5話 幸せな眠り
・最初、イケメン不憫くんが咬ませくんやってるのでイケメン好きな人は不快感があるかもしれません。
・いつもの倍ほどの文字数になってしまいました。
「ねえアレク、掃除の仕方これであってる?」
「ねえアレク!オレの部屋綺麗になっただろ?」
「アレク、アレクはどうやってすごい狩りの技術を学んだんだ?」
「アレク!戦闘のやり方教えてくれよ」
美青年からの押しが強い。
愚痴じゃないけど、愚痴じゃ無いけど!
自慢でもマウントでも無いけど!
誰に予防線を張っているんだ私は...!!
ロクシスが隙あらば私と話そうとしてくる。
最初は船団に馴染ませようとしているのか
と思っていたけど、ロクシスが話しかけたいだけだと気づいてしまった。
何故かロクシスは私がスィクにちょっかいを
出しているところに出くわす事が多い。なぜか。
その一瞬、ものすごく妬ましそうに顔を歪めるのを見てしまった。
美青年が台無しのものすごい顔だった、ホントに。
それからグラウスとヴァルカンの反応が
「やれやれ若いのう」
と言った感じなのだ。
この青年は私の見た目だけで言い寄ってきていると
判断してもおごりでは無いだろう......。
ロクシスは悪い人では無い、ずっと美青年と言っている様に容姿は整っていて仕事に積極的でまさに
人生これからだ!って感じ。
たいていの女の子なら見た目で恋に落ちただろう。
だが私は正統派のイケメンが苦手なんだ!
溢れ出る自分の容姿に対する自信とモテて当たり前という女性の扱い......その他色々。
あと、私はもうスィクに心奪われてしまった。片想い中だが。
私は不器用で無骨で「話すのは苦手だ」と顔にかいてあるような
無愛想な男が好きなのだ、職人気質というかなんというか!分かってもらえないだろうか!誰か!
仕事仲間としては絆を築いていきたいと思っている。う〜んどうしましょうロクシス。
そんなお年頃の女の子の様な、実際お年頃の女の子なのだがその手の悩みとは無縁の生活を送っていたのでかなり深刻な顔をして悩んでいた。
みんなとの食事の場のダイニングで......。
「どうかしたの?アレク」
ロクシスだ。眉間にシワの寄った私の顔を遠慮がちに覗き込んでくる。
「夕食の貝のフライが美味しかったなって思い出してあじわっていたの。何か変だった?」
ちょうど夕食後で大人たちはブドウ酒を、私とロクシスのお子さまたちは果実水を飲んでリラックスタイム兼会議。
「その貝は牡蠣といって昔は亜水とは違う海で捕れたものだ。今はイデ火山や、まれにセイレーン型にくっ付いている。
今朝いい牡蠣が市場に並んでいたのを調理した。
口にあったのなら良かった。」
「スィクは料理がとても上手いし好きなのね。
普段無口なのにたくさん喋ってくれたわ。」
「......もう黙る。」
いつものニヤケ面をもっとニヤケさせてグラウスが
「何照れてんだよぉ」とからかうとさらにスィクは無口になってしまった。
貝になっちゃったわ。どえらい可愛い。
微笑ましくスィクを見ているとピリッとした空気を片側から感じて視界の端で見た。
ロクシスが例の妬み顔をしていた。
どうすれば良いのだ......!
「片付けはロクシスに頼んでも良い?スィクはたくさん作ってくれたし、他のみんなは仕事が多いから」
「もちろん!任せてアレク!」
「今のはアレク船長と呼べ若いの」
ヴァルカンが船団を引き締めてくれる。
その言葉に素直に従って言い直してくれるロクシス。
う〜ん船員として全く問題がない。
「なら俺はもう寝る。おやすみ」
スィクは早々に席を立った。
まだ夜の8時だ。
「えっ早いのねおやすみなさい」
船員は当然のようにおやすみと挨拶を交わしていく。
のっそりと自室に向かう彼の背中を見送って
残った船員に視線を向けた。
グラウスがいつのまにかブドウ酒片手に私の側へ来ている。
「彼、長く眠るの?」
「いや、彼はほとんど眠れないんだ。
ずっとベッドで横になって身体を休ませてるだけさ......原因不明だ」
私の真正面に座っているヴァルカンがそう答えてくれた。
グラウスは私の頭を好き勝手撫でている。
この人の距離感は謎だし全員にこういう事をするので
この船団入ってしばらくだけどそういうものだと思ってしたいようにさせてる。
「治る...かな?」
「さぁね......おそらく心因性だからね」
「.........」
体は休めても眠れないのは相当辛いんじゃ無いだろうか。
顔が曇って行くのを自分でも止められない。
「心配?同情かな?」
真後ろにいたグラウスが耳元まで頭を下ろして低く囁いてきた、ゾワっとするしビックリしたのでこれはやめてほしい。
「近い」
グッと手のひらでグラウスの顔を鷲掴むと痛かったのか「むぐぃっ」という変な悲鳴をあげた。
おあいこだ。
「そりゃ心配よ、大切な仲間だもの」
「でもなあスィクさんずっとああだから
今さら変われないと思うよ」
後片付けを終えたロクシスが機嫌悪そうに話しかけてきた。
「別に変えようなんて思ってない。
私にできることは、気にかけるだけよ。」
大人組はお酒を片手に仕事の話をしている。
ロクシスはボソリと小さく私に問いかけた。
「アレクはさ......スィクさんの事が、好きなの?」
ついにきたか...ここははぐらかさずに淡々と答えよう、そうするしか無い...。
「なんだか、私と似てる気がして彼が好きよ」
「君とスィクさんが似てる?どうして」
「さぁ?なんでかしらね、でもきっと私みたいなお子様は相手にされないわ」
小首をゆったり傾げて肩をすくめると
ロクシスは顔を真っ赤にして何か言いたげに口を開けたがそれを聞かずに私も入浴して寝ると告げ
スィクの元へ行った。
----------------
グラウスとロクシス
「グラウスさん...スィクさんは......
