6話 朝チュン
鳥の鳴き声、夜明けの光が部屋に入ってきて意識が覚醒した...つまり起床した。
脳まで休められたのはいつぶりだろう、四半世紀ほど生きているが
眠れたのがいつが最後か覚えていない。
心地いい起床だ。
......なんだか片手に温くて柔らかいものがある。
視線を上げると硬い椅子に座ってウトウトしている
濡羽色の美が居た。
「ぁ...レ、ク......」
朝日で照らされた濡羽色の髪はさらに光沢を増して天使の輪がはっきりと見える。
白い肌に髪と同じ漆黒の長いまつ毛、それに影が落ちていて耽美さを強調させている。
唇は果実のように赤く瑞々しい......
...部屋の乾燥で少し渇いているようだ、何か飲ませてやりたい。
寝起きにぼぉーっとアレクに見惚れていたが、ふと
手の中の温みを思い出した。
自分の節くれだって骨張った手がアレクの手をがっしりと掴んでいた。
「ぃひッ......!?」
驚いて勢いよく離そうとしたが寸前で止まってそうっとアレクの白く柔らかな手を放した、が
アレクも俺の手をぎゅっと握っていて見た目にそぐわない力強さで繋がりを解く事はできなかった。
地の底に根が張ってあるような体幹だ。
俺の力では引き剥がせそうに無い。
俺の眠りのために硬い椅子でまだ幼さが残る少女を
船長を寝かせてしまった......。
もう遅いかもしれないが体が冷えてしまってもいけないので片手でモソモソと毛布をアレクにかけた。
「ん...ぅう......スィク...?」
「起きたか、温かい飲み物を持ってきたい...その...手を......。」
「まだはなしちゃやらぁん...」
寝ぼけているのか、やたら色っぽいのでやめて欲しいと思った矢先こっちの寝台に潜り込んできた。
「あ、ぁあ、あれ、アレ...あぁあアレク!」
「あったかい〜...スィクのにおいする...」
「まて、待て、これはダメだ起きろアレク!」
「やらぁ...ん〜」
船長!!!!
手を離そうと両手でアレクの手をこじ開けようとしたり引っ張ったりするが微動だにしない。
さすが戦士その華奢な手から出る力とは思えない、諦めた。
アレクを毛布でぐるぐるに巻いて冷えた体を温めようとしたが存外ポカポカした体温が薄い毛布越しに伝わってきた。
......やはりいけない、ダメだ、よくない非常に、何がとは言わないがよくない。
アレクを汚したくない......!
「アレク...お願いだ、手を...果実茶を作ってくるから......」
「果実茶...飲むぅ〜!」
ばっと手が解放されてほっとしたのもつかの間
両手で体を拘束された。抱きしめられている。
「ん〜スィクのにおい...ふふ、かわいい」
「かわ...!?匂...ッ!」
いけない...さっきより密着してしまった。
果実はアレクの好物だから手を離してくれるだろうと思っていたのだが...離してはくれたが...。
こんなに寝起きの悪い船長だとは思わなかった。
朝会兼朝食に出る頃にはキリッとしていてテキパキと指示をしたり船員の進言を聞いたりしている。
今は俺の頭を胸元に抱きながらむにゃむにゃと
ふにゃふにゃの有り様だ。
昨晩、俺の眠気に加勢してくれたアレクの香りだが一晩寝てすっきりした今の俺には危険な芳香だ。
普段と全然違ってふにゃってるアレクもよくない
どうすればいいのか思考できず、ひたすら耐えるために固まっていた。
それからどのくらい経っただろう___......。
いつもの起床時間になったのかアレクはパッと起きた。
「ごめんなさいスィク...寝ぼけて色々しちゃった?」
「......熱い果実茶を持ってくる」
「ごめんなさいい〜ッ!」
「大、丈夫だ。怒ってはいない何か飲みながら話そう」
「はい......」
*
やっちゃったよこれ〜〜〜
ほぼ一徹で眠かったとは言え
スィクの寝台に寝そべるなんて......
はしたない女だと思われたかも知んない〜!?
は〜......スィクってお花みたいな匂いする、妖精さんなのかなあの見た目で、ふふギャップ...ふふ......じゃない!キモいな私!
でも、スィクが「眠れた」って言ってくれて良かった。
母さま式の寝かしつけ術はやっぱりすごい。
落ち込んだりニヤついたりしているとドアが開いて果実茶の甘い香りが私の鼻腔を喜ばせる。
スィクは無言でマグカップを差し出してきて
ポットを机に置いた。
「そんな薄着で硬い椅子に一晩寝かせる気は無かった...というか俺が一晩中起きずに眠りこけると思ってなかった。すまない、体調は悪くなっていないか?」
「なるべく長く眠ってて欲しいなって思ったら私まで寝ちゃってて...その寝台にまで上がっちゃってゴメンナサイ......」
「......俺はその、老け顔だが、まだだいぶ若い。そばに居てくれるのは悪くないが、近過ぎるのは良くない。」
「はい...。」
「グラウスやロクシスならどうなっていたか分からんぞ。」
「こんな事スィクにしかやらないわ」
「ゴフッ!」
盛大に老け顔がむせた。
「そ、ゲホッ!そういう...!事をなぜっゲホゲホッ...!」
「だ、大丈夫?」
背中をさすったらまたスィクの体がビクンと一際跳ねてむせたがすぐに治ったようだ。
「な、なぜ俺にかまう。」
「スィクが好きだからかしら」
「...それは船員としてか?」
「男性として」
ごつん!とものすごい音と共にスィクは机に頭をぶつけた。大丈夫だろうか...?
中々頭を上げなくて心配していると耳からじわぁ〜っと顔が赤くなっていってるのがわかった。
えっ可愛い。
「から、かうな...」
「好きでもない男性の添い寝をするかしら?」
「ぐぅ、うぐぅ...っお、俺は、俺は醜男だぞ
船の整備しか能がない、無骨で、おっ女を喜ばせるような事も知らない...」
「私の体が冷えないように毛布で包んでくれて
アツアツの甘いお茶を淹れてくれる優しい人よ」
「ううう...!」
事実なのにスィクはブンブンと顔を横にふりつづけている。
「き、気持ちは嬉しいが、俺だとつり合わない...」
振られてしまった。