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現実恋愛

言い分を聞きましょう

作者: めみあ

不揃いの箇所を揃えました。

内容は変わっていません


「出来心、私が一番、家族が大事、反省してる…言いたいことは終わった?」


 私はテーブルに肘をつき、髪をかきあげる。

 夫は私の一つ一つの動作にビクビクしている。面白い。


「じゃあ、言い分を聞きましょうか」


****


「まず、浮気したのは出来心と言っていたけれど、前から色々相談されてたよね?」


 夫はその日の出来事を私に話すタイプだ。だから浮気相手の川田さんの名もよくでる。直属の部下だし当たり前だ。


 夫は縮こまったまま頷く。


「普段から2人で会うのは避けてたよね。あなたは妻子持ちで川田さんは独身だから誤解されないように。じゃあ今回はなんで?」


「はっ…はじめは露木も来る予定だったのが、子供が熱を出したから来れなくなって……」


「だったら今日はやめようか、とはならなかったのね」

「最初はどうしようかと…」

「正直に言えば怒らないから」

 私は被せるように言う。

「よしっと思った」

「正直に言えばいいってもんじゃない」

「どっちだよ!」

「え?」

 夫が調子にのってきたので低い声で牽制する。

「ごめん…」

また尻尾を丸めて上目遣いに戻る夫。


「喜んだのは下心があったから?」

「……」 頷く。

「最近私が拒否してたから発散したかった?」

「……」 また頷く。

「若い子はすべすべしてるし触りたくなるよね」

「そ、そう言うわけじゃ」

「正直に言えば…」

「その通りです!!」

「正直に言えばいいってもんじゃない」

「どっちだ……いえ、なんでもありません」


――正直、この不毛な会話、面倒くさい。

この人は壁を越えるタイプ。分かり合えない。


 私だって妄想はする。若い子が慕ってくれたり、スパダリに愛されたり、それはもう色々と。

 だけど現実には起こらないし、起こさないように注意してる。


大事な人の傷ついた顔は見たくない、それだけ。

 夫はそうじゃない、それだけ。


「問題はこれからなんだけど、川田さんとどうしたいの?」

「彼女とは二度とそういった事はしない!」

「あなたの反省は決意だけ?」

「え?」

「私は口だけのしないしないは信用しないの。子供が言うのと同じ」

「どうすれば?」


「私ね、携帯小説をよく読んでるのだけど、ざまぁが好きなの」

「ざまぁ……」

「あなたへの罰はゆっくり考えるけど、川田さんへの罰も必要でしょ」

「彼女は関係ない!俺が誘ったから…」

「ここで庇うのは駄目。やっぱり気持ちがちょっといってるのかな」



****


「さて、言い分を聞きましょうか」


「ご、ごめんなさい……」

「謝罪はいらないの。本音かわからないし」


 私は川田さんを日曜日の午前中に、近所のカフェに呼び出した。

 前日、夫と話したが川田さんの言い分も聞きたかったから。


 ――よく来れたな。それは褒めたい


 彼女はうなだれている。ショートの髪に利発そうな顔、確かに可愛がりたくなる。


「主人のこと、本気?」

「いっ…いえ!あの、頼りになる上司と……」

「正直に言えば怒らないから」

 デジャブ。また被せるように言う。

「好きです。本気、です」

 熱い目を向けられる。

「正直に言えばいいってもんじゃない」

「あっ、すみません」


 ――フワフワしてるなぁ。何言っても理解しなさそう。

「主人はあなたに何か言った?」

「何か、とは?」

「好き、とか私とは別れるとか」

「特にそういう事は……」

「正直に言えば怒らないから」

「わ…私にはまりそう、と」

「………そこは言わないのが礼儀でしょ」

「すみません!!」


 彼女が頭を下げる。大声をあげたので周りの客が興味深そうに私達を見る。


「修羅場なので気にしないで下さい」


 目が合ったものたちはコクコクと頷き視線を外した。だが軽蔑するように川田さんをチラリと見る。チョイざまぁかな。


「じゃあ、私と主人が別れたら、結婚したいという気持ち?」

「いえ、あの……」

「6歳と10歳の娘、主人に懐いていて、私の方が嫌われてるくらいなんですよ」

 私は言葉を止め、うなだれている彼女の顔に手を伸ばし顎を上げさせる。

「顔は上げようか」

「す、すみません!」

「私は子供と週末さえ会えればいい。2人を可愛がってね?」

「それは……」

「それは嫌なんて言わせない。いいとこ取りなんてさせる訳ないじゃない」

「そういう訳じゃ…!」

「あなた達の純愛?ごときで私が苦労するなんて絶対にイヤなの。お金はいらないから子供達をお願いね」


「もう…しませんから許してください……」

 彼女は大粒の涙を流し、頭を下げた。


 ――可哀想に……明日からは針のむしろね


 今もこちらを見ているが、店内に夫の同僚の奥さんがいる。全て聞いていただろう。


 ――川田さんにも生活はあるし、辞めないよう踏ん張ってほしいとこね。



****


 帰宅すると、夫は娘達とゲームをしていた。

 気まずそうに私を一度見た。


 それを横目に私は洗面所に向かう。

 顔を洗ってサッパリしたかった。

 鏡で自分の顔を見ると、顎のあたりが強張っている。


 ――気づかない内に歯を食いしばってた……


 私はゆっくり顎の力を抜き、口角をあげてみる。


 ――これからどうしようか


 ふと、カフェで川田さんの顎を上げた時の彼女の目を思い出した。屈した者の瞳。


 あぁ、夫があの目になったら許そうか。それなら楽しめそう。もう前には戻れないのだから、楽しんだ者勝ちよね。


 私は悲しそうな顔を作りながら、家族の元へと歩みを進めた。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 浮気は心の殺人。 ダメ、絶対に。
[良い点] 不倫相手の女に逃げさせず、子供たちの事も責任を取らせるところ。 [気になる点] 子供たちに嫌われているといった描写があり、離婚が決まったあとの子供たちの様子が気になる。 [一言] 不倫され…
[良い点] この妻が、やらかした当事者達に本音を言わせている点。 [気になる点] 続きが気になる。 [一言] 普通はこの主人公のように妄想だけでとどめているのに(或いはそうならないように)、一線を越え…
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