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第64話 賑やかな授業3 

 眩しい朝の光が、死の魔法に包まれた小石をキラキラと照らしていた。

 衝撃で無言になった空気を、ダークちゃんが打ち破る。


「ご主人様、最高です! なんて素晴らしいんだ!!」


 ダークちゃんは尊敬と憧れが(せき)を切って溢れ出したみたいに、死の魔法に包まれている小石に駆け寄る。


「まだ魔法が残っているから、触ってはいけないよ」


 シルビア様がダークちゃんの首筋を掴んで、すんでのところで止めた。

「は、はいっ……!」と言って顔を青くして謝るダークちゃんが、まるで親猫に運ばれている子猫のようで微笑ましい。

 尻尾を振りながらダークちゃんを見ていると、恨みがましそうに睨まれてしまった。

 ロシータちゃんも頭の上のチェリーちゃんを気にして小石に駆け寄るのを止め、シルビア様のローブの(すそ)を引っ張った。


「しるび―。ろし―たも、やみまほ―、つかえるー?」

「あ、そうか。ごめんよ。皆の魔法の適正を見るのを忘れていたよ。それによっては使えない場合もあるね」


 シルビア様が手から魔法石を出して並べていく。

 魔法石は台もないのに、シルビア様の腰の高さの位置でフワフワと浮いていた。

 様々な色をしたいくつもの小粒の魔法石が等間隔で並んでいく。


「基本の属性だけ並べてみたよ。これらの属性が使いこなせるようになったら、次回はもっと様々な属性の適正を調べていこう。ロシ―タは半分火の上位精霊だから、火魔法が使えなくても火の精霊術でカバ―できるよ。使えないなんてことはないと思うけどさ。フィ―も、風の妖精の血を引いているから風魔法の適正もあると思う。まずその二つの属性の有無を確認したら、それ以外の魔法石にも手をかざして適性を探っていこう」

「えっ⁉ こ、この二人は上位精霊と妖精の血を引いているんですかっ??」


 ダ―クちゃんが心底驚いた顔をしてフィーちゃんとロシータちゃんを見る。


 そうだよね、フィ―ちゃんは一見人間だし、ロシータちゃんは獣人に見えるもんね。

 半妖精と半上位精霊なんて、私も説明されてもピンとこないからなぁ。


「そうだよ。精霊や妖精は基本的に下位魔族よりも魔力は上だし、魔力の他にも精霊力もあるから強いよ。チェリ―だって赤ん坊だけど、土の上位精霊だから今の君よりは強い。だけどダ―ク、君は計り知れない伸びしろを持っているよ。今後も慢心せずに精進しなさい」

「は……はいっ!」


 ダ―クちゃんが緊張した面持ちで頷く。


 そうだったんだ。

 あのチェリ―ちゃんがダ―クちゃんよりも強いなんて、見かけによらないなぁ。


 感心していると、シルビア様がこちらを見てにっこりする。

 急に美しい顔で微笑まれ、心臓が高鳴ってしまう。


「ユミィもね、とっても強いよ。ユミィが魔力を取り戻したら、きっと誰よりも強くなれるよ」


 シルビア様は確信を持っているように話した。


「えっ! う、嘘ですよね⁉」

「本当だよ!」


 私が強いなんて……誰よりも強くなれるなんてにわかには信じられない。

 だけど、そう言い切るシルビア様の言葉は私にとって何より嬉しい。

 ……こちらをジリジリと見るダ―クちゃんの視線がなんだか怖いけど……


「みんな、好きな石の上に手をかざしてみて。一番光ったものが、自分の適性がある属性だよ」

「はい!」

「お―!」


 フィ―ちゃんとロシ―タちゃんが宙に浮いている魔法石に手をかざしていく。

 フィ―ちゃんは流石、風の精霊の血をひいてるだけあって風を現す黄緑色の魔法石が眩く光った。

 他の石もまんべんなく光って、風と同じくらい光った魔法石は――


「これは、光の魔法石だね。フィ―、君は光魔法の適正があるようだよ」


 柔らかな優しい金色に輝く魔法石は、光の魔法石だったみたい。


「光魔法って……怪我や病気を治したりできる、神官様や聖女様が持っている魔法だよね? す、すごいよ、フィ―ちゃん!」


 限られた人だけが、この世界で光魔法を持っていると思っていたけど、フィ―ちゃんもその一人だったのね!


