226話 勇者パーティーの実力
メンバーの仲こそ悪いものの、さすがは「勇者とチームを組むのに相応しい」と判断されて、各業界から選ばれたエリート4人。
一度「最奥まで潜る」と決まってしまえば、あとは速い。
「風・水・大地の妖精よ。其方等のチカラを以て、邪悪なダンジョンに仕掛けられた罠を見つけ出し、我等の進むべき道を示せ。サモンサーチ!」
精霊族の末裔であり、妖精を使役して罠を見破るタイプの斥候<キラリ>は、一気に三属性の妖精に命令を下して、スピード重視で道中の安全性を確保。
そしてダンジョンによる仕掛けがないと判断したうえ、キラリのお膳立てが済んだ道を、勇者一行は隊列を組んで走り抜け……
("仮眠"という名の"ハッスルタイム"を除くと、)わずか数時間で、<伏龍のダンジョン>跡地である洞窟の最奥までたどり着いた。
「ふむ。ここに来るまでモンスターの出現ゼロ。20万人の兵士が全滅したダンジョンが、こんなにチョロい訳ないし、やはり魔王<ユアン>は死んだのだろう」
ただの深い洞窟なら、勇者パーティーが時間を使って綿密な調査をしなくても、「学者と護衛の冒険者からなる調査団」を派遣するだけで十分だし……
上級階級の奴等がこのダンジョンを潰したかったのは、魔王<ユアン>に詐欺られた報復目的だったから、ターゲットが死んだ以上もうココに用はない。
それゆえ勇者<マサル>は、修道士<ジン>を経由して教会と連絡をとり、今後の判断を仰いだ。
「…………ゴホン! どうやら司教様は、予想外の事態に困惑なさっているようですね。緊急会議をとり行うゆえ、我々は引き続き現地を調査せよと仰せだ」
「「「「…………。(どうせ魔王<ユアン>の剥製でもつくる夢を見ていて、ダンジョンごと消えた現実を受け入れられないんだろ? クソジジィ、超うぜぇ)」」」」
勇者パーティーの迅速な報告を台無しにするだけでなく、頭の固い権力者達は、どうにか魔王<ユアン>を引きずり出して直接報復するために……
緊急会議という名の妄想発表会開催を決め、しかも「その間、勇者パーティーは現地で調査せよ」と、パワハラ紛いの待機指示を出してきた。
修道士<ジン>以外の4人は罵倒こそ堪えたものの、内心「ジジィ共、さっさとポジションを明け渡して死ねよ!」と、上司に向かって唾を吐く。
しかし悲しいかな、彼らは(日本で言うところの)エリートサラリーマン。
組織の命令には逆らえず、もしトップの怒りを買ってしまった場合、勇者ですら「次の勇者召喚→世代交代→ネガキャン付きで放逐」の末路を辿るので……
結局、十数分ほどイライラした後、諦めのため息を吐き……<伏龍のダンジョン>がどうして滅んだのか考察を始めた。
「まずは魔王<ユアン>討伐軍から届いていた報告を元に、<伏龍のダンジョン>の栄枯盛衰をおさらいしよう。全体を見てから細部の調査に入るぞ」
「「「うん」」」「はい」
「元々<伏龍のダンジョン>はスタンダードな構造をしており、攻略難度も普通。だからこそ上層部は、"大軍で攻めれば落とせる"と考えていた」
「実際、最初の頃は優勢だったんでしょ?」
「あぁ。"攻略は時間の問題"と総司令官が確信するくらい、順調に進めていたらしい。だが、ある時を境に状況が一変する」
「意味不明な遠距離攻撃で、最深部にいたメンツを全滅させられたうえ……ダンジョンへ潜るうちに長く伸びた隊列を、その仕掛けによって断裂されたんだ」
派遣前に上層部からある程度情報を聞かされた、勇者<マサル>と修道士<ジン>は、女性陣に討伐軍が崩壊した経緯を説明しつつも違和感をおぼえた。
「なぜ魔王<ユアン>は散々追い詰められるまで、人間側を一網打尽にできるほど、殺傷力抜群な凶器を使わなかったのだろう?」と。
「その後、地上にいた部隊がモンスターに周りを取り囲まれて奇襲を受け、多くの犠牲を出したうえ、生き残りも迷宮内に逃げこんで最終的には全滅している」
「「「うわぁ〜」」」
「途中で連絡が途絶えてしまったので、詳細は分かりませんが……凶器を使った遠距離攻撃が原因で、流れが変わったのは間違いないですね」
「う〜ん。だったら"魔王<ユアン>が急変したというより、魔王側の誰かが援軍に来て、討伐軍が滅んだ後ユアンを裏切った"って可能性の方が高くない?」
「…………! たしかに。もし魔王<ユアン>よりも実力のある誰かが、奴に代わって指揮を執っていたのだとすれば……辻褄は合うな」
「でしょ?」
魔法師<リーナ>の意見をキッカケに、サブカル大国<日本>で育った勇者<マサル>は、「もしかして"中の人"が途中交代したのでは?」と疑いだす。
彼はパーティーを結成したその日の夜に、仲間となった美女3人に手を出したほど、発情期を拗らせているものの……
頭まで猿になったわけではなく、パーティーリーダーとして動けるくらいには、マトモな思考力・判断力を持ち合わせた男だ。
そして日本にいたころ読んだラノベと、これまで幾つものダンジョンを潰してきた経験から、勇者<マサル>は一つの仮説を導きだした。
「なぁ……もしかしてユアン討伐軍は、同じようにユアンに詐欺られた"有名どころの魔王"が、ユアンへ報復する場面に巻き込まれたんじゃねぇの?」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






