191話 成り上がった先輩を見習って
〜ユアンside〜
ルールベル皇国の子爵家跡取りだった私は、先日クラスメイトと共に"神隠し"に遭い、全人類から憎まれている魔王に転生してしまった。
せっかく兄上たちに退いていただき、子爵家跡取りの座をゲットしたというのに、二度と「爵位を継げぬ立場」に追いやられるとは……世の中は無常である。
国内で方がつく事象なら、貴族である私が困ることなどそうそうないが、魔王にされてしまった以上、どこへ訴え出ても「殺されて終わり」だからな。
あまりの理不尽に絶望したものの、結局私は貴族として生きる道を諦め、今度は魔王として成り上がるために、臥薪嘗胆の日々をおくることを決めた。
初年度の生存率が著しく低いうえ、たとえそこで生き残っても年功序列の傾向が強い魔王界隈で、私がストレスなく暮らすためには……
モラルや常識といった"余計なモノ"を捨てて、初年度にブーストをかけ、メグミ先輩のように成り上がるしかない。
"子爵家跡取り"という、「少なくはないが上には上がいる資産額」しか持たぬ条件で、魔王界入りさせられた私だが……
貧乏人から若手エースの地位まで成り上がった、メグミ先輩を真似て急成長を遂げれば、きっと1年でカースト上位の魔王となり幸せに暮らせるだろう。
自分の目標を叶えるために、現在私は、魔王転生時に得られた<遠隔商談ギフト>を使って、正体を隠しながら各所に情報を売っている。
「フゥ〜、今日の商談はこれで終わり。そろそろ怪しまれる頃だし、証拠を掴まれる前に上手く引かないと」
最初は、どうにか魔王転生の不利を補い「子爵家跡取りの座」を死守しようと、保守的な考えで選んだギフトだったが……
立場を隠して遠方にいる相手とコミュニケーションをとれ、物品までやり取りできる利便性を考えると、結果的に「大当たり」だったと思う。
正面からじゃ身分違いで合ってくれないような上級貴族も、このやり方で夜な夜なささやき、利益を作ってやれば面白いように食いついてきたし……
私たち新米魔王を舐めている古参連中だって、心理学を応用して釣ったら、欲に目が眩んで掌の上で踊ってくれた。
結果、「ヒエラルキー中の上〜中の下」に位置する魔王が、20名程スケープゴートとして人間の猛攻を受け、滅んだが……
長年魔王界にいながら対処できなかった彼等が悪いし、この辺りの連中を潰しておくと、相対的に私のヒエラルキーが上がるから、必要な犠牲だと思う。
「唯一の失敗は、メグミ先輩と付き合っているサーシャ先輩のダンジョンに、チョッカイをかけちゃった事かな〜。あの判断は軽率だった」
でも、そのくらい仕方ないと思うんだ!
下賎な平民上がりのくせに、「高等学舎のマドンナ」と謳われたサーシャ先輩と付き合い、他の魔王からも受け入れられているとか……ズルイもん。
別に、彼が治める<恵のダンジョン>に直接仕掛けた訳じゃないし……成り上がり者はこのくらいされて当然だから、たぶん反撃されることはない筈……。
もしこの件がキッカケでサーシャ先輩とモメて、ケンカ別れしてくれれば儲けものだしね。
「魔王ランキングでは、悪目立ちせぬようにずっと"下の上"をキープしているけど、今回の稼ぎでダンジョンの育成が一段落ついたら、そろそろ目立とうかな」
我慢するのも、そろそろ限界なんだ!
早く生まれただけで嫡男の座に居座っていた兄上を、バレないように時間をかけて退場させ、ようやく私の人生に光が当たったと思ったのに……。
突然の理不尽すぎる転生で全てを奪われ、また下っ端からやり直しさせられたんだから、もうそろそろ私の苦労は報われてもいい頃だろう?
「いや、ダメだ……落ち着け。ここで不自然に目立つと、用心深い魔王に"どうやって勢力を伸ばしたか"調べられて、粗が出てしまうかもしれない」
そうなったら、苦労して各所へ情報を売り毎晩遅くまで商談に勤しんだ、私の努力がムダになるうえ、先輩魔王に逆襲されて命の危険まで出てくる
「もう少しダンジョンが育つまで耐えて、頃合いを見計らい、クリーンなイメージで上位デビューするんだ。去年メグミ先輩がやった事を、とことん真似る!」
あの先輩だって、きっと陰で色々悪い事をして成り上がったんだろうけど……<新米狩り>という"悪"を倒したことで、魔王界隈からのウケが良くなった。
だったら私も、長い魔王人生を彩るために、タイミングを見計らって世に出た方がいい。
「羨ましいなぁ〜、メグミ先輩。魔王界での権力・立派なダンジョン・美しい女、全て持っているんだもの。私が去年転生していたら、逆の立場だったのに!」
可能であれば、私が世にでるときの悪役はメグミ先輩にして……あの人が持っているポジションとか、サーシャ先輩とか……全て貰えたらベストだな。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






