187話 変装技術<<賄賂
メグミとサーシャは、あの後<潜入捜査隊>に充分な装備を渡して、ルールベル皇国へと旅立たせた。
2人の迷宮とルールベル皇国は距離が離れているため、徒歩で移動すると、裏取り前に全てが終わってしまうのだが……
<恵のダンジョン>には、新米狩りとの戦いで寝返ったSランクモンスターや、経験値を稼ぎランクアップした古参モンスターがいるため、移動は容易い。
「お主等、目的地に着いたぞ〜。儂は、悪目立ちせぬ森の奥にしか潜伏できんから、逃げる時は余裕をもって呼ぶのじゃ。健闘を祈る!」
「はい、ドラゴン様。お手数をおかけしました」
人目がない深夜……ドラゴンの背に乗って、悠々と空の旅を楽しんだ<潜入捜査隊>のメンバーは、僅か三日でルールベル皇国の首都へ到着し……
現在は、何処にでもいる行商人を装って、街の中へ入るべく検問の列に並んでいる。
「コソッ(隊長。私、商人などやった事ないのですが……本当に検問を突破できるのでしょうか? 少し緊張してきました)」
「コソッ(大丈夫ですよ。メグミ様がオアシスで暮らす行商人を観察して、導き出した結論は完璧! 我々はただ信じて、チャレンジすればいいのです)」
「コソッ(そっ、そうですね。頑張ります!)」
若いドッペルゲンガーは経験が少なく、不安そうな者も多いが……
変装の腕は一級品なので、ステータスを調べるか尋問でもしない限り、外見では偽物だと分からない。
この作戦のキモは、今しがたドッペルゲンガーを励ました側……つまり金属製ゆえ外見で即バレするオートマタを、どうやって街の中へ入れるかなのだ!
武力・知能共に低いドッペルゲンガーでは、何体潜入させたとしても、敵の戦力に見つかって瞬殺され、持ち込んだ端末を奪われる恐れがあるので……
メグミは「リーダー兼連絡要員として、外見バレするリスクを取ってでも、知能の高いオートマタを組みこむ方が得」と判断したのである。
<--- ガーン! ガーン! ガーン! --->
『次の者、前へ!』
しばらく平民用の列に並んでいると、前の人の審査が終わり、<潜入捜査隊>が審査のため衛兵に呼ばれた。
「(ふむ。見た感じ、列に並んだ者の突破率は97%というところ。多少怪しい連中も、役人に賄賂を渡せば、何も見なかった事にしてスルーしてもらえている)」
オートマタが見た光景は、メグミがこの国で暮らしていた頃から何一つ変わっておらず……
たとえ違法な人身売買で、荷台の中に"泣きじゃくる商品"が転がっていようとも、役人に賄賂を渡せば問題なく出入りできる、世紀末的状態だ
「ふむ、商人の一団か……。そこにいる者は、ウサギの獣人よな? ちと珍しい気が……」
逆に賄賂を渡さないと、ネチネチと文句をつけられたり、審査に落とされて門前払いされたりするので……
本当に金のない貧民以外は、コインの1〜2枚手元に持っておき、審査が始まると同時にソッと役人に手渡すのが、暗黙の了解となっている。
探られても痛む腹がない善良な通行人ならともかく、<潜入捜査隊>は「"ウサギの着ぐるみ"を着たオートマタ」が、奴隷姿で同行しており……
丁寧に調べられて背中のチャックを下ろされると、金属のお肌がむき出しになって、即身バレしてしまうスパイ部隊であるため、ここでの賄賂は絶対だ。
「まぁまぁ。お役人様、コレを……。些細なものですが、お仕事の疲れを癒すためにお使いくださいませ」
「…………!! くくっ、実に"商人らしい"気配りだ。まぁ獣人の奴隷くらい、何処にでもいるだろう。通れ!」
マジメに調べられると即アウトだった<潜入捜査隊>は、奴隷の指示通りに、リーダー(ドッペルゲンガー)が賄賂を差し出したことで……
積荷の検査すらすっ飛ばされて、秒速で検問を突破できた。
役人は、メグミが賄賂として用意した「(小銭臭タップリの)香り袋」が、余程お気に召したようである。
ある意味ザルな関門を乗りこえ、街の中へと入った<潜入捜査隊>が次にやるべき事は、宿の確保と身分証の作成。
ルールベル皇国は、お国柄(賄賂さえあれば)誰でも街に出入りできるが、当然そうじゃないマトモな国もあるので……
機会を得たタイミングで、ドッペルゲンガーの高い擬態能力を活かして、他の国でも使える「公式の身分証」を何枚か作っておく必要があるのだ。
「コソッ(宿は、貴族街に近い商人区画の高級宿をとってくれ。奴隷が一緒に寝ていると不審がられるから、必ず監視の目がない"一軒家タイプ"をとるように)」
「コソッ(かしこまりました!)」
ミッションをクリアして喜びを隠せない一行は、それでも冷静な獣人奴隷が、リーダー(ドッペルゲンガー)に影でコッソリ指示を出して……
貴族街に近い商人区画へ向かうために、荷台を引っ張り歩いて行く。
そしてその光景は、ウサギの着ぐるみの内側に取り付けられた、スマホのカメラ越しに<恵のダンジョン>へも届き……
新規購入した大型ディスプレイに、「何一つ変わらぬ故郷の姿」を映し出して、メグミとサーシャの話の種になるのだった。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






