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19話『蒼の狂戦士』


「ユーホさん、馬車を一度止めますか?」


「このままで結構よ」


 そう言って祐穂は、サージェインと同調する。

 濃い蒼色の光が放たれ、その腕に短い杖が現れた。


「――《水渦禍の穿槍(カリブディス・ピック)》」


 祐穂がスキルを発動する。

 渦巻く水の槍は、一直線にタイラントワームへと向かったが、やがて失速して地面に突き刺さった。


「やっぱり、私だとこの距離じゃ効かないわね」


 まるでその結果が分かっていたかのように、祐穂は呟き――。


諧謔曲級(スケルツォ)――《流波の笹(フィン・バーラ)》」


 節也との模擬戦では出さなかった、三つ目のスキルが発動される。

 祐穂の足元に、水でできた笹舟のようなものが顕現した。祐穂はその船を、スケボーのように乗りこなして、空を駆ける。


「飛ん、で……?」


 一瞬でタイラントワームへと肉薄する祐穂に、節也は目を見開いた。

 驚嘆に値する機動力だ。どうやらあのスキルは移動用のものらしい。


 タイラントワームへ接近した祐穂は、徐に杖を振りかぶる。

 そして、その杖を直接ぶつけるように――。


「《押し寄せる波(コールガ)》ッ!!」


 大波が杖から放たれ、タイラントワームの巨体を吹き飛ばす。

 衝撃の余波が大気を揺らし、節也の肌を粟立てた。


「なんだ、あれ……? 杖でぶん殴っているのか……?」


 祐穂の攻撃は止まらない。

 怒濤の猛攻を繰り広げるその姿に、節也は唖然とする。


 ファンタジー系のゲームの中では、定番の武器である杖。その使い方は大抵、魔法の媒体であり、遠距離攻撃向けの武器だ。しかし祐穂は、その杖を接近戦の武器として利用している。


 どうやらそれこそが、あの武器の――"波"を司る天使サージェインの正しい使い方なのだろう。序曲級(オーベルテューレ)のスキルで、タイラントワームの巨体を軽々と吹き飛ばしているその光景を見て、節也は確信した。


「そこのプレイヤー! 援護する!」


「助かるわッ!!」


 祐穂の傍にいた冒険者たちが、タイラントワーム討伐のために動き出す。

 冒険者たちがタイラントワームに掌を向けた。次の瞬間、光の剣が射出される。 


「現地人も、スキルを使えるのか」


「はい、使えますよ」


 思わず呟いたその疑問に、隣に佇むエルフィンが答えた。


「あ、その、すみません。別に使えないと決めつけていたわけではなく……」


「ふふ、大丈夫ですよ。プレイヤーの方はよくそういう勘違いをしていらっしゃるみたいですから。……私たちからすれば、一人でスキルを発動できないプレイヤーの皆さんの方が、不思議に感じますが」


 エルフィンが微笑みながら言う。


(そうか、そうだよな……この世界において、異端(・・)なのは俺たちの方だ)


 認識を改め、節也は祐穂たちの戦いを見る。

 趨勢は決していた。祐穂が持つ第三のスキル《流波の笹(フィン・バーラ)》の機動力に、タイラントワームはついていけない。後少しすれば勝負がつくだろう。


「蒼の狂戦士(バーサーカー)、か。……言い得て妙だな」


 絶え間なく攻撃を繰り出す祐穂を見て、思わず呟いた。

 あの姿を学校の皆が見たらどう思うだろうか。祐穂に幻想を抱いている者が見たら、きっと卒倒してしまうだろう。


「決着が、ついたようですね」


 エルフィンが安堵した様子で呟く。

 冒険者たちがタイラントワームの動きを止めている間に、祐穂はタイラントワームの頭部まで近づいていた。そして、杖で巨大な頭蓋を殴りつけると同時に《水渦禍の穿槍(カリブディス・ピック)》を発動する。


 渦巻く槍が、タイラントワームの頭を貫いた。



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