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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第三十六話 少女の泣き声

「え?お前らそうなの?え?いやそうだけど?え?」


 魔王はいやらしく笑いながらもあきらかに狼狽していた。

 俺は顔からすべて、全身が赤くなる思いだった。

 何を言っているんだ俺は!穴があったらもがいて入りたいが、魔王につかまれていて身動きひとつできない!

 しかしその全員が「は?」となった次の瞬間、素早く行動を起こした者がいた。


「スキあり!」


 ミミノスが手をぐるんと回したら、何かに向けて光の矢を今度は彼女が放った。


「なっ!何だと!」


 魔王の驚きの声が聞こえるが、こっちは恥ずかしくてそれどころではない、恥ずかしすぎてやけくそと言う力までが湧いてきた。

 今なら行けるかもしれない。

 俺は全身に力を入れると、魔王の手を広げて行く。


「ぬをおおおお」


 少し少し、魔王の手は開いて行く。

 何かに驚愕し、俺に見向きもしなかった魔王もそんな俺にさすがに気付いたらしい、


「あっ!お前!」


 そして、再び俺を握る手に力を込めてくる。

 必死で耐えるが、魔王の力はすさまじく、このままではまた捕まってしまうと思った時、俺の脳裏にまた走馬灯のような思い出が駆け巡る。

 そう言えば父がこんな巨大な手の形をした筋力トレーニングマシンを買ってきたことがある、そんな思い出だった。

 全身手のようなものに包まれた姉は……姉……また姉だ……俺はなぜさっきから姉ばかり思い出す、いやこの際そんなことはいい、その姉はがんばって脱出しろという皆の声援を受けるが、静かに息を吸うと、こう言った……。


『こんなん脱出できる訳ないでしょう!この馬鹿がー!』


 トレーニングマシンは、姉の破壊力の前に粉々に吹き飛んだ。


「うおおお!この馬鹿があああ!」


 バキバキと何かが折れる音がすると同時に、俺は腕から解放された。


「ぐわああああ!」


 今度は魔王が叫ぶ番だった。

 振り返って魔王を見ると、俺を握っていた手は骨が折れたのか変な方向に折れ、皮膚を破り突出した骨により血が流れていた。

 着地した俺は、手を抱きもがく魔王に今度は拳を固めた。


「これはルアー王子の分!」


 腹に一発、拳をめり込ませる。

 魔王は唾を吐き目を見開いた。


「これは!お前に殺されたユーシャの友達の分!」


 今度は顔面に拳を力いっぱい入れる。

 魔王は、目をつぶって耐える。


「これはリルマとミミノスの分!」


 今度は2発連続して脇腹に叩き込む。


「いや、別に私もリルマはんも魔王そんなに憎んでないと思うっしゃろけど」


 ミミノスの声が飛んできたが無視だ!


「そしてこれが……」


 魔王が目をつぶっているその隙に、俺は高く天井まで思い切りジャンプする。

 天井に膝がまがるほど足がついた。

 魔王が首を振る姿が真下で見える。


「はっ……!そんなものか!蚊ほどでもない!今度はこっちが……あれ?」


 そして俺は、そんな魔王に向け思い切り天井を蹴り、まっすぐに姿勢を正し落ちた。


「ユーシャの分だああああ!」


 そしてその頭上めがけて、頭突きをかました。

 ごいーん。

 頭の中で、そんな冗談のような鈍い音が流れた。

 冗談のような頭への衝撃の中、俺は倒れた。


「戦士さん!」


 歪む意識の中で、ユーシャの声を聞いたような気がする。

 俺は……。


「うおおおお!」


 立ち上がった。

 立った瞬間少しふらついたが大丈夫だ、頭から血が流れている感覚がするし視界が歪むが大丈夫だ、うむ、大丈夫だ。


「戦士さん!」


 ユーシャが俺の名を呼ぶ、声のした方に目を向けると、そこにはぐにゃぐにゃに歪んだユーシャの姿があった。


「ユーシャよ!大丈夫か!?そんなにぐにゃぐにゃになって!」


「ぐにゃぐにゃになんてなってませんよ!ミミノスさん!」


 ぐにゃぐにゃになったユーシャは振り返る、そこにはやはりぐにゃぐにゃになったミミノスがいた。


「はいよー」


 ぐにゃぐにゃになったミミノスは俺に手をかざすと、柔らかな光を俺に降り注がせた。

 温かい、心が休まるようだ……。

 心が休まって行くと同時に、視界も段々はっきりしてきて、ぐにゃぐにゃだったユーシャとミミノスはちゃんとした人の形となって行った。


「ユーシャ……ミミノス……」


 しっかりとした視界の中、ユーシャとミミノスが柄にもなく心配そうな顔で覗き込んでいた。


「魔王は……」


 思い出し、魔王の姿を探すと、真後ろに頭から血を流し気絶している魔王の姿があった。


「これは……」


「勝ったんですよ戦士さん、頭突き勝負で……」


 ユーシャが微笑みながら言った。

 そうか……勝ったのか……。


「止めを、刺さなければな……」


 ゆっくりと魔王に近づく、しかし、少女のすすり泣く声に気が付いた。

 気が付いてしまった。

 俺は反射的に、その声の主を探した。


「えーん……」


 声の主は、部屋の片隅、追い詰められ、光の矢の檻に閉じ込められていた。


「お前は……?」


 それは、星のような、太陽のような、光の玉としか言えない形をしていた。

 俺の頭くらいの大きさであろうそれは、なおくすんくすんと檻の中で泣いている。

 これは……モンスターなのか?


「ユーシャよ、これは……」


 ユーシャは真剣な顔で頷いた。


「僕も話すのは初めてですが……空間を超える魔法を使えるモンスターです」


 少女の泣き声は、荒れ果てた部屋の中頼りなく響いた。

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