第7話O.Leoという職業の1日
7話
「俺は醜男で老け顔で口下手で......とにかく
アレク......お前とはつ、つり合わない」
「迷惑だった?」
「いや光栄だ」
「じゃあ私がスィクを好きでいる事に問題は無いわね?」
「や...そ、うぅ......ああ。分かった。好きにしろ。」
「ふふ、好きよスィク」
スィクは再び顔を真っ赤にして机に突っ伏してしまった。
色々と自分で自分に呪いをかけてしまう人らしい。
私は席を立って、スィクの手を引いた。
「朝ごはんにしましょう。」
スィクは後から行くと言ってしばらく、丸くなって顔を覆っていた。
恥ずかしがり屋で可愛い。
朝はみんな同時刻に食事を摂るか、食欲が無くても
同席するよう船長権限で私が取り決めた。
他にもいくつか生活のルールを決めて、メリハリのあるワークライフにする目標を掲げた。
それくらいこの船団の働き方はブラックだった。
家庭なら崩壊寸前という感じだった。
まだ、このルールを定めて日は浅いが夜更かしのグラウスやワーカーホリックのヴァルカンも青い顔しつつも朝会に顔を出してくれている。
中々出てこない時は朝も元気なロクシスに船員を呼んでくるよう頼んでいる。
今日も皆、ぞろぞろと揃ったので朝の挨拶と食事の挨拶をする。
「おはよう、ロクシス、グラウス、ヴァルカン、スィク」
「おはようございます船長!」
「おはよ〜...」
「おはよう」
「......おはよう」
「今日もよき糧、よき仲間とともにいただきます」
いただきますと4人揃って挨拶をしてくれる。
今朝は私が用意した、ピュート(ドラゴン)の卵のスクランブルエッグと、ミノタウルスの厚切りベーコンにハチミツをかけたもの(ほぼ水飴)と、紅茶、ミノタウルスでダシを取ったスープに硬いパン......小麦粉が高級品なので柔らかいパンはお祝い事くらいにしか食べれないのだ...!
それでも私が来てから食事が豪華になったとみんな喜んで食べてくれる。
嬉しいかぎりだ。
「今日はどこに狩りに出る?討伐依頼は入ってる?」
情報担当のヴァルカンが答えてくれる。
「セイレーン型とゴルゴン型の討伐依頼は常に
でとるようだから他の船団とも取り合いにはならんだろう、火山沿いのC-2空域でいい」
「分かったわ、みんなは何か都合ある?」
「お、オレには難易度が高いみたいだけど......。」
と、ロクシス。
「格上と戦わないと強くなれないよ」
「そうだぁ!ぼくらの飯代や遊び代がかかってるんだ!死ぬ気で戦え!」
とグラウス。
思いっきりヴァルカンに頭を叩かれる。
こんなノリで朝の会議が進む、狩場は早い者勝ちなので食べ終えたら早々に各自の仕事に取りかかる。
戦士の私とロクシスは体のコンディション確認とアップ、それに武器の装備と点検を整備士のスィクと3人で注意深くやる。
研究者兼解剖医のグラウスは想定される怪物の解体準備と戦闘での効率的な討伐技術の記録や急所、価値のある部位の研究など多岐に渡っている。
遊び人に見えて意外に忙しい。
ヴァルカンは戦闘に関わらないがこれまた重要な仕事をしている。航海士であるため、船の操縦と
私やロクシスが狩った怪物の売買をその時の相場に合った正当価格で売るのだ。
その売った後の税金の計算や手続きなど難しい事は全てやってくれている。
私が多く怪物を狩るようになったので最近では搬入口の整備や掃除も手伝ってもらっている。
正直、大人組のグラウスとヴァルカンは働きすぎだと思うのだが......
