革命の狼煙は上がるのか?
「……あの、何だかこの通路、変ではありませんか?」
再び歩き出して数分した頃、彼女は突然口を開いた。お互いに話題を出しつくして、話す事柄も無くなった、そんな時だった。
「それは俺も感じていた」
俺はすぐさま彼女の発言に同意する。先ほどまでは自分の勝手な思い込みか何かだと思って、考えないようにしていたが、やはりこの通路……いや迷宮はおかしい。
俺のすぐさまの同意を受けられた彼女は、安心したように胸をなで下ろした。おそらく彼女も自分の勘違いか何かかもしれないと思っていたのかもしれない。
「やはりそうですよね……何せここはお化け屋敷だというのに、先ほどからその出し物の類が出てくる気配がまったくございません。それに……」
彼女はそこで口ごもると、ついと目を逸らした。後に続く言葉は出てくる気配がない。
それはまるでこれを口にしてしまえば、もう後戻りすることは出来ないのだと、ためらっているようであり、それを恐れているようであった。
だから、俺は勇気の出せない彼女の代わりにその言葉を継ぐ。
「……それにいくら歩いても迷宮に終わりが見えないってことだな」
摩訶不思議な状況を受け入れ、立ち向かうために俺は事実を口にする。もう逃れられない。
この階に入ってから既に十数分以上歩き続けていた。だというのに、俺たちは次の階へと上がれずにいる。
まぁ、これだけなら俺たちが致命的な方向音痴だと仮定すれば、迷宮で迷って十数分も無駄に歩いていただけとも思えた。しかし……
「今思えばこの迷路、入った時から変でしたよね。最初は気分が浮かれていたから気にも留めていませんでしたが……」
「あぁ、そうだ。ここは外から見た建物の大きさに比べて迷路が広すぎるんだ。ずっと歩き続けて俺たちは一度も、同じ道を辿ってはいないし、引き返してなどもない。だというのにこの階を抜け出せずにいる。それほどの大きな迷路を作るのには、少なくとも体育館程度には大きいフロアが必要だと俺は思うんだが」
「それだと明らかというのもおこがましいほどに、外観との差異が酷すぎますよね。このビル、一階の広さから推測するに、一フロアは精々教室が一つか、二つ入るぐらいが妥当だと思われますのに」
沈黙。静寂が重い。改めて認識した事態、その異常性に俺たちは閉口せずにいられなかったのだ。
「……戻ってみるか」
気を紛らせるように口をついて出た一言。自分の意思に反して、思わず飛び出したその臆病な言葉に自分自身で驚く。
だが、この終着の見えない通路を先へ進む愚行を犯すぐらいなら、引き返した方が幾らか懸命というものだ。そう自分に折り合いをつける。彼女も無言で首肯をした。