。
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「チッ。思いっきり、メグミの実力を読み間違えているじゃん！ 魔王堕ちして1年半で上位に食いこみ、英才教育を受けた皇太子のダンジョンを滅ぼしたぞ」
まぁ坊ちゃん育ちの貴族が考える事なんて、ズレているのが"標準"だし……ゴマ擦りに集中し過ぎて、「意味の分からない文章」になっていないだけマシか。
ついツッコミを入れたものの、身分社会の闇を思い出して色々と察した勇者＜マサル＞は、文章の端々に散りばめられている"おべっか"を無視して……
一番の要である、「メグミ＝勇者の子孫」説について考え始めた。
「ギフトは"本人の性質や血筋"に強く依存するものだから、自販機をボコスカ作れる時点で、魔王＜メグミ＞に勇者の血が入っているのは確定だ」
だが資料に「メグミの父親がそのような話をしていた」とあるので、奴本人が「前世の記憶を持ったまま異世界転生した、チート野郎」なのではなく……
「魔王＜メグミ＞の祖父より上……家系図のどこかに勇者の血が混ざっており、隔世遺伝で"その特徴"が発現した……と考える方が良さそうだな」
メグミが"同郷の士"じゃない事に気付いた勇者＜マサル＞は、多少の孤独を感じると同時に、ひどく安心した。
もし日本生まれの転生者や前世の知識持ちが、あんな残酷なダンジョンを生み出したのであれば、性根がひん曲がっているし確実に滅ぼさねばならない。
しかし……身分格差が激しく奴隷や亜人差別だって当たり前の、この世界で生を受けた"血筋以外普通の男"ならば……
上流階級の連中からイジメられた反動で、"サディスト"になるのも仕方ない事だし、自分とは境遇が違い過ぎて、ほぼ怒りを覚えなくなったのだ。
「だからといって……＜銃＞を使ってスタンピードなんか起こされたら、尋常じゃない数の民が傷付くから、＜恵のダンジョン＞は滅ぼすけど」
教会の支配下から抜け出そうとしていても、やはりマサルは「勇者に選ばれた男」だけあって、人情に厚く民思いな性格をしている。
これで下半身さえ緩くなければ、教会のハーレム支配に引っかかる事もなく、"完璧な男"として讃えられただろう。
「あと気になるのは、教会を出奔して記録から抹消された"裏切りの勇者"……って記載だ。なんだよ、"裏切りの勇者"って！」
まさに今から教会を出奔しようとしている勇者＜マサル＞は、多少の覚悟こそしていたものの、予想外の所からエグい球が飛んできて狼狽えた。
たしかに教会幹部は、自分達のメンツを守るためならば、重要事項も教えず勇者を騙すような連中だから……
教会を出奔した時点で「裏切り者」のレッテルを貼られ、後世に残る公式記録から抹消されても、不思議ではない。
とはいえ、すでに"英雄"として広まった勇者の存在を、ちょっと書類をイジっただけで、抹消する事なんてできるのだろうか？
「薄気味悪い話だ」
そう吐き捨てたものの……「自分を利用する事しか考えていない教会に、首輪をはめられ続ける状況」に比べれば、悪い展開など早々起こらないので……
勇者＜マサル＞は夜通し重要書類を漁り、朝日が登ってからは＜ラヴィレンス高等学園＞での調査を再開して、より詳しい情報を得られるよう尽力。
そして夕刻……学園都市の街門が閉まるギリギリで、街を抜け出したマサルは、＜陰の者＞に追われぬよう夜通し移動して、学園都市から距離をとった。
「え〜っと。地図によると、＜恵のダンジョン＞へ行く最短ルートは、この道を進む感じか」
大きな都市へ寄るとすぐに勇者バレしてしまい、街の教会支部経由で本部に位置情報が筒抜けるので……
そのリスクを避けて、＜陰の者＞に極力後を追わせぬよう、自分が早く・安全に目的地へたどり着ける方法を模索しながら。
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