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闇夜の獣と逃走劇  作者: 弥生
22/25

22.16歳

「やあ、ヴェブスター、新人二人はどうだね」

「ええ、ヒスクライヴのほうは形になりつつあります。このまま鍛えれば、私の後任となりうるでしょう」

「ほう、君がそこまで褒めるのは珍しいね」

「妹のリィ嬢は、駄目ですね。メイドに向いておりません」

「…ほう」

「ただ、努力はしているようです」

「なるほどね」


領主は面白そうにヴェブスターを見つめ返すのだった。



「だーかーらー何度言ったらわかるの?そうじゃないってば!」

「セレス、言葉使いが悪いですわよ」

「申し訳ありません、メイド長」

15歳のメイドのセレスはリィの面倒をよく見ることになった。

今日はレース編み。

才能がなさすぎる。

ここまで酷い人間もいたものだなと思う。

「ひぐ、ご、ごめんなさい…」

リーシャの編んでいたものは、原形を留めていない。

「もう、仕方ないわね」

そういうと、リーシャの編んでいたレースらしきものを解いていく。

これで同い年というのだから、信じられない。


この前年齢の話になったときに、信じられない話を聞いたのだった。




「ねえ、ヒスクライヴ様っておいくつ?」

「えっと、25歳、です」

「リィとはいくつ年が離れているの?」

「えと、10歳、です」

「………」

みんなでベッドに入ってキャイキャイ言っていた時だった。

シーンとなる。え、今なんていった?

この12歳ほどにしか見えない少女が。

「もしかして、リィって15歳?」

「はい」

「う、うそ、てっきり12歳ぐらいかと」

そのぐらいまで、少女は小さかったのだ。

ここにきて、適度な食事と女性同士の職場で精神が安定したのか、昔よりも背が伸びつつあるリーシャではあったが、いまだに子どもと間違われる。


「でも、ヒスクライヴ様、本当に素敵よねぇ」

「結婚したい…」

「セレスも、15歳って、10歳も年の差がある…けど」

「あら、10歳ぐらいたいしたことないわよ。来年には結婚できる年になるし、ヒスクライヴ様振り向いてくれないかなぁ」

リーシャは驚いた。

そうだった。このあたりの国では、16歳になると結婚ができる。

つまり大人と認められるのだ。

16歳…そう考えると、自分が16歳になるということが信じられない気がした。


「やだ…」

ぼつりとつぶやく。

「なにがよ」

「おにいちゃん…あげない」

その言葉にメイドたちはリーシャをくすぐり始める。

「このブラコンめーー!」

「うひゃ、うひゃひゃ、やめひぇ~」


リーシャはドジでのろまでメイドに向いていない。

けれども、その一生懸命なところは、他のメイドに庇護欲を覚えさせていたのだった。




「じゃあ、この計画で剪定はじめますね」

「よろしくお願いします」

ヒスクライヴは剪定師の青年と打ち合わせをしていた。

「それにしても、ここのメイドってかわいい子多いですよね」

「そうですか?」

執事たるものとして、常日頃から丁寧語になっているヒスクライヴ。

「15歳のセレスちゃんとかもう、すごいしっかりしていて…あーあ来年嫁に来てくれないかなぁ」

「まだ15歳なんて子どもではありませんか」

「16歳になったら結婚できるんだよ?十分大人じゃないか」

その言葉に、ピシリと固まるヒスクライヴ。

リーシャも、あと三カ月ほどで16歳になる。

まさか、そんな、まだ、子どもじゃないか。


「そういや信じられないけれど、ヒスクライヴさんの妹さんのリィちゃんも15歳なんだって?嫁の出し先は決めているのかい?」

「まだ早すぎます」

「いやいや、結婚適齢期16から17だし遅くないよー。もうそろそろ考えておかないと」

「流れものの身ですので、結婚などと…」

「いやー、女の幸せは結婚って話もあるし、手放す準備しておいたほうがいいと思うよ。ほら、ヒスクライヴさん、妹の結婚相手に求める条件ってなんだい?俺も探しておくよ」

「…」


結婚…想定すらしていなかった質問を言われ、混乱するヒスクライヴは、脳裏に浮かんだ条件を垂れ流した。


「背は高く、金はあるには越したことがない、性格はよく周りから好かれ良く妻を愛し子どもを慈しみ、ああ、それと顔は私程度は最低条件だ。それと剣の腕も私を倒すほどの相手じゃないと。地位もそれなりにあったほうがいいが、周りからうとまれるほどの地位ではなく、きちんと親の代だけでなく自身の代でも財産が築ける能力とそれと頭はよくそれに――」

「まてまてまてまて」

剪定師が止める。

「なんだ」

「いや、条件厳しすぎでしょ」

「最低限はこのくらいでしょう」

「いやいやいや。まず顔がヒスクライヴさんぐらいいいってのがハードル高すぎるよ」

自分の代わりにリーシャを守るのだ。腕も必要だ。

そして、その時自分は……どうしているのだろうか。


もしかして結婚したら、離れることになる…?


考えられないことだった。


「やはり貴族と結婚して私を執事として雇ってもらうしか」

「嫁入り先についていっちゃうの!?」

「ああ、もし強欲な年上の男爵がうっかりリィを見染めて持ち帰ろうなんて思いもしたら、うっかり殺してしまうかもしれない……」

だめだ。今脳裏にリィの旦那(仮)が血まみれに倒れている姿が浮かび上がった。もちろん血塗れた剣を持っているのは自分。


ぶつぶつと壊れたように妄想を垂れ流すヒスクライヴ。

剪定師はどん引いた。

想像を絶するシスコンっぷりだった。


「俺、ヒスクライヴさんが結婚していない理由わかったかもしれない…」

「…ん?」

この応答でやつれてしまったヒスクライヴ。


その夜、何人ものリーシャの婿候補を切り殺してしまう悪夢にうなされるヒスクライヴだった。



夢に見るほど嫌なのに、本人は気が付いておりません。

彼が自覚する日は来るのでしょうか…。

次回、リーシャがもやっとしてます。

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