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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第三十八話 最後の力

 ずっと目を閉じていたような気がする。

 それとも一瞬か。

 目を開くと、俺は何もない白い空間に立っていた。

 何だろう、ひどく懐かしい空間な気もするが、どこで感じた記憶かさえも上手く思い出せない。

 ふいに、後ろから声がかかった。


「戦士さん」


 振り返ると、ユーシャがそこに立っていた。

 いつもの表情、いつもの笑顔で。


「ここにいたんですね、戦士さん」


 何だ?探していたのか?さて、俺はどこでユーシャとはぐれてしまっていたのだろう。

 ユーシャは、そんな俺をじっと見ていたが、やがて口開いた。


「戦士さん、今までありがとうございました」


 何を言う、礼を言うのはこちらの方だ。

 ありがとうユーシャ。

 俺の仲間となってくれて、力を貸してくれて。

 さて、それはそうと、まだ俺にはやり残したことがあるような気がするのだが……。

 まだ、ありがとうには早いような気がするのだが……。

 ユーシャは続ける。


「おかげで、目的が果たせそうです、色々楽しかったですよ、今まで正直もう駄目だと思うほどのこともありましたが、戦士さんに会えて良かったです、選んだのが、戦士さんで良かったです」


 何を言っているんだ?

 まるでお別れのようではないか。

 俺は笑いたかったが、なぜか上手く笑えなかった。


「じゃあ、そろそろ行きますね、がんばってください、戦士さん」


 ユーシャはこっちに向かってきたかと思うと、俺を追い抜きそのまままっすぐ歩いて行く。

 待ってくれ、まだ、話したいことがある。

 見せたいものだって沢山あるんだ。

 ……それが俺の思い出したかったことだっただろうか……?

 しかし、俺の足は動かなかった。

 地面に貼りつけられたように、ピクリとも動かなかったのだ。

 そんな俺の気持ちを汲んでか、先を行くユーシャの足が止まった。


「ああそうだ、戦士さん、結婚してくれって言ってくれましたっけ」


 俺はいきなり全身滝汗が流れる思いがした。

 えーと、だな、あれはえーと……。


「非常に残念ですが、僕にも色々と複雑な事情がありまして、丁重にお断りさせてもらおうと思います」


 ユーシャはそう言うと、ニコニコとしながら頭を下げた。

 ああ、まあ、そうだよな、そうだ、当たり前だ……。

 ええい、何をがっくりしている!当たり前ではないか!


「でも……」


 ユーシャはニコリと笑う。

 次の瞬間、ユーシャは、夢で見た、エリアドルという名の髪の長い少女になっていた。


「僕の中の彼女は、喜んでいたような気がしますよ」


 そうして、軽やかに俺の元まで走り寄ると、背伸びをして俺の頬らへんにキスをした。


「じゃあ、戦士さん……」


 少女の姿をしたユーシャは、首を傾げると手を上げた。

 急に、何か落ちるような感覚がした。

 待ってくれ、ユーシャを置いてはいけない。

 まだまだ世界には、もっとお前を笑顔にできるものがあふれている。

 教えたいんだ。


「さようなら」


 落ちる感覚の中、ユーシャの声が言った。

 バイバイと、ユーシャは手を振っていたような気がする。



 俺は目を覚ました。

 そう、俺は魔王に胸を刺された、刺されて……しかし刺された場所には確かにひどい傷の跡があるがそれはもう塞がり、心臓は今も脈打ち続けていた。

 それどころか、今まで湧きあがったことのないような力が全身から噴き出るような気分だった。

 今までユーシャがかけてくれた魔法の数十倍……数百倍の力だ。

 手を見ると、俺の体が光っているのが分かった。

 何だこれは。

 ユーシャか?ユーシャが魔法をかけてくれているのか?

 俺は、ユーシャが側にいる感覚を感じていた。

 分かった、ならばやるべきことは一つだ。

 俺は首を回すと、視界に魔王の姿を捉えた。

 魔王は明らかに狼狽し、怯えていた。

 何か言っているような気がするが、聞く耳は持たない。

 俺は魔王の目の前まで来ると、拳を固め、顔面めがけて思い切り振り上げた。

 拳が顔面に着く前、一言だけ、魔王の言葉が耳に入った。


「……つまんねえ……」


 次の瞬間、魔王の姿は消しとんだ。

 粉々に弾け飛び、肉片となった魔王は壁にはりつき、やがてそれも水が蒸発するように消えた。

 コロンと、壁から赤い巨大なグルースが落ちたが、それもまた床に落ちたと同時に粉々に砕け、さらさらと砂へと姿を変えた。

 力が、徐々に元に戻るのが分かる。

 元の俺に戻る。

 ああ、これで、この世界も平和になるのか、ユーシャも、自由になるのだな。


「ユーシャよ!」


 笑顔隠せずユーシャのいた位置を振り返ると、そこには悲痛な面持ちのミミノスがぽつんと立っているだけだった。

 両手に、何か小さなものを持っている。

 まさか。

 俺は恐る恐る近付くと、ミミノスの持つそれを覗きこんだ。

 白と黒の色の混ざった、真珠のようなグルースが、その手の中にあった。

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