福山陽士/古池ケロ太『千年ヒヨコと宇宙の卵』
副題【500年以上前のヴェネツィアで繰り広げられる、少年と人形のボーイミーツガール】
暗殺者として育てられてきた少年。彼は盲目的に『神様』を信じていた。
そんな折、請け負った仕事先で相対したのは、かなり異質な存在だった。
女性の姿をした『それ』は、自分のことを千年生きている人形だと言う――。
主人公は13歳の少年。
未熟で多感な年頃の彼が背負う、暗殺者という肩書き。
神の啓示か、それとも罪か。迷い、悩む彼の心の成長が、本作の胆となる。
少年が出会った人形は、『卵』を温めるためだけに作られたのだという。
この卵の謎も、物語に大きく作用している。
千年も生きている彼女は、人の世で何を見てきたのか。
彼女の言葉は、少し『カタコト』だ(それがまた、良い味を出しているのだが)
そんなカタコトの彼女が語る言葉は、少年のみならず、我々読者である『人間』にも深く突き刺さるのだ。
副題で記述の通り、舞台は水の都ヴェネツィア。
観光都市として有名だが、本作もその独特の地形をきちんと描いている。
常に足元が濡れているような錯覚に陥る情景描写も、見どころの一つだろう。
現在はネットで検索するだけで世界中の景色が見ることができる、便利な世の中だ。
ヴェネツィアがどういう街なのかご存知ない方は、読書前、読書後――どちらでも――これらの風景を知れば、より強く物語を身近に感じられるかもしれない。
この物語のラストは、冒頭からはまったく想像できないところに行きつく。
創作と史実が合わさる時――間違いなく衝撃があなたを襲うだろう。
転がるのは卵か、それとも――。
『千年ヒヨコと宇宙の卵』
作者名:古池ケロ太
作品URL:http://ncode.syosetu.com/n4954br/