第三十七話 ミミノス
少女の声は泣いていた。
光の矢の檻に閉じ込められた、光輝く星のような姿をしたそれは泣いていた。
さっきまでの攻撃がこの者によるものであれば、決して弱くはないはずなのだが、どういうわけか弱い者をいじめているような気分になってしまいなんともばつが悪い。
俺は魔王に止めを刺すのを止め、光の玉の前でひざまずくと聞いた。
再び攻撃されるのではという懸念もあったが、なぜかそれはないという直感もあった。
「お前は何者だ?」
光の玉は俺の声を聞くと、はじけるような音を立てて光り輝いた。
「私の名前はロドゥ、……ひっく……おじいちゃんの……ラドゥの孫だ!」
気丈に言ったつもりだろうが、恐れがその中には潜んでいた。
ラドゥの……そう言えば、確かに孫がいると言っていた。
「どうしておじいちゃんを殺したんだ!おじいちゃんはすごく優しいのに!」
光の玉は震えながらも、今にも爆発しそうに刺のある光を弾かせていた。
「……」
俺は答えられなかった。
変わりに、いつの間にか隣にいたユーシャが光の玉に言った。
「ラドゥさんは、あなたを人質にとられ色んな悪いことをことをさせられていたのですよ」
「……」
ロドゥは、ユーシャの言葉に何も言わない。
その表情は読めないが、刺のあった光が収まり静かに辺りを照らす光となったことから、ユーシャの言葉が本当のことかどうか迷っているのかもしれないと感じられた。
そうか、ラドゥはこの子を人質にとられ、俺たちと戦っていたのか……。
光の玉は、俺たちの顔を交互に見ているかのようだった。
少し震えている。
「そんな、やだ、やだよ、おじいちゃん……会いたいよ……」
ロドゥの姿がどんどん光に包まれていく。
部屋中まで光が満ちた時、異常に気が付いた。
何かが起こる!
しかし、それを止めた人物がいた。
「ダメ!」
大きな光の矢が天井から飛び出し、ロドゥの体に当たるか当たらないかの所に突き刺さった。
部屋に満ちていた光は急速に影を落とし、後には微かな光と共に大きく震えるロドゥの姿があるのみだった。
「う……うわーん」
そして、また泣き始めてしまった。
「今……何を……」
俺の問いに答えたのはミミノスだった。
「生命蘇りの魔法だよ、駄目だよロドゥ、使っても悲劇にしかならないんだ、ラドゥから何か教わってないかい?」
見守るだけだったミミノスは、つかつかと俺たちの元まで歩いてくるとロドゥの前で腰に手をやりふんぞり返った。
「おじいちゃんからは……おじいちゃんからは、時空転移以外の魔法は使うなって言われてた……隠しなさいって、悪用されたら大変なことになるって」
時空転移以外の魔法?
さっきの光の矢の魔法みたいなもののことか?
それとももっと大きな力をこの子は隠しているのか?
ミミノスを見ると、彼女は「どうしようかねこれ」と言いながら首を掻いていた。
考え事をしていたらしいユーシャが、ハッと顔を上げる。
「あなたは……あなたはこの世界にいちゃいけない……」
「えっ……」
ロドゥは、傷ついたように言って一瞬だけ光った。
「あなたは……僕たちの唯一の……成功作だ……」
成功作……。
神になる実験と言うもののか?
しかし……そんなもの成功するはずない……。
「私、いちゃいけないの……?何で……?」
「あなたの力は巨大すぎる、多分、この世界でできないことなどない……」
ユーシャは傷つくロドゥに、冷静に言う。
この世界でできないことなどない……。
俺はイマイチその恐ろしさが想像できなかった。
「じゃあ、私、死んだ方がいい?おじいちゃんの所に、行った方がいい?」
ロドゥの声は震えていた。
ユーシャは、真剣なままだ。
「いや、多分それは……」
「死ぬこたないさ」
急にミミノスの声が飛んできた。
「ロドゥ、やりたいことあるだろ?言ってごらんよ」
ミミノスは、いつも細目だった目を開いて、何か悟ったような優しい表情をしていた。
こう見るとミミノス、なかなかの美少女である。
「やりたいこと?普通の村の女の子に生まれて、素敵な人と恋に落ちて、その人と結婚して、素敵な人生を送るの……」
ロドゥの声は泣いていた。
切ない願いすぎて俺まで泣きそうになる。
しかし、ミミノスは言った。
「多分半分は叶うね」
「えっ」
「えっ?」
「えっ!」
ロドゥの驚きの声にユーシャと俺が続く。
ミミノスは続ける。
「ロドゥ、良く聞いて、あんたは今から1532年前に行って、ミミンコ村のサミさんと言う所に行くんだ、彼女のお腹の中の赤ちゃんはもういない、後は分かるね?その子変わりにサミさんの子供として生まれるんだ、神の力も、少々はなくなって生まれるだろう」
まるで何もか知っているかのようにミミノスはすらすらと言う。
「……いいの?」
「いいさ、きな」
ロドゥの周りにあった光の矢の檻が消えた。
それと同時に、ロドゥは飛び出し、部屋の中を飛び回った。
「嬉しい!嬉しい!ありがとうお姉ちゃん!」
ミミノスは、帽子を深くかぶると、いつもの表情でにししと笑った。
「私!お姉ちゃんみたいになりたい!なれるかな!」
ロドゥは、飛びまわりながら、段々姿が小さくなって行っていた。
ミミノスは答える。
「なれるよ、そのまんま、私になるんだ」
「うん!」
そして、ロドゥは部屋の中心に来たとたん、一気に光を放ち、消えた。
「ミミノスさん、あなたは……」
ユーシャは、茫然とミミノスを見ていた。
ミミノスはまだ笑ったままだった。
俺ももちろん茫然とその光景を見ていたが、いきなり何かの衝撃を受け、視界が揺れた。
良く見ると、胸から何かが出て、血を流している。
「ははは!馬鹿が!馬鹿が!」
背後から、マオウの笑い声が聞こえる。
「戦士さん!」
遠くから、ユーシャの叫び声が聞こえる。
大丈夫だ、そう言わなければ。
安心させなければ。




