第四話 ユーシャの力
「こ、これは……」
俺はユーシャに目をやる。
ユーシャはぽつんと立ったまま俺の活躍を見ていたようだった。
俺は剣を納め、ユーシャに近づく。
「ありがとう!ユーシャ!君のおかげで助かった!しかし何だ、すごい力だな、どういうものなのだその魔法は」
ユーシャは何も言わず、ニコニコと手をかざすと俺の額にその手を当てた。
すると、まるで火にかけられたヤカンが火から下ろされ蒸気が収まって行くように、みるみる力が収まっていく。
「オッケーですよ」
ユーシャがそう言ったときには、剣の重さも身から湧き起こる力もいつも通りに戻っていた。
首を傾げる俺の横を通って、ユーシャは蒸発したゼリー人間の側に座りこむ。
そこから「グルース」を拾い上げると、じっと見た。
グルースはモンスターを倒すと手に入る石で、モンスターによって様々な形をしている、ゼリー人間たちのグルースは白く濁った黄色いガラス玉のようだった。
モンスターは、命を引き取るとグルースを残して蒸発する、このグルースがそこそこの値で売れるのだ。
モンスターを倒した懸賞金というやつだな。
どういうわけか、強いモンスターほど美しいグルースを持つ。
これはモンスター研究所で研究されてるらしいが、難しいことは良くわからんのでグルースが何に関してはそいつらに任せることにしている。
「132番と133番ですね」
地獄耳のために聞こえたユーシャの小さな呟きは、ん?と思ったが良く分からないので右から左に俺の頭を通り抜けた。
グレースを袋に入れるユーシャに、山分けではないのか、と少し不満に思いながらも、まあ良いユーシャのおかげでこの危機を超えたも同じだからな、とうんうんと頷いた。
立ちあがって俺の方を振り返ったユーシャに、俺は笑いかける、気にしなくていいのだぞ、そのグレースはお前のものだ。
ユーシャは変な顔をして首を傾げる。
俺は側に落ちていた俺の荷物とユーシャの荷物らしきものを取ると、ユーシャの元に行きながら問いかける。
「いや、すごい魔法だったな、あんな魔法見たことも聞いたこともないぞ、どんな魔法なんだ?」
「なんてことありません、クーム体に対し圧力をかけ×××が○○○で……」
笑顔で聞いているが、最初の方から意味が全く分からず、俺はユーシャの言っている言葉の意味を考えることを途中で止めた。
うむ、流石魔法を使う者は頭が良いな!
「……なんです聞いてませんね」
ユーシャは途中で説明するのを止めて、俺を見上げる。
「うむ、しかし、何だかすごいことは分かったぞ!ユーシャの使う魔法はすごいな!」
本当にすごいと思い、俺は笑った。
「まあ、ぶっちゃけると、僕は誰かをチートにすることのできる魔法を使えるんですよ」
ん?
ユーシャの発した言葉に引っかかりを感じ、俺は問いかける。
「ちーと?」
「自分以外の誰か一人をこの世界最強の存在にすることのできる魔法が使えるのですよ」
固まる俺から自分の荷物を取りながら、ユーシャは平然と言ってのけた。
「じゃあ、魔王城に行きましょうか、戦士さん」
「う……うむ」
馬車の向かうはずだった道の向こうへと足を運ぶユーシャの左斜めについて、俺も歩き出す。
そして数歩歩いた後。
「誰かを世界最強にするとは、それはとんでもなくすごいことではないのか!」
とユーシャに向かい叫んだ。
そして一瞬遅れた後、脳がもう一つの情報を認識して、俺は再び叫んだ。
「魔王城に行くとはどういうことなのだ!」
俺の叫びにいつの間にか耳を塞いでいたユーシャは、俺の叫びが終わると同時にやれやれと手を外した。
「すごいもなにも、だから魔王城に行くんでしょう、僕はすごい魔法が使える、あなたその力で魔王が倒せる力を得た」
ユーシャはすらすら言うと、ニコリと笑った。
「よろしくお願いします、戦士さん」
俺はしばらくその場で口を空けるしかできないでした。
ユーシャの後ろ姿は小さく、実にどこにでもいる少年の姿だった、しかし、俺の目には誰よりも恐ろしいやっかいな存在に見えたのだった。