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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第六話 城に着いたはいいものの

3、トリデ城


 トリデ城城下町は想像通り活気に満ちていた。

 道は人にはあふれ、道には若い娘がいたら胸踊らせるような屋台が並んでいた。

 素朴な家から俺の家くらいある屋敷まで、色とりどりの建物が並ぶ。

 ユーシャがいたらどういう反応をしたのだろうか……。


「まったく、魔物に会うわ、盗賊に会うわ、あんたは厄の神でもついてんのかね、まあ、あんたたちにとっちゃワシもそうかもしれんがな」


 ヤケクソぎみに笑う親父は、俺の後を歩きながらさっきからぶつくさと文句を言っている。

 親父はどうやら馬車仕事の組合に入っており、そこに行けばなんとかなるのらしい。

 それは良かったのだが、問題はユーシャだ。

 あの後、俺はユーシャを探そうと走り出りだしたが、どこに居るか分からないでしょうと親父に止められ、城のナントカ協会に協力に捜索願いを出しに城へ向かったわけである。

 困った。

 最初にできた仲間が早速さらわれた上、今頃盗賊に何されてるかも分からない。

 もしかしたら、あんなことやこんなことを……。


「うおおおおお!ユーシャ!すまない俺がついていながらー!」


 衝動に駆られ、声の限り叫んで顔を覆いしゃがみこむ俺に、親父が焦って俺を止める。


「ちょっ、街中ですよ、街中、恥ずかしいから静かにしてくださいよ」


「親父!俺はどうしたらいいんだ!ユーシャに何かあったらユーシャの家族に俺は何て言えばいいんだ!」


 俺は親父の肩を掴んで顔を覗き込んだ。

 親父の顔は、涙で世界が歪んでいるため良く見えないが困った顔をしているのは何となく分かった。


「だから、そうならないように、警備隊に協力を要請しに行くんでしょう、ああ、何で会って数時間の人間にそこまで情が移せるんですか尊敬しますよ本当」


 親父は俺に負けないように叫びながら、これ以上近寄らないでくれと言わんばかりに俺の肩を力の限り押し返した。

 そして回りの視線に気付いてか、急にへらりと笑って頭を掻きながらおじぎをあたりに振りまく。


「いえ何にもないですよ、え?痴話喧嘩?やめてください!ワシには孫がいるんですよ、ああもう戦士さん立ってくださいよ、困るんですよ、はい一歩、一歩」


 一歩一歩、親父に促されながら歩く。

 やがて屋台の姿もぽつぽつと消え、人々の姿が商人や旅人から戦士や貴族に変わってきたときにはもう城も目の前という場所に立っていた。

 目的の場所は、その城の入口のすぐ近くに仰々しく構えていた。

 村にも時々来ていたから分かる、警備隊の印、斧と剣そして盾と蛇が描かれた旗の下、大きな建物は要塞のようにそびえ建っていた。

 いまだ明るい気分になれない俺でもその建物には関心してしまった。

 何て頑丈そうな建物なんだ、俺が剣を振り回してもピクリともしないだろう。


「さて警備隊事務所に着きましたね、じゃあとっとと手続きを済ませましょう、ワシは早く組合に戻りたいんですよ」


 関心している俺を残し、親父はとっとと入って行ってしまった。

 しかしこの建物、ユーシャと俺の力を持ってしたらどうなるだろう?