「その分お給料高いからいいの♡」
との事だった。
戦士の給料は狩った分だけの出来高制で、整備士は普通?免許によって違うらしい、船や武器装備が無いと戦闘できないので低くは無い。
絶対に免許や資格の要る解剖医や税理士は高賃金となっている。
そのため若い頃に戦士をしつつ
勉強をし、資格を取り、全盛期を終えたら解剖医や整備士になる者も多い。
私も一応整備と解剖学と税理士の勉強は週に何回かスィクとグラウスが見てくれることになっている。
生涯戦士を辞める気は少しも無いが、船長として学んでおいた方が良いと思ったからだ。
船長である私が一応舵を取り目的地まで船を移動させる。
操縦しつつ戦闘装備を整えていく。
ヴァルカンが主に操縦しているが副操縦士として舵を見ている。
接敵が確認されたので船内通信でロクシスに戦闘開始を告げた。
「接敵確認、セイレーン型、戦士は直ちに戦闘開始!」
そう命令を出して私もすぐ搬入口に移動し、空上バイクを発進させた。
先に行ったロクシスはセイレーン型に浅い傷ばかりしか付けられずに攻めあぐねている。
怯えからか、勢いが弱い、アレでは価値が下がるばかりだ。
「セイレーンは船に引き寄せて首を落とす!」
ロクシスに教えるようそう叫んで銛のロープ部分をセイレーン型の首に巻き付け引っ張り遠心力でこちらが振り回される反動を利用して、すれ違いざまに
巻き付けたロープから下部分を狙って切り落とす。
切れ味はスィクの整備の賜物だ。
一発で仕留め私は空中で二回転ほどして搬入口目掛けてセイレーン型の首を投げ入れる。
反動を利用し続けて振り返るとロクシスがセイレーン型の胴体を落ちないようロープを巻きつけていた。
すぐ参戦し二人で大きな動体を搬入口に運び込む。
*
「アレクみたいに回転しながら狙い定められないよ」
「止まってても急所に当たってないけどね、ほらもう高価な髪の一部がボロボロ」
「だからオレには難しいって......」
ロクシスとグラウスが各々セイレーンを解体しながらケンカしている。
今回のセイレーンは頭部が160cmほどある大型個体だ。
セイレーンは上半身が人型、下半身が魚のような怪物だ。
人型といっても人のような形をなんとかしてる程度。
頭部は繊細な解剖技術が必要なのでグラウスが、助手にロクシス。
胴体は鱗はぎが単純作業だが大変なので残りの3人。
鱗も高価で売れるので丁寧に剥いでいく。
下半身には貝類や鉱物などが付いてる可能性もある価値の高い怪物だ。
肉は上半身は硬めで干し肉や加工肉に使われる、よく噛むと旨みが滲み出て、私は好きだ。
下半身の肉は動物と魚の中間みたいな味がする。
狩りたてを刺身でいただくのが最高だ口の中でとろけていく。
「ひと段落したら刺身パーティーしません?息抜きに」
「お腹減っただけだろうアレク」
「売り物を派手に食うなよアレク嬢」
*
解体が終わると後はヴァルカンの仕事だ
どの部位をどのくらいの価格で売るか
競り市場では専門用語が飛び交っていて分からない......。
飛ばすように売り払っていった後は討伐記録を周辺都市を取りまとめている船団の上層部に報告する。
「これで、O.Leoの仕事は大体終わりっと......」
みんなにもっとゆとりのある生活をして欲しくて仕事の流れをまとめていた。
戦士のロクシスをもっと教育すれば手早く価値のある怪物を仕留めて仕事がはかどるかも......。
急所などの知識もいるがまずは戦闘の成功体験を多くしてもっと自由に空を舞うことができればいい
「個人的にはスィクと天空デートしたいけど
船長としてはロクシスを空に慣らすのが先かなぁ」
せっかく思いを告げたので色々一緒に過ごして振り向いてもらいたいが、それはこの船団の環境が整ってからになりそうだ。
......いつ整うのだろう。
*
アレクに好きだと思いを告げられてから
こっちは仕事が手につかないというのにアレクはずっと忙しそうにしていてゆっくり話す暇もない。
しかもロクシスと空の散歩をすると聞いて胸がざわめいた。戦闘訓練の一種らしいが......。
自分とつり合わないと言ったくせにあの娘が隣にいないと不満なのかと自分で自分に呆れてため息を漏らす。