第七話 再会そして
だかしかし、実際に待つのは俺の方だった。
商店街の入り口で、俺は真剣にミケラの実を食べながら、捕まったと聞くユーシャとついでにリルマを待った。
一時間立った頃には、見物人がぽつぽつ集って来た、男が多い。
二時間たったとき、俺の自慢の視力と地獄耳がそれを捉えた。
「来る!」
俺の声を皮切りに、周りの男たちがざわめき立った。
しかし、なかなか訪れない警備隊に呑気に空を舞うカラス、なんだウソかよという声まで出てきたころ、見つけた第二者が現れた。
「ほ、本当だ!馬が見える!」
「うわマジだ!」
まるでパレードを見守るかのように男たちは歩み出ると、噂の美女を見ようとしてか活気だった。
俺はというと、周りの男たちとは全く別の姿を探した。
紫の髪の少年、紫の髪の少年……。
いた!
馬に乗った警備隊三人を先頭にしたそのすぐ後に、縛られて馬にまたがった薄い青色の髪と瞳の美女、そしてその後ろに同じく縛られたユーシャの姿があった。
何やら前にいる美女と言い争いをしては後ろの警備隊二人に怒られている。
「うおおおお!」
俺は走った、ユーシャの元へ、よく無事でいてくれた!
いきなり走り出した俺に周りの男たちはギョッとしていたが、かまってはいられない。
そんな俺の形相に驚いてか馬に跨っていた先頭の警備隊三人が武器を構えるが、俺はそのまま突進する。
そして、警備隊の数メートル前で土下座をする形をすると、そのまま勢い良く砂埃を立てながら警備隊の前に土下座の体制のまま滑り込む。
「すまない!何をしたのか分からぬが、多分誤解だろう!そのユーシャという者は俺の連れ!どうか縄を解いてもらえないだろうか!決して!決してリル丸とやらの仲間ではないのだ!」
俺は顔を上げず、勢い良くそこまで言うと、警備隊の出方を見た。
謝るのなら慣れている!実家の姉が繊細すぎて良く親に俺の不躾を報告されていたからだ!
緊張した静寂が通り過ぎる。
流れる風とともに、どこかでまたカラスの鳴き声がした。
「リル丸って何……リルマなんだけど」
呆れたような女の声が聞こえた。
その声を始めに、どこかで緊張が解けた空気が流れ出した。
「ええい!立て立て、またこいつに魅了された男が襲ってきたかと思ったが、違うではないか!とにかく立て!邪魔だ!」
俺は視線を上へと移動させる、そこにあったのは呆れ顔の警備兵3人と美女、そして別れた時と何ら変わりないユーシャのニコニコ顔であった。
「ユーシャ!よく無事で!」
勇者?勇者?
警備兵3人は困惑顔で周りを見渡す。
とうのユーシャは少し困ったニコニコ顔で俺に言った。
「お久しぶりです戦士さん。戦士さんこそお変わりなさそうで何よりですよ」
縛られて馬に乗ったものと、その足元で土下座しているものの会話でもないが、とりあえず俺たちは再び出会った。
「この星でのその名前の意味が分かったので、あまりその名前言ってほしくないんですけどね……」
と極小さな声言ったユーシャの言葉は、聞こえなかったからというか意味が分からず、俺は聞き返した。
「ん?どうしたユーシャ?」
ユーシャは、サッと元の笑顔に戻ると言った。
「戦士さんの顎がいつも通り割れ顎で安心しましたよって言ったんですよ」
そうだったか?
「そうだったか?まあいい、俺の顎で安心するならどんどん見てくれ」
笑う俺に、ユーシャの前にいたリルマが同じように笑った。
「あはは!何あんたたち仲良いわね恋人?とんだデコボコなんですけど!」
何というか、先日あった宝石のようなイメージはどこへやら、腹を抱えて豪快に笑うリルマに俺は少し驚いたが、まあ良いと一緒に笑った。
「変なこと言わないでくださいよリルマさん、戦士さんとは昨日会ったばかりの、魔王を倒すためのただのパートナーですよ」
ユーシャの言葉には俺も同意だ。
立ち上がって警備兵たちに向かって叫ぶ。
「そうだ!俺たちは魔王を倒すために昨日パーティを組んだばかりの魔法使いと戦士だ!警備兵たちよどうか聞いてくれ、このユーシャという若者は、ただただ盗まれた馬車に乗っていただけの不運な若者なのだ!少々歯に衣着せぬ者だが、悪いことをするような奴ではない!」
警備兵たちは俺の言葉を理解したか、全員で顔を合わせて頷いた。
「ならば、お前はこのユーシャの仲間だと言うのだな?」
俺の正面、真ん中の奴が俺に聞いた。
「ああ!」
俺は豪快に答えた。
すると、真ん中の者の左右にいた警備兵達が馬から降り、何やら作業を始めた。
うむ、ユーシャの縄を解くのだな。
と思ったが、二人は俺を縄でぐるぐると縛りだした。
何をやっているのかと思ったが、想像外の出来事にしばらくなすがまま縛りあげられて、気が付いたらぐるぐる巻きにされ捕まっていた。
「なぜ縛る!」
俺の声にまず返ってきたのはユーシャの声。
「僕はなぜ縛られるのに堂々となすがままだったのか聞きたいですよ……」
しかしユーシャの声に答える前に、中央の警備兵が立派な紙を取り出すとそれを掲げて俺に言った。
「壊れた酒場の修理費4千ウィル、秘蔵の酒含む壊れた酒代2千ウィル、その他もろもろの損害賠償4千ウィル、しめて1万ウィル、とりあえず、事務所まで来てもらうから、話しはそこで聞こう」
?????
最近流行の漫画的に言うと、俺の頭にはそのマークが沢山つけられていただろう。
警備兵は続ける。
「昨日、酒場で酔っ払った二人がケンカをし、馬車で店内をめちゃくちゃにしたんだよ」
俺は頭にその言葉が浸透するのを待った。
少しの間だけ、平和な空気が流れた。
「はいはい、馬が無いから、ついてきてついてきて」
俺を縛った警備兵のうち若い方が俺をユーシャの後ろに連れて行く。
呆然とする俺を連れて、列は再びゆっくりと城に向かい移動を始めた。
「なぜだ……」
俺は呆然自失のまま、城へと歩く。
「なぜだーーーー!」
俺の声に警備兵たちは耳をふさぐ。
俺が城の門に戻ったのは、それから数十分の後だった。
縛られた俺を見て、何を勘違いしたか門前で待っていた男たちの数名は走って逃げて行く。
なぜこうなった。