 一人残された後、ふと考えたが、考えてもそんな状況にはならないだろうという結論に達し、やれやれと親父の後をついて行った。

 しかし親父はなぜか、要塞……いや、警備隊事務所の入り口で足を止めている。

 何だと親父の前を覗きこんだ俺は軽い衝撃を味わった。

 脱獄死刑囚名前はリルマ、そういう張り紙が、入口近くの掲示板に張ってあったのだ。

 その人相画きには、確かにさっき会った宝石のような風貌をした馬車泥棒が、少しいかつい表情で描かれていたのだ。


 一睡もできなかった。

 昨日警備隊事務所で手続きを済ませ、馬車組合で保険の金を少しばかり貰い親父と別れるとすぐに、城下町やその周り、あげくに海の中まで一晩かけてユーシャを探した。

 結果徹夜をしてしまった。

 何をしたか知らないが相手は死刑囚、早く見つけなければユーシャの身に関わると思いやったことだが、肝心のユーシャはユの字も見つからない。


「俺がもっと早くに崖の下に落ちた人形を拾い親父に見せていれば真に合ったかもしれん……」


 俺は自分の修行不足を悔いた。

 体力のある俺でも一晩中走り回って海にも潜ったのには堪え、商店街の端に座り込んでいたら、何故か梅干しを貰った。


「これで二日酔いも覚めますて、何、旦那気のよさそうな人だ、女はまた寄ってきますよって」


 俺は梅干し売りのお婆さんの後ろ姿を見送ると、貰った梅干しを食べた。すっぱい。

 しかしこれで元気が出たような気がする!ありがとうお婆さん!叫ぶと、お婆さんはにこにこと手を振り返してくれた。

 俺は剣をかつぎ再び歩き出した、朝の商店街はこの暑い夏でも少しばかり涼やかで、準備に明け暮れる商人たちの姿はどこか新鮮だった。

 と、しばらく歩いた所で、にわかに商店街がざわつき始めるのに気がついた。

 見ると商店街の真ん中、小さな噴水広場の一か所に町の者たちが旅人を取り囲んでなにやら話を聞いていた。

 俺はそこから離れた一人の商人を捕まえると、聞いてみる。


「騒がしいな、何があったのか?」


 商人は待ってましたと言わんばかりに勢いよく俺に話し始めた。


「死刑囚がね、今日隣町で見つかったってさ!リルマだったっけか?」


 リルマ、どこかで聞いたような名前だな。

 一瞬考えた後、俺は張り紙の主を思い出した。


「親父、その死刑囚、髪と瞳が青いやたら華奢な美女ではないか?」


 俺の問いに、商人はぽんと手を叩く。


「そうそうそれそれ、一国を滅ぼしかけた傾国の美女、海の涙リルマさ!」


 俺はくらりとした、そんなことをしたのかあいつは。

 早く、早く行かなければ!


「ありがとう親父よ!」


 俺は言うが早いか、他にも誰かに言いたげにニコニコそわそわしている商人をそこに置き、走り去る。

 そして聞き忘れてたことを思いつき、再び商人の元に走って戻った。


「親父、その死刑囚は、今どこにいるんだ?」


 場所を聞かなくてはどこにいくかが分からない。

 親父は手をもみながら俺に近づくと、声が漏れないように手をかざし、耳元でひそひそと話し始める。


「いやねえ、もうすぐここを通るはずみたいなんですけど、待ってたら来るんじゃないでしょうか、警備隊につれられた美女リルマが、いやあ、兄さん美女が見たいなんて、見かけによらずアレだねえ」


 もう見てしかも荷物と連れを持って行かれたわけだが。


「分かった!ありがとう親父よ!」


 事情を言ってもいられない、俺は再び商人から走り去ると、しばらくしてまた忘れていたことに気がついて三度商人の元に走り戻った。

 店の果物を整理していた商人は、またきたと少しズルッと足を滑らた後、俺の言葉を待った。


「親父よ!紫色の髪とこう、何か星の形をしたピアスをした少年っぽい者もいなかったか?」


「少年っぽいものって、何か分かりませんが、リルマの仲間が一人捕まえられているそうですよ?名前までは知りませんがね?」


 俺はぽかんとしてしまった。


「ユーシャだ……」


「ゆ、勇者?」


 親父もぽかんとすると、首をひねった。


「あの、戦士さん?」


「ありがとう親父よ!そこのミケラの実貰えるか?」


 俺は御礼に親父が整理していた果物を3つ貰うと、言われた金銭を渡した。


「あの、戦士さん、もしかして……」


 商人はうずうずと何か聞きたそうにしていたが、待ってはいられない、俺はミケラの実を食べながら、商人の元を走り去る。


「ありがとう親父よー!」


 ミケラの実は、非常に甘く、疲れを癒すには丁度良かった。

 待っていろユーシャ!

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