甲姫/長谷川『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』
記念すべき出会いは――おそらくツイッターで見かけた、物語冒頭の文章を抜粋した画像だった。
それまでにもその画像を何度か目にしたことはあったが、ある時なんとなしにちゃんと内容を読んでみたのだ。
まずは、件の文章を以下に一部抜粋する。
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木でできた箱の中に、見たこともないほど小さな人間がいた。
たぶん、人間だと思う。
肌は白っぽくて毛皮にも鱗にも覆われていないし、尻尾も生えていないようだし、頭にだけ青黒い毛がたくさん生えている。
この世にはこんな小さな人間もいるのかと、グニドは身の丈四十葉アレー(二メートル)に迫る体躯を屈め、まじまじとそれを見つめた。
それにしても、これだけ小さいと食べるところもほとんどなさそうだ。
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戦慄したのを憶えている。
これは巧い、と思った。第一文から、真っ先に読者を人外主人公の目線と同調させる。語られている邂逅の異様さを数行で体感させてくれる。
タイトルからして人間ではない者が人間を育てる話だろうと予想できたが、その上で「人食」と来たからには、読む以外の選択肢は存在しなかった。
白状しよう。
私は価値観の相違から発生するドラマが好きだ。それ以上に、溝を乗り越えようとする者たちの心意気と乗り越える過程が好きなのである。あらすじとキーワード(例:異種族間交流、カルチャーショック、言語不自由)から既にそんな展開が約束されていたのだから、食いついたのは当然と言えば当然であろう。
では実際に読んでみると、どうか――
結論から述べよう。
期待以上の充実感を得られた。読んでいた間は、ハラハラドキドキ、感動、楽しさ、さまざまな感情がついて回った。最新話まで追いついた瞬間は、深い絶望すら覚えたものだ。それだけ私は、ストーリーとキャラクターの行く末に感情移入してしまっていた。それだけ、登場する者たちと彼らの絡み合いには抗いがたい引力があった。
主人公が竜人だという点は重要だ。種族としての特性があり、人間・獣人・神子などとの触れ合いによって生じる化学反応があり、それらすべてがドラマを織り成すのだから。
ところで『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』は著者の作品群『エマニュエル・シリーズ』の内のひとつだ。つまるところ、世界は縦横無尽に広がっていて――縦(神話や歴史)方向にも、横(国・町・村の数や多種多様さ)方向にも、奥行きは途絶えることを知らない。ハイファンタジーを紡ぐ同志(と勝手に私は思っている)として、見習いたいほどの作り込みようである。
単品で楽しむもよし、シリーズごと貪り尽くすもよし。
どこを切り取っても面白い。
ぜひ、安心して、竜人と少女と共にエマニュエル世界を旅してみるといい。
『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』
作者名:長谷川
作品URL:http://ncode.syosetu.com/n3323ck/