室木 柴/ぬこげんさん『群青の竜騎士~鈍色の巨人~』
群青の竜騎士。そのタイトルからあなたは何を思うだろう。
どこまでも広がる青空か。あるいは太い骨をもった翼竜が飛ぶ影か。
しかしこの作品で主人公が乗るのは竜ではない。飛行機だ。
さて、あなたが物語に求めるものはなんだろう。ドキドキ? ハラハラ? ワクワク?
きっと皆さん、好みは異なるはずだ。
だから、作品でわたしがどこが好きかを紹介させて頂く。
それは生き様である。
お姫様とかエルフとか飛行機とかお船とか、かっこいいものはそれはそれはいっぱいある。だがかっこいいのは肩書きや見た目だけではない。
何故我々は飛行機や人間に魅力を覚えることがあるのか。その所以をひしひしと思いだしてしまう。
正直なところ、機械は苦手でそこに関連する話は難しかったのだが、わからなくても十分楽しむことができた。
飛行機が飛んで、空を横切って、風をきって落ちて、走る。それってこんな爽快でぞくぞく来るんだと。空を愛する主人公の感覚、ハンドルを切る重みが伝わってくるようだ。
世界の感覚がわかるというのは、多分、登場人物にはいりこめるということなんだと思う。
そして必ずしも主人公との共通点、共感ばかりが「キャラにはいりこむ」、感情移入ということではないだとも実感することとなった。
絶対そういうものだとは言わない。
私はまだ学校に行っているような未熟者だ。主人公のような飛行機に乗っていざとなれば銃を撃たねばならない立場でも年齢でもない。
彼が時折感じる世間の世知辛さ、苦しみ、熱狂、そのうちいくつも実際は知らないものがあるだろう。
しかし、そこに興奮して、我がことの如く苦いものを噛みしめていた。まるでそれが変わったことだと思うこともなく、実に自然に、自分から踏み込もうとした。
考えるより先に楽しめるというのは、きっと最高ということなのではないだろうか。
そして考えるより先にわかるというのは、ダイレクトに『何か』が伝わってくるということなのだろう。
言葉とは本来、思っていることを他人に伝えるツールである。
自分のなかにある形のないものを相手と共有できる素晴らしいもの。
だが言葉は理解するために、その理由や言葉に与えられた意味を知っていて、組み合わせて、理解しなくてはいけない。
それはそれで大切で暖かなことだが、ひとまず置いておく。
言葉以外にも人に何かを伝える方法はある。行動することだ。
行動は偽りなく、覆ることもない絶対のものだ。
特に強い意志のもと貫かれる意志、苦しみをともなってでもくだす決断は、見ているだけでしびれる。
言葉が暖かなブランケットなら、行動は熱く燃える炎です。近づきすぎて火傷をすることもあり、強いちからやエネルギー、燃えるものを貰うこともある。
つまり、この群青の竜騎士に登場する人々は、格好いいのだ。
差別されても凛と胸を張って空を飛ぶダークエルフたち。
この方ならば仕えたいと思えるような品位と度量ある王、貴族。大切な者のために戦う人々も、その覚悟と背中にぐっとくる。
みんながみんな素晴らしく清廉な人というわけではなかろう。
時に汚れを抱え、痛みを抱え、それでも。これがしびれる。
その生き様を叩きつけられるように味わえる。映画を見る感覚にも近い。
考えるより、先に。早く鋭く、空を駆ける。そんな感覚になれる作品だ。
『群青の竜騎士~鈍色の巨人~』
作者名:ぬこげんさん
作品URL:http://ncode.syosetu.com/n1197ce/