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第82話 お着替え2

「女はやっぱり強くなくっちゃね。剣士風にしてみたわ♡」


 精霊力を行使したカレンデュラさんが、腕を組みながら満足気に微笑んでいる。


「ありがとうカレンデュラ」


 シルビア様が黒い編み上げ靴をコツッと鳴らし椅子から立ち上がった。

 真っ黒な服は皮素材のようにぴっちりとシルビア様の身体を包み、胸や腰の美しい曲線を際立たせていた。

 広く開いた襟ぐりから白い喉と鎖骨、胸の谷間が覗いていて……なんというか、びっくりするほど色気を感じてしまう……


「シ……シルビア様、カッコいいです!!」


 シルビア様の印象がガラリと変わった驚きで、思わず大きな声を出してしまう。


「そ、そうかな……? に、似合うかい?」

「はいっ! 昔、読んだ絵本の中の剣士様みたいで……ううん、それよりもっと素敵です……!」


 戸惑っていたシルビア様は何度も頷く私を見て、異空間収納から手ごろな細身の剣を出し腰ベルトに装備する。

 その颯爽とした様子が凛々しくて、本物の美しい剣士様のように見えた。


「それは……主君を守る剣士、ってことかな……?」


 おもむろに(ひざまず)いたシルビア様が、私の手を取った。


「え……ええ、あああ、あのっ……」

「ユミィが望むなら、私は君を守る剣になろう」

「っ! えええええっっっ……い、いやいやいや、あの、あのっっっ……!」


 射抜くように見つめられた驚きと恥ずかしさで私は獣化しかけてしまう。

 慌てて鼻を押さえようとする手をシルビア様が強く握った。


「ふふっ……ユミィ、私の前では隠さなくてもいいよ……よく見せてごらん?」

「キッ……キャウーン! (いっ……いやです!)」


 私とシルビア様が攻防を繰り返していると、頭にチェリーちゃんを載せたロシータちゃんがシルビア様に飛びついた。


「しるびー、“くっころ”ってやつだな! しるびー、“くっころ”って、いって――――!」

「……ロシータァ……」


 何やら聞きなれない言葉を呟くロシータちゃんのお陰で、何とかシルビア様から離れて人化する事ができたわ……


「ご、ご主人様、と、とてもお美しいです! 美しいうえに、凛々しくも禍々しい闇のオーラ……なんて素晴らしいんだ!」


 ダークちゃんがシルビア様を賞賛するけど、私を盾にするように背後に隠れているのは何故なんだろう?


「ダークちゃんは今のままでも充分可愛いよ! 自信持って!」

「そーだぞー、だーくは、と~~っても、か~わい~ぞー!」

「ボ……ボクは、カッコよくなりたいんだっ!!」

「カッコいいシルビア様は素敵だもんね。私も憧れちゃうな」


 そう言った途端、周囲の淀んでいた空気が一掃され清らかに変わった気がした。

 シルビア様が「ユミィ……ありがとう……」と言って俯くと、ダークちゃんが恐る恐る顔を出す。

 シルビア様の黒髪が顔の横に流れていくと、なんだかうずうずとしたフィーちゃんがモジモジと指を動かし、シルビア様に近づいていく。


「あのっ……シルビアさん……髪を結ってもいいでしょうか……?」

「ちょっと、人のことばっかやってないで、アンタもよっ!」


 カレンデュラさんがフィ―ちゃんに向かって指を鳴らすと、シンプルなボレロとワンピースは、簡素だけど凝った作りのドレスに様変わりする。

 全体的に光沢のある白い布地に、草花をあしらった優美でしなやかな金の布地の腰ベルト、肩部分は大きく開いているけど、肩から手の甲までふんわりと広がった袖口がとても優雅に見えるわ。

 レースの上にリボンが二周したチョーカーが前で結ばれ、以前の服の感じは崩していないのに、不思議と高貴な感じがした。


「ええっ、こんなに豪華な服……!」

「まぁ一応、お姫様だからね」

「あ、ありがとうございます……」


 はにかみながらカレンデュラさんにお礼を言うフィーちゃんは、本物のお姫様がお忍びで街に行く装いに見えるわ。

 普段の町娘風のフィーちゃんの服装も可愛いけど、気品ある恰好がこれだけ似合うんだから、髪型を変えればもっともっと素敵になるはず……!