アレクに惹かれるかな」
椅子の上で三角座りをして落ち込んでいる若人
うーんこれも青春。
「惹かれるね。というかあいつが自分から話しかけたり側にいる事を良しとしてるんだから
もう惹かれまくってるよ。どんまい」
あんまり可哀想だからお兄さんが頭ナデナデしてあげよう。いつも撫でたい時に撫でてるけど〜。
ヴァルカンの頭も撫でる。ツルツルしてて意外と気持ちいんだアレ......。
スィクはめっちゃキレるから撫でれてない。怖い。
艶も色もいい若い髪をサラサラと撫でるとさらに背中が縮こまった。
「それに、ロクシスはアレクの事を知っていくと
勝手に幻滅して彼女を傷つけるから早く忘れなよ。」
「どういう事だよ......」
「女の子は可愛いだけじゃないって事さ!」
ゲラゲラ俺が笑うと若人は不満げにうめいた。
今まで顔と若さでモテてた男の苦渋は美味い。
「それで?お前さんはいつまで女遊びして
いつ身を固めるんだ?」
ヴァルカン、口は笑っているが目が白けている。
ぼくも言われた言葉に同じ顔になる。
「ハハハ、ぼくも自室で怪物の資料でもまとめようかな!」
ぼくは逃げた。
----------------
スィクとアレク
なぜだろう、アレク......あの少女の前だと色々早口でしゃべってしまう。自分が気持ち悪い。
それでも常人より口数は少ないだろう、元々喋るのは好きじゃない。
そばに他人がいるのも得意で無い。
理由はよくわからないがわずらわしい感じがする。
「スィク、眠れないの?」
「......男の部屋に不用心に入るな。」
「スィクは無粋な事しないでしょう?」
この少女はやはり別...というか、俺に構うヤツは珍しい。
謎だ。
......それにロクシスとアレクが談笑していると気になって見てしまう。
何か胸の内側がザワザワするような嫌な感覚だ。
「今夜一晩、私に手を貸してくれない?」
「整備か?」
「ふふ、違うわ、手を繋いでて欲しいの。ダメ?」
まだあどけなさが残るが、所作が艶やかだ。
こんな冴えない男の手を取りたがるなんて何を考えているのか......。
「変なヤツだ......好きにしろ」
パッと手を出すと指先からゆったり徐々に触れられ、しっとりと手を握られた。
なんだその所作は...色気が強すぎないか?本当に15歳か?
動揺していると、目をじっと見つめられてまるでダンスの始まりのようにゆったりとした動きで寝台に誘われた。
胸が早鐘を打っている、こんなんじゃ普段とは別の意味で眠れない。
「大丈夫、怖く無いよ」
「こ、怖がってるんじゃない......!」
「手繋いでるだけだから、ね?」
柔らかい微笑みを見ていたら寝台に倒され
先日彼女が洗濯した掛け布団を肩また優しくかけられる。
清潔な香りとアレクの微かな甘い香りが混じって
頭がぼうっとする。
「あ......」
「しばらく手繋いでるよ、ここに居るよ」
「そうか......なら......いい」
他人の温もりが心地いいと初めて感じた。
アレクの姿を見ようとするがまぶたが重くて目を開けていられない。
頭を撫でられている、普段なら誰だろうと払いのけるのだが...、髪をすくアレクの手はひどく優しくて心地よい温かさで意識がとおくなってゆく......。
あれくが...ほほえみを、むけてくれている......きがする。
「ちゃんと眠れそうね、おやすみスィク」
あれくの...こえが、耳もとでした...。
おまえもちゃんと...寝るんだぞ。
......片方のまぶたに、何かやわらかくてあたたかいものが当たっている......なに?
ちゅっ
あ、キス...まぶたに、された......?
夢かも......しれない......きっとそうだ。
スィクは生まれてはじめて幸せな眠りに落ちた。