19.処刑
そこは漆黒の騎士たちが駐屯する場所だった。
帝国第2皇子ガウルは、その猛攻をもってして数々の戦勝を上げている騎士でもあった。
たった一つの小さな国を抑えるのは実にたやすかった。
陽動に気を取られている間に、山から奇襲をかけたのだ。
たやすく捕えられた王子は国民や部下の延命を願った。
その代わり、首を差し出したのだ。
このような小国、ガウルにとっては無価値のなにものでもない。
だが、昨今はあの大災害から200年がたった時期、なんとしてでも防がねばならない災厄がある。
芳しくない王女の捜索結果に、表情が曇る。
そのとき、部下が天幕に入ってきた。
「閣下、気になる女がおりました」
「王女か」
「そのようか、それに近しい者だと思われます」
すぐ行くと伝え、ガウルはマントを翻す。
ガウルが外の広間に向かうと、黒騎士に捕えられ、地に伏せられた女がいた。
年のころは16、7。
第一王女はたしか二十歳だというから年齢には合致しない。
「外れか」
「若い女のくせに裕福な生活をしておりまして、どうやら領主に第二王女だと名乗って保護させていたようです」
「その領主が我々に知らせてくれた、ということか」
「は、王家に連なる指輪も持っていたために、第二王女か、それに近しい者かと」
「それで顔の照合は」
「それが…第一王女は表にもよく出ていたので知っているものが多かったのですが、第二王女はほとんど外に出てくることもなく、顔を知っているものが少ないのです」
「やっかいだな。第一王女はその容貌からも近隣に知れ渡るほどの美女だ。すぐに見つかるだろう。だが、ほとんど顔の知られていない第二王女など……」
「金髪に琥珀の15歳ほどの娘を手当たり次第に捕まえておりますが、なかなか合致するものはおりませんでして」
「ふむ、おい、女」
「お前が第二王女か」
無造作にガウルが尋ねる。
「ひっ、いいえ、違いますわ、私は、第二王女ではございませんわ!!」
「だが、第二王女として保護されていたのだろう?」
「それは…っ」
「それに、ただの女が持つには多すぎる金貨、王家の家紋の入った琥珀の指輪」
「違いますわ、わたくしは侍女のマリアといって、乳母サラの娘ですわ!!」
「金色の髪に琥珀の瞳、王女の相貌とは合っているな」
「第二王女は海を越えましたわ!今頃、隣国にいるにちがいありませんわ!!わたくし、それ以上は知りませんの!!ですから、どうか、どうかご慈悲を!!」
「わかった」
「そ…それでは……」
女の瞳に希望が灯る。
「殺せ」
無慈悲な号令がかかる。
黒騎士は剣を抜くと、女の首を切り落とした。
「万が一ということもあるからな、首は凍らせて検分にまわせ。体は焼き払え」
「御意に」
「琥珀の指輪はどうします?」
「すでにない王家のものだ、処分は任せる」
「はっ」
まったく、後始末のなんと難しいことか。
ガウルは唸った。
だが、やり遂げねばならない。
王家の血をひくものはすべて焼き殺さねば。
ガウルは次にどの場所に兵を送るかと考えるために、天幕にもどった。
たった今大地に命を吸わせた女のことなど、欠片も思い出すことはなかった。
「しかし、綺麗な指輪だな」
「いいなぁ、処分はまかせるってどう扱ってもいいってことだろ」
「まぁな、解体して売り払うか」
「それがいいかもな」
そう、琥珀の指輪を天に透かして見ていた時だった。
うわ!!っという声とともに羽音が聞こえる。
指輪をカラスが咥えて飛び去ったのだ。
「ちっくしょう!!!」
「あーあ、奴らは光りものが好きだからな」
「なんてこった!」
まぁ、血濡れた王族の指輪なんて、縁起のいいものじゃないからな。
なんて、仲間たちは男を慰める。
飛び去ったカラスは、まっすぐに東に向かっていった。
次回、新しい仕事を見つけます。どの職業かはお楽しみに!