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プロローグ

 二つの月の輝く下に戦争の気配が忍び寄っていた。その地域では長きに渡って平和が保たれていたが、しかしそれは偽りの平和であった。武力による戦争が息を潜めたその水面下では経済による戦争が続いていたのだ。北の帝国と南の大陸軍国はいずれも強大な武力を背景に外交による巻き返しを図ってきたが、西の海洋国はこの二十五年間、その王座を譲り渡すことはなかった。南北の大国による侵攻を阻んだものは海という天然の要塞であり、その海を縦横無尽に航行する艦隊であり、それらを統べる王であった。

 海洋国の王ゼーマンは優れた智慧と優秀な側近を持ち、逞しい勇気とよく鍛え上げられた艦隊を有し、民や商人から愛されていた。王はよく宮殿から下って民や商人の生活を見聞した。また彼らに語りかけ、色々な話を聞き、国の採るべき方針の参考とするのだった。そのようにして国は栄えていった。

 しかし、何もかもを手にしているかのような王にも不安の種はあった。それは第一に王子たちのことであり、第二に自らの老いのことであり、第三に南北の大国のことであった。

 王はこれまでに三人の男児を授かった。長男は武者としては立派な働きをみせているけれども、政に関しては全く拙劣で才が無く、世継ぎとするには不安が残る。次男は病弱であり、三男は才覚のない放蕩者であったから、長男を支えることに期待は持てない。ところで王には幾人かの姫もあり、長子である勝気な娘が王の政を支えているが、しかし王は無条件に男子が王位を継ぐべきだと考えていたし、そうすることは宮廷の反発を招くだろうから、最初から問題にならない。それならば彼女の夫として優れた人物を宮廷に迎えるとという考えもあったが、しかしながらそれに相応しい者はこれまでになく、積極的にそのことを推進する理由もこの時点ではなかった。

 だが、問題はそれだけではなかった。王は今年で齢七十を迎えようとしているのである。後継者のことで頭を悩ませながら年齢を重ねてきた王は、日に日に強まる南北の大国の圧迫を感じながらも、如何ともし難い状況に陥っていた。

 王は嘆いた。国は栄えているし、豊かな山河もある。それなのに未来の見通しは決して明るいものではない。このままでは、南北からの圧迫を受けてこの豊かな国もいずれ戦乱に巻き込まれてしまうだろう。そのことが、どうしようもなく虚しく思えたのである。剣と筆とを揮って作り上げた交易圏も、若き頃に友人たちと駆けた大地も、その人生の何もかもが無意味なものに思えた。

 時代は、緩やかに動こうとしていた。王の登ってきた坂の、その頂上を迎えた後には、きっととてつもない景色が広がっていることだろう。そしてまず、一つの悲劇が起こるのである。……

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