1話 いきなり船長
1話 いきなり船長
遠い遠いはるか未来、地球の土壌は謎の毒性大気に汚染され
人類は天空へと逃げる他無かった。
人類は空気の薄い天空でしぶとく生き延び、多様化し、天空に国家や大都市を作るまでに新たな文明を発展させた。
「ここ...よね、私を選んでくれた船団は」
嗅いだ事のない土地の匂い、踏んだ事のない都市の地面に、私はどうにも弱気だ。
目の前の新しい生活の場であろう船はパイプやコードがむき出し、装甲は損傷したところを新しい装甲で次合わせたツギハギな印象だが、丁寧にサビ落とししてある。
無骨だが、好ましく感じた。
ええいままよ!ここで突っ立っていてもどうしようも無い
扉を叩こうとした瞬間、扉が開いて目の前に船の装甲そっくりな壁があった。フリーズ。
「......もしかして、新人のアレク・エリーか?」
頭上から低く唸るようなかすれた声が降ってきた。
「ええ!私はリンド出身のアレクエリー、アレクって呼んで。ここがペトロ船団ですか?」
「そうだ、敬語はいい、俺は整備士のスィクだ。」
怖い、と思った事を隠そうと笑顔で明るく挨拶した。
でっっっかい、一瞬私の倍くらいあるのではと思ったが
迫力だけだった。
私より頭三つ分ほどの差だ。
背丈はあるし骨太な感じだが厚みは無くて猫背で陰鬱な雰囲気をかもし出している。
目の下のクマも濃くて老けて見える。
ぱっと見、冴えない感じの40代男性に見えるが、クマと眉間の深いシワと猫背が無くて服が装甲色で無ければもっと若いかもしれない、年齢が全く分からない。
怖そうな人だ......なるべく怒られたくない。
整備士と言ったな、船や備品を壊さないように気をつけよう。うん。
髪は淡いピンク色で素敵だ。
パサついているが手入れすれば化けるだろう。
じっと髪ばかり見ていると、彼は居心地悪そうに顔をそらして何か言いたげに口を開閉し出した。
「......あんたを迎えに行った新人の戦士、若くて顔がいい男と合わなかったか?」
若くて顔がいい男?港からここまで人が多くて全く見覚えがない
露店に夢中だったわけではない、決っして。
「元々、船の前に来るよう言われていたし分からなかったわ、入れ違いになっちゃった?」
「まあいい、しょうがない、中で待っていろ、ロクシスが......
あんたを迎えに言った男がすぐ戻ってくるはずだ。詳しくはそいつに聞け」
「迎の人待っているだけでいいの?」
「奴はせっかちだ、大した事はない。
俺は少し用がある。」
「えっ!?」
そう言って整備士のスィクはさっさと外出してしまった。
初対面なのに留守を任されてしまった。どうしよう。いいのか。
しかし、隣の都市からとはいえ、長期移動の疲れもある。
お言葉に甘えて船の中に入った。
座って果実水でも飲んで待つか。
クレタはイデ火山岩森が近くにあり、鉱物は豊富だがあまり豊かな都市では無い
と地図アプリや人々から聞いていたが、鉱物が豊富なだけあって作物への肥料に事欠か無いようだ。
岩森とは書いて字の如く岩の森です。
天空に人工の大地を浮かせて生活する我々にとって岩の森は貴重な資源。
港には果実売り場、果実の干物、果実水などが充実しており、リンドという天空都市で最も中央から離れた田舎娘を震撼させた。
リンドの作物?質より量でございます。
もう果実水の事で頭がいっぱいになった私は船の油っぽい匂いの廊下を進み、腰掛ける場所を探した。
BARテーブルのようなカウンターと椅子、厨房は一般家庭的なキッチン。
誰の趣味だろう?
ここが新しいペジかー......
年季が入っていながらも丁寧に使われているダイニングだ。
だがしかし、男くさい。
落ち着いたら大掃除させて頂こう。
男性乗組員しかいないとは知っていた。
男性独特のこの強いにおいはなんなのだろう。
ずっと母と暮らしていたので男性は未知だ。
「ふぅ......。」
ぼんやり考えながら果実水の甘味に疲れを委ねていた所、奥の部屋からドコドコと轟音が聞こえる。
ざわりと嫌な予感が胸をなでた。
目を向けたらドカっと一際大きい轟音と共に船が揺れる。
機密性の高いドアは軋むだけだったが
ドアを開けて出てきた人物と共に異臭と煙がたち込める。
「ゲホゲホッ!やっべ、またやっちまった〜。ゲェッッホ!くっさ!」
ドアをガチャガチャと慌ただしく閉めながら煙と共に青年が現れた。背丈はスィクよりやや低めで細身だ、それでもこの国の平均身長より随分長い。
大きい人が多いから船も大きめなのだろうか。
「あれ?お客さん......?あ!新しいタビトか」
派手な登場をしたお兄さんと目が合ってしまった。
挨拶しようと立ったら、お兄さんはしゃがんで顎をそうっと私の顎を掴んで至近距離で目と目が合う。
顎を......???
「へえ!めちゃくちゃ可愛いコだ!
ぼくはグラウス、研究員さ。よろしくね。」
「アレクです......。」
近いのだが。近すぎるのだが。
「いくつ?」
「15、です。」
でさ、今晩...と続こうとしたところでたしなめるような咳払いと共に
背が低く丸いフォルムのスキンヘッドの男性が別のドアから出てきた。
初老の気品あふれる紳士という出立ちだ。
「ゴホン、失礼アレク嬢。
私はヴァルカン、この船の航海士と会計士をしている。
下品で粗野な奴が居るが決っして悪人ではない、すまんな」
「よろしくお願いします!」
研究員のグラウスと名乗った男は隠しもせず顔をしかめて舌打ちをしながら振り返った。
「ジジイ」
「困らせるなグラウス」
「ほいほーい」
常習犯らしい、いさめる人がいてよかった。
他に船員はいないのだろうか?
例えば......
「ところで船長さんは?」
私の言葉にヴァルカンさんとグラウスさんは顔を見合わせた。
「「お前さんだよ。」」
へ??????
「へっ?!」
小説はじめてなので筆が遅いです。
修正や設定の練り直し大いにあります。