「え、ええっ……わ、私が光魔法を……?」

「すっごいなー! ふぃ―、よかったな―」


 フィーちゃんは褒められ慣れていないのか、珍しくあたふたしている。

 喜ぶ私たちを、ダークちゃんが複雑そうな表情で見つめていた。


「むっ……ご、ご主人様は全ての魔法石を出せるということは、全属性を行使されるのですよね?」


 焦りを含んだようなダ―クちゃんの問いかけに、シルビア様は頷く。


「うん。使えるよ。私に使えない魔法は、多分ない」


 こともなげに言ったシルビア様を見て、ダ―クちゃんが安堵(あんど)の息を漏らし、誇らしそうな顔をした。


「やはり、ご主人様は常人とは違います! なんて高貴な存在なんだろう!」


 目を輝かせるダ―クちゃんとは対照的に、シルビア様は(わずら)わしそうに表情を歪めた。


「……ダ―ク……魔法を使えることだけが、その者の存在価値ではないんだよ。私の妹は全く魔法が使えないけど、私は彼女を無価値なんて思ったことはない。君は考えを改めるべきだと思うよ」

「は、はい……申し訳ございませんでした……」


 シルビア様に言われてダ―クちゃんがしゅんと項垂れる。

 その様子を見ていた私と、シルビア様の視線が交わった。

 さっきの言葉が私にも向けられたものであることが、その穏やかな笑みから伝わってくる。


 ほら、こういうところが優しいのよね……


 シルビア様の夜空のような瞳に、私が映っているのが見えた。

 その視線をくすぐったく感じて、思わず目を逸らしてしまう。


「ろし―た、ひ、つかえた―! みずも―! ちぇり―は、つち、つかえたぞ!」


 ロシ―タちゃんがチェリ―ちゃんを抱えて、嬉しそうに飛び跳ねながらやってくる。


「そうだったんだ! よかったね、ロシ―タちゃん、チェリーちゃん!」

「へへー! いいこいいこ、してもいいぞ、ゆみー! ちぇりーも、やったな! すごいぞ、ちぇりー!」

「きゅ―?」


 チェリ―ちゃんはロシ―タちゃんに抱きしめられ頬ずりされると、嬉しそうに笑う。

 しょげていたダ―クちゃんの元に、フィーちゃんが二人を連れていき、みんなで頬っぺたをぎゅうぎゅうする遊びを始めた。


「もがが……やめろ、トカゲ!」

「だ―くのほっぺ、やわらかいな―!」


 ダークちゃんの頬っぺたを堪能するかのように、ロシータちゃんは自分の頬を寄せて擦りつけている。


「もちもちしてますね―」

「きゅ―」


 フィ―ちゃんもロシータちゃんに便乗して、チェリーちゃんと一緒にダークちゃんを挟み込んだ。


「もが……や、やめろっ……! くるなっ……!」


 顔を真っ赤にして皆を振り払おうと頑張るダークちゃんは、実に(かま)い甲斐があるわね……


 なんて楽しそうなのかしら……私もまぜてほしい……なんて、今はきちんと属性を調べなきゃ。


 魔法石にそっと手をかざすと、いくつかの石が光ったのを見て、胸を撫で下ろす。

 光った魔法石の中でも、特に二つの属性の石が強く輝いていた。

 いつの間にかそばに来ていたシルビア様が、強く光った二つの石を手に取って見せてくれる。


「雷と、無属性だね。なかなか珍しい組み合わせだよ」

「そ、そうなんですか?」

「うん。私の好きな属性だよ」


 シルビア様が愛しそうに二つの石を撫でると、私はなんだか自分が撫でられたようでドキドキしてしまう。


 シルビア様の好きな属性でよかったな。

 気をつかって言ってくれたのかもしれないけど、嬉しかった。


「――ユミィ。さっき……」

「えっ……?」


