綾埼空/佐井 識『さよならお兄ちゃん』
副題【情景描写美しい、温かな関係の物語】
婚約者が失踪した。
七年前、主人公の隆之介が愛した女性は突如として姿をくらませた。
路傍で、それでもあでやかに咲く花のような女性であった。
親が残した借金、身分違いの結婚であったために親戚一同からは離縁を言い渡され寄る辺はない。高校を中退し、身一つで働きに出た経歴を持っていた。
「姉が、いなくなりました」(第三話より)
そう、死神のようにある一つの終わりを告げたのは、彼女の妹である紫野だった。
紫野はまだ中学生であった。隆之介は、残された彼女の面倒を見ることを決意する。
孤独を埋めるように。あるいは、残された縁を未練がましくたぐるように。
そうして歪な同居は始まり――七年。
婚約者は見つからぬまま、それだけの年月が経過した。
紫野は無事に大学を卒業し、内定も手にしている。
だから、それが区切りだった。
桜舞う春の夜。
ある終わりを告げるのは、またも紫野であった。
語られていく真実は残酷で、だけどチープで。
だから、「さようなら」、なんて言葉で七年間の関係を終わらせられるはずもなく。
それは恋ではない。
男女の愛でもない。
二人の関係を表す言葉は、それこそ、きっと――
『さよならお兄ちゃん』
作者名:佐井 識
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