「フィ―ちゃん、こっちに座って。髪型変えてもいい?」

「ユミィさん……はい、お願いします」


 尻尾をフリフリ近づく私に、フィーちゃんは驚きながらも髪を触らせてくれた。

 フィーちゃんの髪型は両サイドの細い三つ編みを後ろで纏めたハーフアップだ。

 この髪型もとっても可愛くて好きだけど、今日はお姫様のように髪を上げてみてもいいかもしれないわね。

 椅子に座らせたフィーちゃんの髪をほどくと、ターコイズグリーンのサラサラの髪が流れるようにふんわりと広がっていく。

 後ろに流れる髪は、自然にゆるい二つの巻き髪になっていて、ほのかに茉莉花(ジャスミン)の香りがする。

 細い三つ編みを丁寧にほどくと、同じ両サイドから裏編み込みにしていき、毛先からクルクルとまいてお団子にしていく。

 後ろで纏めた髪をフィ―ちゃんが用意してくれたピンと、フィ―ちゃん愛用の赤い大きなリボンで留めれば完成だ。

 髪を上げた事でフィ―ちゃんの白い綺麗なうなじが見えて、ウェーブがかった前髪をサイドから後れ毛として出したことでなかなか可愛くできたんじゃないかと思う。


「完成っと。フィーちゃんみたいに上手くできなかったけど、とっても可愛くなったよ、フィーちゃん」

「そんなことないです。嬉しいです、ユミィさん!」

「ふふっ。よかった。このリボン、フィーちゃんに似合うね」

「ありがとうございます。このリボン、母からもらったんです」


 嬉しそうだけど、どこか寂し気な顔でフィーちゃんが笑う。

 そうか、だから毎日身に着けていたのね。

 思い出深いリボンは、お守りのようにいつもフィーちゃんを守ってくれていたんだな。


「そうだったんだ。宝物だね」

「はい!」


 髪をまとめたフィーちゃんは、いつもより大人っぽく見えた。


 椅子から立ち上がったフィ―ちゃんが、姿見で自分の全身を確認する。

 はにかんだ顔のフィ―ちゃんが照れながら服を眺めると、スカートの生地の色が淡い黄色から黄緑、薄紫へと変わっていく。


「わあっ! フィ―ちゃんの服は、色が変化するんだね!」

「フィ―の精霊力が滲んで色が変わるんだよ。もと着ていた服もそうだったろう?」


 不思議に思った私に、シルビア様が答えてくれる。


「そういえば……他の人に不思議がられましたけど、そういう理由だったんですね」

「ということは、ロシータちゃんの服の色も変わるのかな?」

「えーっ? ろしーたのふく、いろ、かわるのかー?」


 ロシータちゃんは不思議そうにスカートの両端を摘まむと、クルクルと回り出した。

 何度か回転するとロシータちゃんの目もグルグルと回り出し、服の色も緑から青、赤からピンクへと色を変える。


「ふぎゃっ!」


 目を回してしまったロシータちゃんの服が、元の緑色に落ち着いていく。

 私がロシータちゃんを支える前に、チェリーちゃんが尻もちを着いたロシータちゃんの頭をよしよしと撫でてくれる。

 なんだか、チェリーちゃんの方がお姉ちゃんみたいな感じがするなぁ。


「今度はおチビちゃんの番よ」


 カレンデュラさんがチェリーちゃんに指を向けると、人化したチェリーちゃんの服が変化していく。

 つなぎのカボチャパンツはふんわりとしたピンクのワンピースになり、半分見えていたオムツパンツがパニエでしっかりと隠れて、小さいながらも貴族の赤ちゃん風になった。

 服から出たポテッとした尻尾と、むっちりとした手足がモフモフフニフニしていて、ずっと抱きしめていたいような気持にさせられちゃうわ。


「きゅう⁇」

「わ―! ちぇりーも、おねえさんみたいになったなー? かわいいぞー!」

「ちぇぃ、かーいー♡」


 チェリーちゃんが嬉しそうに尻尾をフリフリしながら、ロシータちゃんに抱き着いた。

 カレンデュラさんが「ふぅ」っと一息ついて腰に手を当てながら私達を見回す。


 まだ朝だけど、お着換えを始めてからだいぶ時間が経った気がするわ。

 きっと、楽しくて時間が経つのを忘れてしまったんだろうな。


「カ、カレンデュラ、次はボクの番だろ?」


 影に隠れていたダークちゃんが、心配そうに姿見の前へ立つと、カレンデュラさんが不敵に笑ったような気がした。


「忘れてないわよ。アンタのはとっておきだから最後にしておいたのよ」


 ダークちゃんはホッとしてるみたいだけど、なんだか私は緊張してしまうわ……

 いつの間にか私は動きを止め、次に何が起こるか固唾を呑んで見守っていた。

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