197話 メグミ・アレルギー
〜ユアンside〜
私を貶める意図を感じる、悪意あるゴシップが世に出てから20日。
少数精鋭の偵察部隊や、金稼ぎ目的の冒険者共じゃなく……大規模な軍隊が、<伏龍のダンジョン>を攻めるためにコチラへ向かってきた。
「ルールベル皇国の軍が10万人。ドンフィッチ共和国の軍が4万人。コリス王国の軍が3万人。合計17万人か……頼む、さっさと来てくれ!」
なぜ魔王である私が、下手すりゃ命を落とすかもしれない状況なのに、敵軍の襲来を歓迎しているのか。
それは「軍隊の動きが予想よりも遅かったせいで、敵襲に備えて増やしすぎたモンスターが全く減らず、維持費で財布に大ダメージが入っていた」から。
より効率良くモンスターを増やすために、手持ちの<モンスターの渦>も全稼働させたせいで、ダンジョン内のモンスターはみるみる増えていき……
日々徴収される維持ポイントだけでも赤字、食費を含めると大赤字で、敵襲来に備えたダンジョン改造をする余裕など、微塵もなくなってしまったのだ。
だからと言って、これから大軍が来ると分かっているのに、大金を投じて増やしたモンスターを、自ら殺処分することなど出来ず……
現在<伏龍のダンジョン>では、暇を持て余したモンスター達が、「自身の糞便を土に混ぜて堆肥作りをする、奴隷用の内職」に勤しむありさまである。
「ハァ〜。メグミ先輩も、悪意があってこのアドバイスを寄越した訳じゃないだろう。実際あの人は、このやり方で若手エースまで成り上がれたんだし」
だが、私は失念していた。
作戦というのは、各人の「資産・収入・立地等の状況」を踏まえて立てるものであり、彼と私では"その前提"が異なる以上……
無闇に「見えている浅い部分」だけ真似ると、惨事になるということを。
「ハァ…………惨めだ。なぜ魔王の私が不味い黒パンを食べ、命を脅かす軍人共に、"早く入ってこい!"などと思わねばならんのだ。嫌になってくる」
冷静に考えれば、奴等は"数万人を超える集団"で行動しているのだから、動きが遅くなるのは当たり前。
それにダンジョンは逃げないし、攻め込まない限り反撃される心配もないため、到着してからゆっくりと幕舎を立て、栄養をとり部隊の再編成をしてと……
もどかしいくらい、行動がトロイのも納得はいく。
だが早く攻め込んでもらえないと、コチラは余ったモンスターを処分できないうえ、殺戮ポイントも入らず、襲撃対策に使うリソースを確保できないのだ!
「いっそスタンピードの時みたいに、余ったモンスターをダンジョンから溢れさせて、無理やりポイント化しようかな? いや、ダメだ。非効率的すぎる!」
人間が寝静まった深夜に村や街を襲い、成果を得るスタンピードと違って……ダンジョンの入り口を、多数の兵士に押さえられている状況では……
モンスターを溢れさせても、数の暴力で一方的に狩られるだけであり、奴等がコチラのフィールドに入ってから攻めるのに比べて、圧倒的にコスパが悪い。
「でも無謀な考えすら思い浮かんでしまう程に、状況は切迫しているんだ! あと数日間、兵士にトロトロされると……<伏龍のダンジョン>は詰む」
どうして私は、メグミ先輩のアドバイスを鵜呑みにする前に、「前提条件が違う」という最重要事項に気付かなかったのだろう?
「あっ、来た……ようやく敵が侵入してくれた!」
敵軍がダンジョンを包囲して、チンタラ攻略準備を始めてから4日。
待ちに待った「大人数での殲滅作戦」が始まった。
最後の方など、モンスター共に内職させるだけじゃ"大赤字"に心が耐えきれず、私まで臭い土を耕して堆肥作りに励んでいたから……
ようやく無駄飯食いが消えて収入が入り、毎日の食事が黒パンからチキンステーキに戻った現状に、感慨深さで涙が出るよ。
「だが厳しい状況に変わりはない。<伏龍のダンジョン>は24階層の立派なダンジョンとはいえ、作ったとき"17万人の襲撃"など想定していなかったからな」
おまけにリソース不足で直前の対策ができず……赤字が完全に解消されてポイントに余裕が出るのは、今夜になる見込みなので……
そこから状況に応じた手を打って、人間共を皆殺し……もしくは撤退させねばならない、超ハードモードなのだ。
「現時点で、敵は5階層の攻略を終えて6階層に入っている。人海戦術でマップを作られたせいか、1〜4階はフリーパス状態だな」
私は"世に出ているダンジョン"の情報を元に、セオリーに沿ったダンジョン造りを心がけてきたけど……
ここまで簡単に攻略されるんだったら、メグミ先輩のような「非常識ダンジョン」を構築した方が良かったかも。
「痛たっ! メグミ先輩のことを考えると、胃と頭が同時に痛くなる。うぅっ、蕁麻疹まで出てきた! しばらく、あの人の存在は忘れよう」
今、私がやるべきことは「大軍の相手」であり……メグミ先輩を羨んだり愚痴をたれて、状況を悪化させることではないのだ!
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