 シルビア様の(ささや)くような声に顔を上げると、熱を帯びた真っ直ぐな眼差しを向けられていることに気づいた。


「さっき言ったのは、本当のことだよ。魔法が使えなくたって、ユミィはユミィだし、私は私だ……」

「シルビア様……」


 そう言い終えたシルビア様の周りがキラキラと光って、その体から魔力が抜けていく。

 魔素を体内に取り込んだのとは逆に、空気中に体の中の魔力を放出してるみたい。

 体内の魔力がほとんど無くなった時、シルビア様の体に変化が起こった。


「ええええっ、シルビア様! これは一体……⁉」

「意図的に体内の魔力を空気中に抜いてみたんだ。こうして魔力が空に近くなると、体に負担をかけないように体が縮むように魔術をかけている」


 シルビア様の言葉通りに、スラリとした身長はあっという間に縮み、美しく整った面立ちもあどけないものへと変わっていく。


「私に魔力が無くなって魔法が使えなくても、べつに何も変わらないでしょ?」


 小さくなったシルビア様は、どう見ても七歳くらいの女の子にしか見えず、鈴を鳴らしたような可愛らしい声をしていた。


 その様子を見ていた私は、息が止まってしまったように動けなくなり、我を忘れてシルビア様の姿に釘付けになる。

 私が何も応えず、ただただ呆然と小さくなったシルビア様を見つめていると、シルビア様の顔から血の気が引いていく。


「ユミィ……どうしたの……? ま……まさかっ、記憶が……ユ、ユミィ⁉」


 シルビア様が焦りながら背伸びをして、私の顔の前で手を振る。

 ぶかぶかになったローブが手を隠してしまってローブの(そで)がプラプラしていた。

 襟首が大きく空いて、真っ白で華奢な肩が見え隠れする。


「かっ……」

「か?」


 心配そうなシルビア様が私を見上げる。

 長い黒髪に、不安で潤んだ大きな漆黒の瞳。


 私だけの、お姫様みたい――


 私の心の何かが決壊する。


「かぁああわぁああいいいいい――――――――!!」

「ふあっ⁉」


 私はチビシルビア様を力の限り抱きしめた。

 ほっぺたに、自分の頬をスリスリする。


 うわああああああ!

 なんて、なんて可愛いのっ⁉


「ユ、ユ、ユミィ⁉」

「シルビア様、可愛いです! 可愛いです! シルビア様!」


 抱きしめられるシルビア様は戸惑って、でもどこか嬉しそうな顔をした。


「ユミィ……嬉しいよ……ユミィ……」


 シルビア様もほっぺたを真っ赤にして、私にぎゅっと抱きついてくれる。

 その途端に、温かさと、何故か胸が張り裂けそうなほどの懐かしさを感じた。 


 私たちの様子に気づいたロシ―タちゃんたちが駆け寄って来る。


「あっ! しるび―、おちびになってる!」

「まぁ、可愛い!」

「ご主人様っ⁉」

「すぴ―」


 駆け寄ってきたみんなの表情が、驚きから好奇心へと変わり、次々にシルビア様を抱っこしたがった。


「だ、駄目です! シルビア様を抱っこしていいのは私だけです!」


 私はシルビア様を抱えたまま逃走する。


 何故かこの姿のシルビア様を誰にも触らせたくなかった。


「だめだぞー、ゆみぃ! ろしーたも、いっしょにあそぶ――!」

「ユミィさん……ちょっとだけですから」

「ご主人様を離せ!」


 シルビア様を背に載せた私とみんなが、森の中を追いかけっこする。


 私の背中でシルビア様がきゃらきゃらと笑った。

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