13.妹
「ヒスクライヴさん、一杯」
「じゃあな、ハインツ」
今日も今日とて振られるハインツ。
「ちえーまた振られた。…あ、そうか。ついていけば妹さんも見れるしご飯も一緒に食べられるし一石二鳥じゃん」
そう思ったハインツはヒスクライヴの尾行を開始する。
……しかしだ、そのことを悟られたのか、すぐに捲かれてしまった。
「く、手ごわすぎるぜ、ヒスクライヴさん」
ハインツはがくりと肩を落とす。
仕方ない、適当に入って食事を取るか、とあたりを見渡す。
綺麗なアルトの歌声に誘われるように、ひとつの宿場兼食堂に入って行ったのだった。
「あああー!!!」
食堂に入ったハインツは、見知った顔を見つけ、大声を出す。
その声にうっとうしそうに振り向いた男は、あからさまに面倒臭そうな顔をしたのだった。
「うをーラッキー!たまたま入った酒場にいるなんて!」
「帰れ」
ヒスクライヴはハインツに肩を叩かれて非常に迷惑そうな顔をしている。
「まぁ、そういいなさんなって!あ、お譲ちゃんエール2つな」
「死ね」
「ヒスクライヴさんがそういうとシャレにならないから。怖すぎるっすから」
金髪の少女がエールと…それに馬肉の甘辛煮をもってきた。
「あ、注文してないっすよ」
「いいの。いつも、お世話になってるから。おまけです」
にっこりと笑う少女。
平凡そうだが、金髪に水色のリボンをつけている。もしかして。
「あ、ヒスクライヴさんの妹っすか!」
「兄が、いつも、お世話になってます」
ハインツが入ってきた時に、ヒスクライヴを見て親しげにしたところで、リーシャはお仕事でお世話になっている人だとぴんときたらしい。
仕事のことは滅多に口にしないヒスクライヴが、ときたま話す面白い人、きっとこの人だと直感的にさとったのだ。
「へー、思ったよりも幼いんですね、結構年離れてるかも。妹さんお名前は?」
「リィ、です」
「全然似てないっすねぇ!!」
失礼にもほどがある。他人なのだから似てないのも当然なのだが、あっけらかんと言われると腹が立つ。
ヒスクライヴはリーシャが持ってきたエールをぐいっと飲み込むと、しっしっとハインツを追い払おうとする。
「いいじゃないっすか、たまには。交友を深めましょうよ」
「いらん」
「お兄さん、面白いね」
「あー、そうっすか?へへ、リィちゃん、お兄ちゃんの弱点か何か知らない?」
「死にたいのか」
「えと、弱点…弱点…あ」
リーシャは思いついたのか、真剣なまなざしで話し出す。
「お肉ないと…悲しそうな顔する」
「リィ!!」
「えーと、なんつーか、肉食系なんですね、言葉どおりに」
「はやく帰れ……」
リーシャにはわかっていた。こうやってためらいなく話すのは、ヒスクライヴが少しでも気を許している証拠だ。
気を許しているから悪態をつく。
だから、自分も気を許してもいい相手だ。
「いや、ヒスクライヴさん、完璧すぎるっしょ。少しぐらい欠点あってもいいでしょ。強くてカッコよくて頭も切れて所作も綺麗ってどれだけハイスペックなのよ」
「あと、お料理も、お洗濯も、狩りも、勉強も、なんでもできるよ」
「まじか、隙がなさすぎる。ってかお洗濯もするんすか」
「リィ、取り合わなくていい」
「自慢の、お兄ちゃん、です」
照れたように笑うリィは、普通のかわいさしか持ち合わせていなかったが、とてもかわいらしかった。
「うわーリィちゃんかわいい。こんな妹欲しい」
「え、え」
「うちの妹凶暴だしすぐ悪態つくし、この前なんてお兄ちゃんのと一緒にパンツ洗わないでなんていわれるしあー交代したい」
「パンツを洗うのすらも拒否られるのか!?」
どうしよう、普通に洗っていた。
リーシャは何もできない。だから山とかでは普通にヒスクライヴが洗っていたのだが。
「え、ヒスクライヴさん妹のパンツ洗う系男子なんですか?」
「あの…そんなにパンツっていわないで…はずかしい……自分で洗えるようにするもの……」
「リ、リィもそのうちそのようなことをいうのか…っ」
愕然とした様子でうつむくヒスクライヴに、ハインツは唯一の欠点というものを悟ったのだった。
「ヒスクライヴさん、欠点はシスコンだったんですねぇ」
ヒスクライヴは妹のパンツ洗う系男子です。