4話 恋と掃除
スィクの事、好きな人間だなぁとは思ったが
恋愛感情なのかしら?
まだフワっとしている。
これが俗に言う『気になる人』......かしら?
母も居ないし女友達だってまだ居ないので
「スィクって可愛いわよね。」
「ん、ゴフッ!ゲホゲホッ?!えっ?嬢ちゃん?」
グラウスに言ってみたら盛大にむせられた
信じられないと言う表情付き。
彼は今ダイニングで今回討伐した怪物の研究資料をまとめていた。
私は夜遅くに目が覚め、喉が渇いてここに来た。
こんな遅くまで仕事してるなんて......
彼ら全員のスケジュールを聞いてから狩りのペースを考えた方がいいかもしれない。
と思いながらスィクの事が頭から離れず第一声が
ああなった。ごめんなさい。
「アレク船長はああいうのが好みなんだ?」
「うーんまだその手の話がよく分からなくて経験多そうなグラウスに言ってみたの」
「フゥン、どこが可愛いの?」
「強面かと思ったらシャイなとこ、顔真っ赤になって強面崩れちゃうところ、なぜか私に触れる事を禁忌としてるとこ、目線合わせて跪いてくれるとこ、料理が美味しいとこ、ふとした表情が儚「ハイストップ〜!」
それはもう恋なんじゃないの〜といつもの困り眉に下瞼を持ち上げたようなニヤつき顔で気怠げに言われた。
そうか、嫌われたら凹むし、そうよね。
そういう前提で考える事にしました。
「この事はなんとなく内密に、船長が1人の船員贔屓してるのって良くないかなって」
「おお、そういう気づかいしちゃう?
ぼくは船長が優秀だったり気の合う船員贔屓しててもいいと思うけどな
船長命令だし、まーハッキリとは言わないでおくよ。」
「ありがとう。
ところでいつもこんな遅くまで仕事しているの?」
「うんや、今日女の子のとこから朝帰りだったからサボってて仕事溜まったヤツ、大量だったのもあるけど〜」
「そう、なら今後は朝方のスケジュールに切り替えるからね、怪物がよく出るのは早朝だもの
働いてから遊びに行ってね。」
「なんかママ思い出した、ハァ〜イ船長」
フフとグラウスは眼鏡の奥の瞳を細める。
飄々とした青年だけど話せてよかった。
果実水を飲み終えて片付けつつもう一つ用事を思い出した。
「あ、そういえば明日は船内大掃除するわよ」
「......マジ?」
グラウスは遠い目になった。
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「船という事もあってやっぱり空気がね、こもってて生活し辛いので今日は大掃除です〜。
昨日のうちにかなり稼いだらしいので私は3日〜1週間は終わるまで毎日掃除にしたいと思います。サボれば長引きます。船長命令です!」
「「「へ〜い」」」
早朝から掃除をしろと言われ、ダルそうな男たちの声がダイニングに響いた。
掃除の手順書を配り、大きめのボードに書いたものを私が指して指示していく。
まずは換気、綺麗に使ってそうだが換気扇なんかは汚れまくっていた、その上あまり窓を開ける習慣がないらしい。
人や狩った怪物の脂の匂いがこびりついている
次不要物の分別、まず物を減らさないと掃除はできない。
必要品をまとめて小舟に積み、船を空っぽにする。
そして天井、照明、壁、棚、机、床の順に脂汚れがよく落ちる洗剤で隈なく洗っていく。
来たばかりの私は物が少ないが共通財産や備品、長く船に居る人は物の整理に手こずりそうだ、船は家の役割もしているので
この船団だとアパート規模の一室程度の生活空間が一人一人に割り当てられている。船長室は広いが前船長が喫煙者だったのかタバコ臭いので本当になんとかしたい。
「自室の整理が終わったら共通区画を分担して掃除します。ダイニングと小型船出入り口はよく使うから優先して下さい。」
「ダイニングは俺が......。」
スィクが挙手した。やはり料理好きなのだろうか。
「ぼくは出入り口やりたいけど研究道具と研究室広いから多分遅いよ解体室も繋がってるし」
「プライベートスペース以外は分担したいけど解体室も見られたくない?」
「あっそういう事なら共有スペース扱いで〜」
「オレが手伝いますよ。」
グラウスとロクシスでトントン分担が決まっていく
ロクシスが積極的でよかったー!
「では私は整備室やエンジンルームの手伝いをしようかの。」
ヴァルカンはスィクを見上げて言った。
スィクは少し会釈をして返した。
「私は荷物少ないし部屋は広いけどみんなよりすぐ終わりそうだから玄関と全部の廊下を担当して手の要る所の応援に行くわね。」
了解と皆すぐ掃除に取り掛かってくれた。
窓を開けて各々掃除がひと段落ついた頃
「空気が通るだけもだいぶ違うもんだな。」
スィクが遠巻きに声をかけてきた。
本当に遠い、昨日詰め寄ったから警戒されてる?
「遠くて聞こえないのだけれどー!」
向こうから近寄って来させるようにしよう。
私の言葉を聞くとおどおどといった様子で
じわ......と近づいてきた、野良猫か?可愛いわ。
顔がちゃんと見える距離になってから私は言葉を続けた。
「空気がいいと気分いいでしょう?」
「聞こえてたんじゃ無いか......。」
やられたと顔を覆うスィク
「だってあまりにも遠いんだもの、私が怖い?」
「い、いや、ちが、違う、俺が勝手に......その
アレクは俺をまっすぐ見つめるから照れ臭い。」
「良かった!嫌われてなくって!見られるだけで照れるなんて、とてもシャイで可愛いのねあなた。」
「そ、そう、そういう、所だぞ!からかうな!」
からかってないのにな〜と思いつつ掃除に戻った。
船員全員が聞き耳を立ててるのに気がついたからだ。
「みんな、今日中に寝床までは清潔にしましょ!」
大声で言って手を思い切りパァンと打ち鳴らした。
気配が散っていく。
綺麗な夕焼けが見える頃には、船内は安眠できそうな具合になった。