215話 メグミのやり方
数の暴力で、「拠点の周りをグルリとおおって攻撃してきた銃撃班」の囲いを破り……一度撤退して態勢を立て直せば、最小限の被害で済んだのだが……
自分の命も危険にさらされる極限状態の中で、早急な判断をせまられた司令部によって、ユアン討伐軍は「全員でダンジョン内へ逃げる」策を選んだ。
火の粉が舞うなか大慌てでダンジョンへ逃げこんだ司令部の面々は、自分達の選択を肯定しないと心がもたないので、「素晴らしい作戦」と絶賛するが……
現実問題として、彼等は「敵の胃袋」に飛びこんだ状態であり、地上へ繋がる出入り口もモンスターに封鎖されてしまったので、策としては"下の下"である。
だが、これは仕方ない事なのかもしれない。
人間というのは、一度ナメると相手の評価を改めるのが難しく……
ダンジョンの奥底で、敵の総司令官が代わったことなど誰も知らないため、無意識のうちに「このダンジョンなら大丈夫」と思い込んでしまったのだ。
さらに言うと……あの場面で一時退却を選べば、たとえソレが最善策だったとしても、後々責任を問われ、司令部の面々は失脚してしまうので……
全体の利益より個人の損失を恐れて、目的達成のためではなく保身のために動かざるをえない、組織の構造にも原因はある。
ユアン討伐軍は、奇襲でダメージを受けたといっても15万人以上残っているため、中には頭がキレる者もおり……
彼等は一段落ついたところで冷静に状況を把握して、己がいかに危険な状態に置かれているかに気付き、周りの仲間と話し始めた。
「ヒソヒソ。(なぁ、冷静に考えると……この状況ヤバくない? もう引き返せねぇし、全軍突撃で勝てるなら、奇襲をかけられる前に突っ込んでいるだろう)」
「ヒソヒソ。(軍事物資もカバンに詰められる分しか持ち込めていないし、奥へ進めば進むほど、俺達の生還は絶望的になるよな。あぁ〜、クソッ!)」
しかし軍というのは縦社会で……貴族家出身の上層部に意見したら、一発で「和を乱す不届者」扱いされて、見せしめのためにリンチされるし……
自分の命を懸けて助け船を出してくれる仲間などいないため、彼等は状況が読めても指摘することはできず、ただ"駒"として命令に従うしかないのだ。
もし彼等が、モンスターでも自由に意見を述べられるメグミチームの様子を見たら、「どちらが知的生物か分からない!」と悔し涙を流し……
己の境遇に絶望したり、ヘタに感化されて上官に逆らったりして、さらなる地獄へ堕ちてしまうだろう。
それでも皆、最初はどこか楽観視していた。
これまでの攻防で「22階層までの攻略マップ」は出来ているし、15万人以上いるんだから、数の攻めでどうにかなる筈だ……と。
しかしその余裕も、10階層に入った頃にはなくなる。
それは何故か?
答えは簡単で……ユアン討伐軍が通り過ぎたフロアをメグミが魔改造して、撤退不可能な状況に追い込んだうえ……
毒攻めをしかけて解毒ポーションの消費を促し、「在庫不足で下っ端にポーションが回らない状態」を生み出したから。
しかもタチの悪いことに、各フロアの攻略ルート上には定期的に宝箱が出現し、その中に「ポーションの瓶に入った毒」が仕込まれている。
ポーションの配給を受けられなくなり、自分の命は自分で守るしかなくなった末端兵が、その宝箱を発見すれば……
当然、"上官に報告することなく"宝箱の中身を己の物にするため、「末端兵の不審死」が頻発する事態となり、軍全体の士気が下がったのも大きい。
「ヒソヒソ。(ユアンって魔王、タチ悪すぎるだろう。回復魔法師を狙い撃ちしたうえで毒攻めとか……"補給できないウチの欠点"を的確に突いてきやがる)」
「ヒソヒソ。(司令部の奴等や貴族籍持ちの指揮官は、二重の意味でピリついているな。回復手段が完全に断たれるか、俺達のクーデターで殺されるか……)」
頭脳派の兵士がヒソヒソ話しているとおり、生き残った少数の回復魔法師とポーションの在庫は、全て"特権階級の軍人"が独占している。
これは貴族社会において当然の措置だが、貴族の後ろ盾となる国家権力が及ばず、末端兵の方が圧倒的に多いこの状況では……
貴族優遇の度が過ぎるとクーデターの引き金になるため、学舎で"反乱の歴史"を学んできた彼等は、"駒の暴走"が起きるんじゃないかと警戒しているのだ。
そして回復魔法とポーションの独占が原因で、傷を癒せず弱ってしまう末端兵が増え、それを無視して司令部が"進軍"の指示を出し続けたとき……
毒で仲間を失った義勇軍所属の冒険者が怒りの声をあげ、その怒りがドッと他の兵士にも伝染して、"特権階級"と"駒"の対立が明確化した。
それこそが、魔王<メグミ>の真の狙いであり……
兵法を学んできた指揮官を末端兵の手で殺させて、15万人の大群を"烏合の衆"へ変えるために、徹底して毒攻めをしかけた……とも知らずに。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






