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24話『アイアン・デザイア対策本部』


 寝不足の状態で学校を過ごした節也は、放課後になるとすぐ帰路に着いた。

 異世界に妹の手掛かりがあると知った今、地球で何かをする必要はない。少しでも長く異世界で活動し、プレイヤーとしての技能を磨きつつ、新たな手掛かりを見つけたかった。


「節也」


 廊下を歩いていると、祐穂に声を掛けられる。

 祐穂と交流が深いことは、学校の皆には秘密にしている。そのため潜めた声で会話した。


「なんだ」


「今日、ちょっと連れて行きたい場所があるから、カイナの百貨店で集合にしましょう」


「それは別にいいが……」


 昨日の続き、今日も案内したい場所があるらしい。

 節也は首を縦に振る。


「それよりアンタ……ちゃんと天使は近くにいるのよね?」


 祐穂がキョロキョロと周囲を見回しながら訊いてきた。


「ああ。透明化した上で、常について来るよう伝えてある」


 試しに手を軽く後ろに出すと、握り返される感触がした。

 透明化したルゥは、節也の背後で待機している。


「学校にいる間は、屋上で日向ぼっこさせているが……問題ないよな?」


「日向ぼっこって……まあ透明化しているならいいんじゃない? アンタも分かっているとは思うけど、基本的に天使は常に近くで待機させておきなさいよ。いざという時、すぐに異世界に行って戦えるようにね」


 ああ、と節也は頷いた。


「お、二人とも。今日は一緒に帰るのか?」


 その時、背後から声が掛かった。

 振り返れば、そこには一人の成人男性が立っている。


「冴嶋先生、お疲れ様です」


「おう、お疲れ様。相変わらず御厨は礼儀正しいな」


 無精髭を生やした男性教師――冴嶋傑(さえじますぐる)は、笑みを浮かべた。

 一瞬で猫を被る祐穂に、節也は複雑な顔をしながら口を開く。


「その……偶々一緒にいるだけですよ」


「そうなのか? お前ら家が近いだろ?」


「知ってるんですか」


「一応、担任だからな」


 傑は人当たりの良い笑みを浮かべる。

 節也たちの担任でもある冴島傑という男は、凡そ一年前にこの学校へやって来た教師だった。若干、服装はだらしないが、基本的には生徒想いの良い教師であるという評判が多く、この一年間で学校にも上手く馴染んでいる。


「先生、また後で」


「おう」


 祐穂が小さく頭を下げて挨拶をした。

 立ち去る傑の背中を見届けた後、節也は祐穂に訊く。


「先生と会う用事でもあるのか?」


「……ま、後で分かるわ」


 お茶を濁す祐穂に、節也は首を傾げた。

 その後、二人は別れてそれぞれの家に辿り着く。節也はすぐにルゥと共に異世界へ転移した。


「――異世界へ(ログイン)


 転移すると、目の前の景色がカイナの百貨店に変わる。最後にログアウトした場所が百貨店だったのだから当然だ。


 暫く待っていると、すぐに祐穂とサージェインもやって来た。


「お待たせ」


「ああ。それで今日は何処に行くんだ?」


「カイナにある、アイアン・デザイア対策本部よ」


 その言葉を聞いて、節也は先日のことを思い出す。


「先日、タイラントワームを討伐した後に、軽く話したやつか……」


「ええ。対策本部は文字通り、アイアン・デザイアの対策にも使えるけど、それ以上にプレイヤー同士のコミュニティだから、情報交換できるのも大きなメリットなのよ。こっちは直接、顔を合わせて話す分、ネットの掲示板より重要な情報が手に入るわ」


 成る程、と節也は納得する。


「そう言えば、祐穂……掲示板でちょっと話題になってたぞ」


「ぐっ……無視すればいいのよ、あんなの」


 一瞬、祐穂は物凄い形相をした後、自分を宥めるように言った。

 しっかりエゴサーチしているらしい。


「ここが本部の拠点よ」


 祐穂に案内された対策本部の拠点は、カイナの端に存在していた。アイアン・デザイアはプレイヤーたちが生み出した組織だ。その対策本部もプレイヤーたちの都合で作られている。郊外に拠点を設置したのは、プレイヤー間の争いに異世界人たちを巻き込まないための配慮だろう。


 祐穂の後に続き、節也も拠点の中に入る。

 三階建てで木造建築の家屋には、複数のプレイヤーと思しき者たちがいた。

 その中心には――見知った人物が佇んでいる。


「……は?」


 どうしてここに、この男の姿があるのだろうか。


「お、二人とも来たか」


 目を見開いて驚愕する節也に、男は悪戯っぽく笑みを浮かべた。


「ようこそ、アイアン・デザイア対策本部へ。本部長の冴嶋傑だ」


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