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第10話 闇オークション

 朝になって見張りの男に起こされ、わたしたちは再び浄化魔法を施される。

 浄化魔法で取り切れなかった血の汚れにぞんざいに簡易回復薬をかけられ、おざなりに怪我の治療も受けた。


 治療するのが遅すぎる。傷が化膿してたらどうしてくれるんだろう。

 わたしたちは売られる運命だけど、それでもこんな扱いはあんまりだと思う。

 憤っていると、わたしと目が合った赤い髪の女の子がにこりと笑ってくれた。


 その笑顔がとても温かくて、心がホッとする。

 こんな状況で笑ってくれるなんて。


 女の子の笑顔はわたしの記憶の中の誰かの笑顔に似ているような気がする。


 一体、誰なんだろう……


 胸の中に誰かの笑顔が浮かびかけては霧のように溶けていく。


 太陽みたいな笑顔か……


 そんな風に笑う人、周りにいたかな?






 夜になると、わたしたちは檻から出され竜鳥が引く檻つきの荷車に乗せられる。

 檻にカビたパンが投げ込まれたけど、手を付ける気になれない。

 周りの獣人たちも、誰も手をつけようとしなかった。


 パンを投げ込んだ見張りの男は、誰も食べないことに激怒し「このカビたパンでさえ、これからのお前らにはご馳走になるんだよ!」と怒鳴った。


 多分……現実にはそうなんだろう。

 ご飯ももらえなくて餓死する獣人もいるよね。

 だけど、今はそこまで思い至ることができない。


 みんな多分、楽に死ねる方法を考えているんだろうな……


 問題は、この隷属の首輪がそれを許してくれるかよね。

 首輪の主たちが「自死するな」と言ったら、奴隷はもう自死する事ができないと思う。


 荷車から降ろされてたどり着いた先は、古くて今は使われていない大きな歌劇場(オペラハウス)だった。


 強面の男達が周囲を警備してるってことは、ここがわたしたちが売られる闇オ―クションの会場になるのかな……


 耳をすませると、男たちの話す言葉は、わたしの住んでいるルビスティア王国の言葉とは少し発音が違うことがわかる。

「お前たち、何G(ゴールド)になるんだろうな」なんて言葉を投げかけてくる人間もいた。


 わたしの住んでいる国のお金の単位はルビスだから、G(ゴールド)という単位から考えると、ここはルビスティア王国じゃないのかもしれない。


 裏口から歌劇場(オペラハウス)へと入ったわたしたちは舞台袖に一列に並ばされた。


 並んだ順から胸に番号が書かれた布をピンでとめられた。

 立ったまま随分と長い時間待たされて、足元から恐怖が迫ってくる。


 わたしは無意識に隣の女の子の手を握った。


 赤い髪の女の子は29番、わたしは30番。


 隣同士でよかったな……

 女の子がわたしの手を握る力が強くなる。


 ……あなたも怖いのね……


 せめて、胸を張って死にたい。


 わたしは震える手で小さな手を必死に握り返した。





 燕尾服を着た司会(オークショナリー)の男が、魔道具の拡声器(マイク)に向かって声を張り上げる。



「ご来場の皆様、お待たせ致しました。第35回、闇オ―クションを開催いたします」



 わあっと、会場中から歓声が上がり、舞台の明かりが点いて客席もほのかに照らされる。

 ざっと見、100人くらいの人間がいるのだろうか。

 舞台上を見るその誰もが、浅ましさや残忍さを顔に浮かべて、何とも言えない嫌らしい冷酷な目線を向けている。


 こわい。こわい。こわい。


 獣人の一人が男に腕を引かれて舞台上に連れて行かれた。



「1番、馬の獣人、性別、雄。16歳。下僕、肉体労働、性奴隷向き。嬲り殺すのもよし」



 舞台上で震える馬獣人のお兄さんをよそに、会場中から声が上がる。



「100G!」

「135G!」

「160G!」



 張り上げられる声を聞く度に、馬獣人のお兄さんは青ざめていく。


 わたしたちを物扱いする酷い紹介に眩暈がする。


 やめてと叫びたいのに声が出ない。

 助けたいのに、どうすることもできないなんて。


 最後にはわたしの番が来る。



 カ―ン、カ―ン、カ―ン!



 落札を知らせる小槌(ハンマー)が鳴り響く。

 落札された獣人は、すぐに舞台袖に連れて行かれ、現金と交換され落札者に引き渡される。

 馬獣人のお兄さんを買ったのは、いたぶることが好きそうな残忍な目をした男だった。


 その後も、次々と獣人が競り落とされていく。

 わたしに話しかけてくれた豹の獣人のお姉さんの番が来た。



「23番、豹の獣人、性別、雌。20歳。メイド、性奴隷、接近戦向き。伽には最高の獣人にございます」

「1500G!」

「2000G!」

「3000G!」



 あっという間に値段が吊り上がる。

 お姉さんの顔がひきつって、泣きそうな諦めたような表情に変わった。



「1万G!」



 カ―ン、カ―ン、カ―ン!



 あっという間に競り落とされた豹獣人のお姉さんは震えながら哀しそうにわたしを振り返り、反対側の舞台袖へと消えて行く。

 お姉さんを買った親子がお姉さんの髪の毛を掴んで観客席へと歩き出す。

 どの客も、自分の目当ての獣人を競り落としても最後まで競売を見ていくようだった。


 そんなに、獣人たちの恐怖におびえる顔を見たいのかな……?


 なんて悪趣味な。


 震える手を握ってくれていた、少女の手が引き離される。

 赤髪の女の子が、屈強な男に舞台上に引きずり出された。



 わたしは女の子が連れて行かれるのを見ていることしかできなかった。






更新予定日は、週3日(火曜・金曜・土or日)です。



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