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この肉なんの肉

もともと5話だった分です。ほんのり書き換えました。

「いや、あのね。確かにシェフのスープカレーが恋しいっていうのもあるんだけど、あいつのスープカレーがマズすぎるっていうのもあるのよ」


 料理が届くまでのつなぎとして、私はそう切り出した。

「す、すみません」


「テーブルもち上げて顔面にぶつけてやりたいくらいマズい」

「そ、そんなにですか? 一応、シェフのOKは出てるはずなんですが」


「うそでしょ。それかシェフのコンディションが最悪だったのよ」


 私はそう言い切った。あいつのスープカレーでは、シェフのものと差がありすぎる。あんな美味しいものを作る人があいつのスープカレーに許可を出すはずがない。


 と、そこで思い出した。



「そういえばキッチンにもう一人いたじゃない。あの人はどうしたの?」


 確か長い黒髪を後ろで縛った少し陰のある青年がいたはずだ。


「あー、栗谷くりやさんは板野さんのまかない目当てで仕事してて……。板野さん失踪後五日で出てこなくなりました」


 なにやら、色々とひどい状態らしい。




 料理が届き、一口かじった私は首を傾げる羽目になった。


 届いた肉は、妙に丸かった。厚さはおよそ三センチで色味は豚肉っぽい。

 けど豚肉ではないし牛でもない気がする。妙にねっとりしているのに味がしない。



「これ、何の肉?」


 ササダ君を見ると、彼は目をそらした。いや、ゴーグルをしているので目は見えない。顔ごとそらしたので察したのだ。


 これは知っているな。と思ったからあえて大きな声で言ってやる。



「ねえ? これ何の肉? サs――」

「アレです!」


 ササダのササまで言い切らないうちに、ササダ君はビシッと指さした。

 ウェイトレスらしきタマゴ型のアレを。


「ん? あれ?」

「アレの、足の部分です」

「ああ、足。って、足っ!?」


 ウェイトレスだけではない。この世界にはありとあらゆるものに人の足が生えている。

 原材料、足。聞いただけで吐き出したくなる破壊力だ。


 なのにササダくんはいたって明るい声で言いやがった。


「大丈夫です。DNA的には人肉ではありません。てかむしろDNAとは別の有機体っていうか」


「そっちの方が危険じゃないっ!?」



 私は恐る恐るステーキを見下ろした。


「これ食べたらビニール人形みたいにならないでしょうね? それとも打ち上げられたクジラの死体からプラスチックゴミが大量に、の方かな……」


「マイクロプラスチックなら、もうかなり人体に入り込んでるみたいだし平気じゃないですか? あ、いや、ごめんなさい。えーと、僕食べてましたけど平気です」


「実は僕――」


 と、ササダ君はメロンソーダらしき物で口を湿らせてからそう切り出した。マスクを脱がずにストローで器用に飲んでいる。


「半年ほど、こちらに滞在していたことがあるんです」

「ははん。女ね」


「いやまあそうですけど! アレじゃないです!」


 私がタマゴの形のウェイトレスに目を向けていたせいだろうか、ササダ君は焦って否定した。


「どれでも私は構わないけど。でもさ、シェフが帰ってこない理由も、女なのかなって思って」

「え? なんで悲しそうなんですか!? ま、まさか本当は板野さんのこと……」


「異世界に新たな味の可能性を探りに行ったわけじゃないのね……。これ、マズいもの」


 私はステーキをつついてため息をついた。

 返事がないので顔を上げると、ササダ君がなぜか脱力していた。


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