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第60話 魔族の血

 星空の下、私たちは遅くまで和やかに団らんした。


 そのうちにチェリ―ちゃんが鼻ちょうちんを作って寝てしまい、ロシ―タちゃんも舟をこぎ出した。


「ロシータちゃん、眠いよね? そろそろ、お部屋に行こうか?」

「うん……ろしーた、ちぇりーと、ねんねするぞ……ゆみぃ、つれてってー……」


 ロシータちゃんが私に抱き着いたかと思うと、目を閉じて(いびき)をかき始める。

 眠っているチェリーちゃんをフィーちゃんが抱き上げてくれて、一緒に寝室へと運んだ。

 フィ―ちゃんに二人をまかせて後片付けをしに戻ると、食卓はシルビア様によって既に片付けられた後だった。

 浄化されたお皿がフワフワと浮いて、魔力硝子を通って屋敷の中の食器棚に戻っていく。

 その様子を、ダ―クちゃんが呆けたように見つめていた。


「あっ、シルビア様、すみません。ありがとうございます」

「なんてことないよ。さ、片付いたから中に入ろう」

「ご……ご主人様は、本当に魔法を使いこなされているのですね……人間とは思えないです」


 シルビア様と屋敷の中に入りかけると、ダ―クちゃんが感服した様にしみじみと声を出す。


(ダークちゃんの言う通りだわ……)


 ダークちゃんも食卓とお皿が一瞬で浄化されて仕舞われるのを見て、驚いたのね。


 今では少しだけ見慣れてしまったけれど、汚れ一つ残さない浄化魔法や、お皿を全く傷つけない浮遊魔法は、魔法を知らない私が見てもとても高度な技術だとわかった。


(シルビア様は一体、どうやって魔法を学ばれたのかしら……?)


 人間にも魔法を使える人はいるけれど、ここまで使いこなせている人には会ったことがない。

 弟のルネから聞いた話では、攻撃魔法が得意な冒険者でも、生活魔法は苦手という人はよくいるし、その逆も多いらしい。


「父方も母方も遠い先祖に魔族がいたみたいだから、普通の人間より魔法が使えるのはそのせいじゃないかな」


 不思議そうな私達を見て、シルビア様が穏やかに答えてくれる。


「そ、そうなのですね! ボクはご主人様のご先祖様と同じ魔族……光栄です!」


 ダ―クちゃんが目を輝かせてシルビア様を見上げた。


「血のせいなのか、明るい所より暗い所の方が物がよく見えるんだ。夜目(よめ)がきく……というのかな」

「あっ! ボ、ボクも、そうです!」

「暗闇は落ち着くよね」


 嬉しそうなダークちゃんにシルビア様が微笑みかける。

 ダークちゃんは顔を真っ赤にして頷き、照れているようだった。


 シルビア様のご先祖様が魔族だったなんて知らなかったわ。

 シルビア様のこと、知ってるようで何も知らないな。

 そういえば、ダークちゃんとシルビア様の雰囲気がとてもよく似ているのもそのせいかな?

 二人ともミステリアスで、落ち着いたところが大人っぽくて憧れるなぁ。

 同じ闇の属性だからというのもあるのかもしれない。

 私も魔族の血が入っていたら、こんな風にシルビア様と似た雰囲気になるのかな?

 二人の間に入り込めないようで、ダ―クちゃんが少し羨ましい。


「ダ―ク、君は一階の……フィ―の隣の部屋を使うといい。水場や生活に必要な物は好きに使いなさい。後でユミィに案内してもらって」

「は、はい! ありがとうございます! ……あの、ご主人様のお部屋は……?」

「私の部屋は二階の隅にある。夜通し研究をしているから、中には無断で入らないようにね」

「は、はい!」


 ダ―クちゃんが(かしこ)まったように返事をする。


「じゃあ、おやすみ。ダ―ク、ユミィ」


 シルビア様はダ―クちゃんの頭を軽く撫でた後、柔らかく笑って私の頭も撫でてくれた。

 その表情がとても優しくて、見ていると胸が温かくなる。

 自室に向かったシルビア様の影が階段の奥に消えると、ダ―クちゃんが私のほうに向き直った。

 キッとした眼差しで私を見つめるダ―クちゃんは、何故か面白くないような顔をしている。


「……お前は……一体、何者なんだ……?」

「えっ? 何者って?」


 そういえばきちんと自己紹介ってしてなかった気がするな。


「私は、ユミィだよ。狼の獣人で、十五歳です。ここでシルビア様のお手伝いをさせてもらってるの。よろしくね!」

「ち、ちがうっ! そうじゃなくて、どうしてご主人様はお前にだけ……!」


 問いかけるダ―クちゃんの顔は、少し焦ったように見えた。


「私にだけ?」

「き……気づいてないなら、いい!」


 ダ―クちゃんは怒ったように奥に向かってしまう。

 私が水場やダ―クちゃんのお部屋を案内している間も、眉間に皺を寄せてどこか機嫌が悪そうだった。


 来たばかりで、今日は疲れてるのかな?

