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世界に嫌われてる

 次の日、栗谷のスープカレーを食べた私は大変なことに気が付いた。


「これもうシェフ探さなくてもいいんじゃない?」


 栗谷のスープカレーはシェフのものより一段劣るものの、及第点ではあるのだ。


 それで、その日はスープカレーだけ食べて帰った。


 勝手というなかれ。社会人は基本的にそれほど多くのものを背負えないのだ。

 それに連日の夜更かしでさすがに疲れた。


 ところが週末うきうきしながらスープカレー屋に行くと、またあの清潔感に欠ける子がキッチンの中央に立っていた。


 私は入り口でササダ君を捕まえて小声で問い詰める。


「栗谷はどうしたの」

 するとササダ君はにっこりと笑った。


「エネルギー不足だそうです。栗谷さんを動かしたいなら毎日手料理を持ってくるしかないですよ」


「それは無理」


 そしてマズいカレーを食べるのももはや無理だ。


 私はとぼとぼ駅前のスーパーまで戻り、大根と豚肉とビールを買って帰宅する。

 豚肉を塩こうじに漬けて、その間に大根をいちょう切りにする。本当は蕪がいいが仕方ない。フライパンを取り出しごま油で豚肉を炒め、大根と細切り昆布を放り込み水を加えに煮る。


 ビールを片手にそれをつまみ、残りを保存容器に入れて再びスープカレー屋を訪ねた。


「これ、栗谷に渡しておいて。んで、私これから向こう行ってくるから、ササダ君、悪いけど扉は開けておいて」


「え、ちょっと待ってください一人で行く気ですか!? 危ないですよ」

「危ないのはササダ君の方でしょう。私は大丈夫。ちゃっちゃとシェフを見つけてくるわ」



 私はいつものように献血にむかったのだが、どうにもエラーばかりで採血してくれなかった。


 採血できなければファミレスにも入れない。一応のぞいてみたがウェイトレスに追い出された。


 一人で大丈夫。 ササダ君にそう息巻いたのに、あっさり行き詰った。

 八つ当たりしようにもそばにいるのは案内箱だけだ。


「板野さんて人がどこにいるか教えて」


 と案内箱に尋ねたところぴぼーとかいう謎の音を発してそいつは動きを止めてしまった。


 仕方ないので別の案内箱を探して、同じように尋ねた。


 案内箱を三個壊したところで、車夫のいない人力車みたいな卵型がどたどたやってきて、どこからともなくアームのようなものを伸ばして私を捕獲すると、ゲートへ放り込まれた。


 それが、初めての強制退場だった。



「え? 強制退場なんてあるんですか?」


 などとササダ君に青ざめられても私はあきらめなかった。


 次の日、復活した栗谷のスープカレーを食べて元気を取り戻した私は作戦を変えてみた。

 異世界人の住まいに行ってみたのだ。ササダ君が行けないと行った場所だ。


 まあ、彼の場合は拉致監禁の危険性がある。確かに行けないだろう。でも私の場合はせいぜい追い返されるくらいだろう。


 ブロックを積み上げたような建物は外側から見ると、どこがエントランスなのかさえ分からない。だが辛抱強く待って、出入りする異世界人を発見した。


 そこでブロックとブロックの間に細い入り口を見つけた。

 ガラスの自動ドアをくぐり、異世界人たちの住まいに一歩足を踏み入れたその時のことだ。


 ブザーが鳴った。


 そして、私の鼻先を、何かが高速で掠めていった。


 壁から足が生えて通せんぼするように通路をふさいでいた。

 身じろぎすると、もう一本反対側からも足が生えてくる。


 どすん、どすん、どすん!


 たくさんの足で通路は瞬く間にふさがれた。


 ブザーが鳴り響いている。


「ここから先は、許可のないものの立ち入りを禁じています。速やかに退出してください。繰り返します――」


 案内箱のコールを聞きながら、私はゆっくりと後ずさりした。


 私が建物から離れ、自動ドアが再び閉じるとようやくブザーが鳴りやんだ。

 通りに戻ると、異世界人たちは遠巻きにこちらを見て何か話し合っている。

 

 そして私はどだどたとやってきた足の生えたタマゴに二度目の強制退場を食らったのである。


塩こうじ、うちで育てようとすると納豆菌に負けるので、市販品が買えることはありがたいことです。

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