宮沢弘/21世紀サバ缶『イリヤ、宇宙考古学の講義を受ける』
副題【勝手に想像する、「知は力なり」】
「銀河潮流」や「重力航路」という言葉からは、私は宇宙の大規模構造を思い浮かべた。ダークマターの多いフィラメント(だろうか?)に沿って、銀河は移動しているという。どうだろう、まさに「銀河潮流」や「重力航路」ではないか。
もちろんこの作品でのそれらの言葉は、そういう意味ではない。だが、作者の頭には、それらのイメージがあったのではないかと思う。
そして、これも作者の頭にあったと思う。「先進波」というものがある。いや、「ある」と言ってかまわないのかは難しいところなのだが。数式上では存在する。未来から過去に向かっている電磁波だ。今、電波を出したとしよう。先進波は、未来から今に向かって来ていることになる。あくまで数式上ではだが。
電気系、電子系、情報系だと、大学の1年生か2年生での電磁気学の講義で習うだろう。だが、その時点では、「そんなものは観測されていない」として、先進波に関する項は「無視する」と習うと思う。その時点では、そうするしかないのだが。
さて、もう1、2年してもうすこし勉強すると、たとえば「ファインマン物理学」をきちんと使うような段階になると、「あらゆる電磁波によって、先進波はキャンセルされている」と習うと思う。まぁ、先進波は存在するのだが、1−1=0という感じで観測できない、存在しないのと同じというあたりだ。
だが、疑問が残る。先進波はどこから来ているのだろう。もちろん、正解は今、電波を出している発信源だ。だが、その発信源は、先進波の終着点でもある。奇妙ではある。
さて、ファインマンは「先進波はキャンセルされている」と言った。だが、これも奇妙に思える。「ノイズになっている」のではなく、「キャンセルされている」のだ。そんなに見事に1−1=0となるだろうか。まぁ、計算上はなるのだが。
また、作中では「重力航路」と「情報量の密度」とに触れられている。これは、私には「マックスウェルの悪魔」を連想させる。マックスウェルの悪魔というアイディアは実に奇妙だ。なにしろ、熱エネルギーと情報の間に切り離せない関係があることになってしまうからだ。このあたりも、大学の工学系なら1年生か2年生で、その奇妙な関係を習うだろう。
さて、本作とはたぶん関係のないことを書いてしまった。これらをどう料理するか、あるいは想定する現象をどう料理してこれらに落とし込むか、あるいはこれらからどのように発想を膨らませるか。それは、これらの知識を持たない場合よりも、持っている場合のほうがやりやすいだろう。さぁ、ファインマン物理学で学びたまえ。
なお、作中に「バーバ・ヤーガ」という言葉が登場する。これは北欧、ロシアに伝わる民話に登場する魔法ないしは妖術のようなものを使う婆さんだ。民話では、だいたいは悪さをするのだが、登場人物を助けることもある。別に、ヤーガさんに対して、幼児語で「バーバ」と呼び掛けているわけではない。
『イリヤ、宇宙考古学の講義を受ける』
作者名:21世紀サバ缶
作品URL:http://ncode.syosetu.com/n0223de/