127話 人生初のアルバイト
<未設定のダンジョン>の改良案を練りつつ、サーシャと二人でナステックの様子を観察していると……
案の定ヤツは、人海戦術で「自分・護衛3体・連絡係」に手形認証を集中させ、少数での23階層入りを企てた。
コレをやると、本人達の「手形フロア突破時間」は短縮できるけど……壁が動きマップが変わる特殊な階層なので、全体的に見れば移動速度は遅くなる。
残された配下モンスターが不信感を持ち、(すでに底打ちしているかもしれないけど)魔王への忠誠心も薄れるしね。
デメリットを承知の上で、戦略的な決断をしたならまだしも……ナステックの場合、99.9%本能で選んでいるからなぁ〜。
「同期魔王を糧とし出世したい」「ハイドンに認められたい」という承認欲求だけで、自ら棺桶に足を突っ込もうとしているんだから、救いようがないよ。
「狩る側としては、楽でいいんだけどさ」
せっかくなので認証装置の設定をいじり、ナステックに”当たり”を引かせてあげることに。
<−−− おめでとうございます。この装置は、10回分の手形を認証できる特別なモノ。貴方様の手形は、現在268でございます −−−>
『よしっ、残り32回! 今日の私はついているぞ! <幸運のネックレス>を重ねがけした効果はダテじゃない! おぃ、お前らに貸してやった分も返せ!』
『『『『『かしこまりました』』』』』
冷静に考えれば「煽られている」と分かりそうなものだが、奴の脳内では<マボロ虫>が暗躍している。
それに……「重複アイテムは無効化される」という常識すら忘れるほど、致命的なバカなので、多少の手出しじゃ違和感を持たれることすらないのだ。
『ナステック様、<試練の扉>が見つかりました! 迷路の道筋が変わるかもしれないので、お早くお越しください』
『分かった。そなた達は、自力でノルマを達成して追ってこい! 出遅れた者は置いて行くゆえ、死にものぐるいで挑むのだぞ』
『『『『『『『『『『かしこまりました』』』』』』』』』』
結局ナステックは、半日ほどで「自分・護衛3体・連絡係」の認証ノルマをクリアし……<試練の扉>も人海戦術で探し出して、23階層へ降りていった。
残されたモンスターは「出遅れる者」が現れぬよう、指示役のオートマタが中心となり、全員で食事休憩を始めたよ。
「あはは。彼ら、すでに”やる気”ゼロじゃん! まぁ主人がナステックじゃ、生まれ持った忠誠心も枯れるわな」
「ふふっ。<ゴーレムマスター>ギフトの影響で、お守役のオートマタが成長して、自衛するようになったのかも。自分の意思で動く子もカワイイよね♪」
「うん♪」
主人であるナステックの暴言をスルーして、食事が必要なモンスターに餌を与えるゴーレム達を見ていると、なんとも言えない気分になる。
もうすぐ、僕とサーシャが地獄の配下生活から解放してあげるから、それまで踏ん張ってね!
「23階層へ向かった4体を除いて、モンスター達の手形認証回数は150回前後。一番進んでいる子でも219回だから、下へ降りるには最低2日かかるだろう」
「メグミ君、仕掛け時だね!」
「あぁ。ナステック達がバイト生活に入り次第、22階層の壁に求人広告を貼り付け、”所属替え”を打診してみるよ」
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〜ナステックside〜
「ロミオットとホムビッツを出し抜き、メグミからダンジョンを奪い取って独立を果たす」という夢を抱え……
護衛とともに23階層へと降りた私を待ち受けていたのは、<アルバイトフロア>と書かれた看板と、長ったらしいルール説明だった。
「なになに……独自の通貨<バイト>を稼ぎ、10万バイトで”24階層へ進む権利”を購入せよ……!? メグミの野郎、また時間稼ぎかよ!」
以前このダンジョンでルール説明を無視したところ、ゴーレムに<ピー>される映像を流されてしまったので、仕方なく文章は読む事にしている。
メグミは「他者の尊厳をブチ壊す」卑劣な男であり、小細工にかけては一流の実力を持つからな。
逆に言うと、「小細工以外は何をやってもダメ」なので攻略は容易いし……コアルームを落とした暁には、交際相手のサーシャ共々蹂躙してやる!
「ふむふむ。最低就労時間が決まっているから、ゴーレムを働かせて給料を徴収……という訳にはいかないか。なら全員で、時給の高いバイトをするだけだ」
私はルールベル皇国で、重臣候補として育てられた過去を持つ男。
貧民が行うアルバイトなど、縁遠いものだったが……奴らにできて私にできぬ事など一つもない!
「一番給料が高いバイトは、完全出来高制の”食器洗い”か。メイドが行う仕事など私には相応しくないが、試しに一度やってみよう」
〜食器洗い〜
報酬:食器を一つ洗うごとに10バイト
雇用条件:認められるまで試用期間アリ
試用期間中は報酬が半額となる
食器を割った場合、新品の購入価格を報酬から差し引く
最低就労時間:30時間
護衛のゴーレム達にも高時給のバイトを割り振り、手続きを終わらせて仕事部屋へ入った私を待っていたのは……
「社交パーティーでも開いたのか?」と問いたくなるほど、うず高く積まれた安っぽい食器。
そして金属製の棍棒を持った、シバく気満々のオリハルコンゴーレムだった。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






