176話 後輩の練習につきあう最期
〜ハイドンside〜
“先輩に対する礼儀”というものを教えてやろうと、痛みをこらえて口を開こうとした儂に、軽薄なクソガキが話しかけてきた。
「はじめまして〜ハイドン先輩! 2年目のルーキーなのに、不甲斐ない先輩をボコしちゃったメグミ君で〜す♪ 今日でお別れだけどヨロシクね!」
「ふざけるな、躾のなっておらん野良犬が!! 貴様なぞ孤児院にでも行って、ゴブリンの骨でもすすっとれ!!」
あまりの言い草に思わず説教を返すと、小僧は「う〜ん」とワザとらしく首をかしげ、さめた視線を下の方へ向ける。
「おかしいなぁ〜。サーシャが”キャンキャン吠えないように”って、寝ている間に去勢処理してくれたはずなんだけど……年中発情期には通じなかったのか?」
なるほど、ソコを見ていたんじゃな。
全身をボコボコに殴られたため、今まで痛くて気付かなかったが、儂の大事なモノがポッカリと無くなったような……。
「フゥ〜フゥ〜……堪忍袋の尾が切れたわい! たとえ拘束されていようとも、首から上が動くなら今すぐ噛み付いベフェエエエエェェェッッ!?」
このクソ餓鬼がぁぁ……!!
長年”魔王界”を支えてきたハイドン様を、言うに事欠いて「駄犬」扱いしたあげく、話をさえぎり頬を「ボコボコしている金属の物体」で殴りつけるなど!
「あっ、いけない! 高価なスナイパーライフルを、こんなクソジジィ殴るのに使っちゃダメじゃん! バカだなぁ〜、僕。反省しなきゃ!」
そしてメグミは、ふたたび不愉快極まりない戯論をほざき、「衝撃で折れてしまった儂の鼻」をライフルという金属の物体で突いてくる。
「クソガキが、なにを……!!!?」
「まぁいいや。”キャンキャン”と臭いツバを飛ばされたら嫌だから、”喉仏”と”舌”を潰しておこう。ゴーレム君、あと処理しておいて〜」
「ワカリマシタ。マスター、シャゲキ、ガンバッテクダサイ」
「うん。任せなさ〜い♪」
まるで「コイツがどうなろうが興味ない」と言わんばかりに、儂の痛んだ鼻を強く一突きしたメグミは、後ろへ控えるゴーレムに”ありえない指示”を出す。
そして……
「マスター、カラノシジ。オマエノ、ノドボトケ、ツブス。シャベレナイヨウニ、シタニモ、キリコミ100ポンダ」
「ぎゃあぁぁぁぁっっっ!!!!」
舌に「切れ味の悪いナイフ」で細かい傷を入れられたあと、見るからに「重たいハンマー」を思いきり喉へ叩きつけられた儂は、絶望のなか気を失った。
足に”途轍もない痛み”が走るとともに、目の前がだんだんと明るくなり……そうか。
儂は魔王<メグミ>に好き勝手やられ、反論の機会すら与えられぬまま気絶させられたんじゃったな。
「ごのクソガギャアアァァァッッッ!?」
鮮明になった儂の視界に映ったのは、まるで「溶鉱炉の爆発に巻き込まれた」かのように肉片が飛び散った、膝から下のない右足。
そして、「焼け焦げている」わけでも「金属片が飛び散っている」わけでもない、不可解にくぼんだ地面だった。
<ドゥウゥゥゥゥゥゥン!!>
次の瞬間、聞いたこともない衝撃音が耳に届き……ナニカが恐ろしいスピードで、耳の横をかすめていく。
そうか、儂の足をこんなにしたのは”今のヤツ”か!
仕組みはさっぱり分からんが、こんなスピードで移動する物体が足に当たったら、爆散するのも当然じゃろう。
<−−− ねぇ〜メグミ君、”大当たり”まだ〜? 私、早くジジィ屠って、久しぶりのベッドインしたいんだけど −−−>
<−−− ゴメンゴメン。だいぶ近付いてきたし、そのうち上半身に当たって吹っ飛ぶはずなんだ。あと少しだけ待って! −−−>
<−−− 仕方ないなぁ〜。あと3発以内に仕留められなかったら、今夜オシオキするからね♪ 私の可愛いメグミ君、どんな食べ方しようかな〜♪ −−−>
<−−− サーシャ!? はっ、ハ〜イ。頑張ります! −−−>
突如スピーカーから流れた男女の会話に、フツフツと殺意が湧きあがり……今「自分には付いてない」事を思い出して、さらに憎悪が高まる。
じゃが、血管がはち切れそうなほど頭に血がのぼったタイミングで、ふとクソ野郎の言葉を思い出し、感じたことない程の恐怖が芽生えた。
「(やっ、奴は……メグミは本当に、儂を殺そうとしているのか!? 150年以上も魔王界のために働き続けた、序列10位のハイドン様を……!)」
正面をむき目をこらすと、はるか遠くに奴の姿が見え、「先ほど儂を殴った黒い物体」を構えている様子が分かる。
<ドゥウゥゥゥゥゥゥン!!>
ちょっと待っ……今、「儂の頭のすぐ上」を嫌な音を立てたナニカが通りすぎたぞ!
間違いない!
本当にコイツは、この儂を殺すつもりなんじゃ!!
「ごっぼばっべ……! ぼゔぇぶびゃびゃぃ……」
なんとかこの場を切り抜けるために、必死で言葉をつむぎメグミをなだめようと頑張るが、喉を潰されているため声が出ない。
「びびゃ……びびゃぁぁ…………<ドゥウゥゥゥゥゥゥン!!>ガアアァァァッ!!」
そうしている間にも、恐ろしいナニカは淡々と周りの地面をえぐり、ついには儂の左太腿を爆散させた。
「いびゃぁっ……びぃびゃびゃ……」
嫌じゃ、儂はまだ死にたくない!
嫌じゃあぁぁ〜!!
「びぃゃびゃびゃ……いびゃ……<ドゥウゥゥゥゥゥゥン!!>ピィ…………」
何が起きたのかはよく分からん。
じゃが、「両手の枷」を外して逃げようと必死にあがく儂の腹に、突如として”すさまじい衝撃”がはしり……しばらくすると視界が徐々にボヤけ、暗転した。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






