153話 書き方一つで勘違い
〜ハイドンside〜
<−−− レベル5のメニュー”ドブカタツムリの爆辛漬け”、完食おめでとうございます。制限時間内でのクリアは出来ませんでしたが、”生き残り”決定となります −−−>
意識すら飛びそうな辛さに耐えきれなくなった胃が、コプコプと血を逆流させてくるのを押さえ込み、不愉快なアナウンスに耳を傾ける。
これだけの犠牲を払った後に、凡ミスで25階層突破を取り消されたらたまらんからな。
一言一句聞きもらさず、確実に26階層進出を決めるぞ!
<−−− 生き残った貴方には、報酬として”缶チューハイ”1本が与えられます。再チャレンジなさいますか? それとも、26階層へ進みますか? −−−>
「進むに決まっておるじゃろう。ゴフッ……これ以上、こんな”ゲテモノ部屋”にいつまでも泊まってられるか! コヒュ……」
<−−− かしこまりました。26階層へと続く階段および廊下は、モンスターが出ない安全地帯となっておりますが、1時間以上滞在すると強制失格になります。お気をつけください −−−>
「チッ! 承知した」
ルール説明には、「出てくる料理は全て、ダンジョンマスターが制限時間内に食べきれたメニュー」などと書かれていたが、嘘をつくでない!
まともな魔王が「吐血するほど辛い料理」を食うわけないし、これは明確な運営規約違反じゃ!
コアルームを制圧したら、クソ餓鬼共を死ぬ寸前までリンチしたあと管理パネルを乗っ取り、邪神に「ルール破り」の申告をさせてやる!
地獄の”ゲテモノ部屋”から解放された儂は、渇きを満たすべく果実水をがぶ飲みし、その後ポーションで消化管の治療を行う。
25階層で出された”スラム飯”は、見た目や辛さも酷いものだったが……同時に海水かと思うほど塩辛かったので、高血圧が悪化しておらぬか心配じゃ。
「まぁ、これも最後のあがき。階段と廊下はダメじゃから、26階層前の空間で護衛4体の合流を待ち、ボス部屋の様子を探ってみよう」
そして、上層階から「クルス・アリス・バイト組」が降りてきたら……数・質ともに圧倒した状態でボス部屋を制圧し、コアルームへ乗り込むぞ!
ポーションで治してもなお、内容物のせいで悲鳴を上げる胃腸を無視して、26階層の門前にたどり着いた儂が見たもの。
それは、「ボス部屋の案内」などではなく……<映画鑑賞フロア>という、新たな”時間稼ぎ”のルール説明だった。
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〜<映画鑑賞フロア>のルール説明〜
このフロアでは、挑戦者全員に素敵な映画を視聴していただき、その感想文を書いてもらいます。
視聴部屋の中は「モンスターが出ない安全地帯」となっておりますが、滞在時間が1日を超えると、延長料金(1日あたり1万バイト)が発生。
払えない場合、23階層に戻って<アルバイトフロア>で強制労働してもらいますので、財布と相談して滞在時間を決めてください。
感想文は、「5000文字以上で意見をキッチリ書けているもの」のみ受け付けます。
他の視聴者に意見を聞いたり、不正を行おうとした者にはペナルティーがありますので、誠意をもって取り組んでください。
連絡を取ろうとした段階で不正予備軍として注意し、注意2回でペナルティーとなります。
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「ふんっ。25階層で嘘の情報を”ルール説明”に混ぜたくせに、”誠意をもって”などと……どの口が言う! じゃが分かるぞ」
少ない予算と攻撃力皆無のギフトで、どう立ち回ろうか悩んだ結果……ただひたすらに時間を稼ぎ、相手の神経を逆なでする階層を量産したんじゃな。
さすがに30階層超えはないと思うが、小賢しいガキ共の策でこのハイドン様が苦労するなど、あってはならぬ事。
儂のギフトがある限り、<恵のダンジョン>に”新たな階層”は追加されぬし、我らは必ずコアルームへたどり着く。
そして、その時は”嘘つき小僧”め……覚悟しておれよ!!
ハイドンが26階層の門前で、頭が狂ったような雄叫びをあげている頃……コアルームでは、メグミとサーシャが果実を”食べさせ合いっこ”していた。
「ねぇメグミ君。なんであの人、”<恵のダンジョン>のマスターが〜”って書いてないのに、メグミ君が試食したと勘違いしているんだろう?」
「さぁ? 子供騙しの”言葉遊び”だったんだけど、固定観念に取り付かれた老害には、理解できなかったのかもしれない」
実は25階層で出された「料理?」は……全てロミオット達 (ダンジョンマスター)が、大地獄ルーレットの動画撮影中に食わされたモノなのだが……
頭の中で、勝手に「<恵のダンジョン>の〜」という言葉を付け足していたハイドンは、未だカラクリに気付けずにいる。
「タンパク源になるネズミ肉はともかく……すばしっこい上カロリーにならないゴキブリなんて、スラム街の人間でも滅多に食べないのにね〜」
「ふふっ。体験した事ないから知らないんだよ。もっとも……自分で”拷問用の漏斗”使ったんだから、僕らがやった事くらい分かりそうなものだけど……」
素で「ハイドンの思考回路」が分からない二人は、疑問を呈しながらも甘い果実を互いの口へ運び……
そのまま良いムードになって、ベッドルームへ移動したのだった。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