 ダ―クちゃんは今まで魔界にいたってシルビア様は言ってたから、こちらに慣れなくてピリピリしてるのかもしれない。


「着替えとかは、この中。シルビア様が用意してくださったものがあるからね」


 ダークちゃんを部屋に通してクローゼットの説明をする。


「す、すごい……! 魔界にだって、これほどの空間を掌握できる者なんて……」


 ダ―クちゃんは異空間収納の広さに感心していた。


「……ねぇ、魔界って、どんなところ?」


 私は疑問に思っていたことを聞いてみる。


 シルビア様は魔界のことを知ってるみたいだったけど、私はその存在さえ知らなかった。


 私の質問に、ダ―クちゃんはますます不機嫌そうな顔をする。


「完全に実力がものをいう世界だ。お前みたいに弱そうなのは魔界では生きていけない」


 どこか突き放す様子はぶっきらぼうだけど、本当のことなんだろうな。


「……そっか。たいへんなところなんだね。そこでずっと生きてきたダ―クちゃんはすごいね。私も頑張らなきゃ」


 私の言葉を聞いたダ―クちゃんの顔が赤くなる。


「な……! ボ、ボクは別にすごくなんてない! すごいのはご主人様だ! あれだけの魔力量に、魔力の質も最高のものだし……ご主人様が上位魔族の血を引いてらっしゃることは間違いない……それなのに何故こんな場所で薬師なんかされているんだろう……?」


 ダ―クちゃんはふと考え込む。

 そういえば、私も深く考えたことはなかったな。


「そうだね……シルビア様は優しいから……じゃないかな……?」

「優しい?」


 怪訝(けげん)そうな顔をしたダークちゃんに向かって、私は頷いた。


「うん。シルビア様って、信じられないほど優しいもの。奴隷として売られた私とロシ―タちゃんを助けてくれたし、行き倒れたフィ―ちゃん、それに、突然現れたダ―クちゃんとチェリ―ちゃんもすんなり受け入れてくれるし、きっと、困ってる人を放っておけないんだよ」


 そう、シルビア様は優しい。

 一見、感情が読めないけれど、シルビア様の心はいつだって木漏れ日みたいに温かい。

 ダ―クちゃんは口を引き結んで、キッと私を睨みつける。


「ふっ、ふんっ! わかったようなことを! ボ、ボクはご主人様の眷属(けんぞく)だから、お前みたいなモフモフしてとろい奴より、ボクの方がご主人様に近しいんだからな!」


 そっくり返るように腰に手を当て私を見るダークちゃんは、整った顔も相まって、小さな女の子が大人ぶって背伸びしているようにしか見えない。


 ぷりぷりしてるダ―クちゃんは、なんだか……とっても可愛いなぁ~~。

 小生意気な妹ができたみたい。

 シルビア様のこと大好きなんだね。

 ダークちゃんの気持ちが伝わってきて、微笑ましくなる。


 ん? 弟だっけ?

 性別を変えているけど、ダークちゃんは本当は男の子だから……


 まぁ、どっちでもいいよね。

 ダ―クちゃんの薄紫色の肩に届かない髪が、顎のところでクルンと内巻きになっているのを見ると触りたくなっちゃうのよね。

 多分、触ったら怒るんだろうな。


「ふふっ。そうだね」


 思わず笑みが込み上げてきて、同時に尻尾も揺れてしまう。


「わっ、笑うな! 尻尾を揺らすな! ……ボクはもう寝るからな! 明日から沢山、ご主人様のお手伝いをするんだから!」

「はいはい。おやすみなさい、ダ―クちゃん」


「ふん!」と言ってダ―クちゃんは部屋の中に入ってしまう。


 その後ろ姿を見ると、シルビア様の眷属なだけあって、どことなくシルビア様に似てる気がした。


(シルビア様も、ダークちゃんも、頑張り屋さんなのよね……)


 私も負けないように明日から頑張ろうっと。


 仲間が増えた事を、とても嬉しいと思った。 

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