156話 裏切りの連鎖
クルスの指示を受けたモンスターは、<手形フロア>と<アルバイトフロア>で足止めされている仲間に情報を共有。
ハイドンとアリスの配下にも状況を伝え、一緒に9階層へ向かってくれる協力者を募った。
しかし相手は、「他者から搾取して生き残ってきた主人」に仕える、「上に媚び・下を虐げるタイプ」のモンスターである。
自分たちの命綱であるハイドンとアリスが、護衛もいない状況で「個人戦」を強いられているなか、失態を犯したクルスに援軍など出すわけがない。
「すまないな。上層階の連中には”サポートしろ”と言っておくし、地上へ戻ったらゆっくり休めるよう、追加の援軍も要請しておくから」
「サンキュー。ゴブリンの手も借りたい状況だから助かるよ。お前らの主人も他人事じゃないんだから、早いとこボス部屋を攻略してメグミを倒してくれ」
「あぁ、分かっている。たぶん27階層がボス部屋だから、あと数日でハイドン様がクリアなさるだろう」
「本音を言うと”揉め事”になる」と分かっている参謀陣は、「主人と連絡が取れない状況だから、自分たちは勝手に動けない」と言い訳し……
すでに狩られている上層階の配下が、まだ多少生き残っているテイにして、「其奴らにサポートするよう言っておくよ」と嘘をついた。
彼らは全員、「ゴール間近でクルスが罠に引っかかった」と勘違いしており……その上で、「もう必要ないから勝手に死ね」とクルス陣営を見限ったのである。
己が「切られる側」に回ると思っていなかった、クルス配下のモンスター達は、仲間(笑)の言葉を信じ、自分たちだけで9階層へ引き返すのだった。
とはいえ……<恵のダンジョン>は「帰りの方が難しい構造」になっているため、クルスの元へ向かうモンスターは続々と命を落としていく。
そして、「減る仲間」と「過ぎ去る時間」に恐怖を感じた彼らは、忠誠心を求められる状況にも関わらずボソボソと愚痴り始めた。
「なぁ……俺たちが到着するまで、クルス様生きてると思う? 上層階にいたウチの連中は、援軍含めて全員殺されちまったし……無謀じゃない?」
「まあな。だけど大丈夫かもしれないぞ。実は俺、ロミオットの所にいたSランクモンスターが、メグミの配下として奇襲をかけてるの見ちゃったんだよね」
「マジかよ!? 主人の死に付き合わず、”所属替え”で済んだモンスターもいるって事か?」
「あぁ。士気に関わるから、秘密にしていたんだけど……多分そういうこった。今のところバリバリ殺されているし、誘われる確率は低いが……」
「最後まで生き残れば、”強さを見込まれてのスカウト”もあるって事じゃん! クルス様が殺されたら道連れになっちまうし、ヤバくなったら交渉してみる」
「うん、俺も売り込みをかけてみるよ。メグミは新人だから”ベテランの運営術”を欲しているだろうし、その辺込みで情報を売れば助かる可能性も上がるだろう」
味方に引き入れた<三馬鹿>の配下から、”新米狩り”配下の横暴を聞き憤慨していたメグミが、彼らにスカウトをかけるなんてあり得ないのだが……
「長年イジメる側」だった彼らが、被害者の怒りに気づくことはない。
「良いところを見せれば助かる」と勘違いし、クルスの救出へ向かいつつも保険をかけだした彼らは……
己が無意識下で「死力を尽くさなくなった事」に気付かず、かつて虐げた<三馬鹿>配下のモンスターに負け、無様な骸をさらすのだった。
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〜クルスside〜
「クソッ。待てど暮らせど連絡がこねぇ! まさか、全員殺されちまったのか!?」
いくら不審に思っても「自分から連絡する手段」がない以上、俺にできるのはクソ溜めの中で<透明化>して助けを待つことだけ。
下手に動くと殺られちまうから、こうするほか手がないのだ!
「うぅ……酷ぇ環境のせいで、思考までネガティブになっちまうぜ。しかし……なんか身体がダルいなぁ」
もしかして、何日も汚物に浸かっていたせいで感染症にかかったんじゃ?
「この程度のダルさなら、回復魔法やポーションで誤魔化せる。だけどこのまま”助け”が来ず、本格的に汚染されたら……」
俺が救援要請をしてから、もうすぐ4日。
ダンジョンの移動に時間がかかるのは分かっているが、制約のせいで空腹と眠気がひどいし、これ以上<透明化>で耐え凌ぐのは難しいだろう。
限界状態で<透明化>が解け、敵に居場所を知られたら……待っているのは「メグミへの隷属」か「死」だ。
「やるしかない! 幸いにも、俺には<韋駄天スキル>がある。Sランクモンスターを振り切れるかというとアレだが、脱出できる僅かな可能性に賭けるぜ」
疲れた心身を鼓舞して”最後の力”をふり絞り、8階層へ続くドアの開閉ボタンを押す俺。
システムに認識されるため<透明化>を解除せねばならず、「何とかなる」と自分に言い聞かせながら、”見える状態”で通路へ進んだ俺を待っていたもの。
それは……かつてロミオット達の配下として、俺の足元で這いつくばっていたモンスターが、笑顔で襲いかかってくる姿だった。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






